第9話 みんなでもう一度、隠し部屋に行った。
僕がダンジョンに足を踏み入れると、当然のように牧羊(牛)犬のボスがぺったりと僕にくっついている。
ボスがついてくることに、アーサー兄さんは驚いたけど、ダメとは言わなかった。
先頭にウィル兄さん、ギルド職員の人、僕とボス、最後にアーサー兄さんの順でダンジョンに足を踏み入れた。
先頭のウィル兄さんはギルドの人に、「基本的に低層階ダンジョンらしく、順路は簡単な造りのようで――……」とか説明してる。
お願いだから、ボスはウィル兄さんの前には飛びださないでね。
僕の気持ちが通じたようで、ボスは大人しかった。
「で、ここが隠し扉です」
ウィル兄さんが冒険者ギルドの人にそう説明すると、一度ここに潜ったことのあるアーサー兄さんは「ほんとだ……マジで隠し扉できてやがる」と呟いていた。
ボスは嬉しそうに尻尾をパタパタしてる。「そうそう、このとびらのむこうに、おいしいお水があるの」と言ってるように。
隠し扉に入ると、噴水はあった。
ギルドの人がくるくると噴水の周囲を回る。ウィル兄さんが僕が宝箱を開けた場所をギルドの人に知らせると、ギルドの人は眼鏡を押し上げて、その場所を見つめる。
「えーと、ジャック君だっけ? ちょっときてくれるかな?」
「はい」
言われた通りにあの宝物が出てきた場所に立つと、またそこがピカって光った。
文字が浮き立つ。
――彷徨いし孤独なる魂を持つ者よ、時空の神から愛と幸を知る祝福を授けよう――
前と同じ文面だった。
僕の周りに光が漂って、その光は部屋の片隅に移動すると、また宝箱が出現した。
「うん、大丈夫ですねー……害はないでしょう」
「害はない……」
ギルドの人の言葉に、ウィル兄さんとアーサー兄さんは顔を見合わせてほっとしていた。
このダンジョンも大きくなる気配はないらしい。
ただ気になることがあると呟いた。
「ウィルさん、アーサーさん、さっきの文字読めました?」
「いや、光が強くなかったですか?」
「うん強かった。ジャックは平気か?」
「だいじょぶだよ。へいきだよ。よめたよ、文字。前と同じだったよ」
僕がそう言うと、ウィル兄さんとアーサー兄さんは僕を見る。
ギルドの人はうんうんと頷いてた。ギルドの人も見えたんだ……。
宝箱の前に四人が集うと、宝箱の表面に文字が浮き上がる。
――小さな子へ。またきてくれて、ありがとう。これをあげるからまたきてね――
子供向けの文面。
薄い光で記されてある。
これはウィル兄さんもアーサー兄さんにも読めたみたいだ。
「ジャック宛?」
「それっぽいなー」
「そのようですね」
ウィル兄さんアーサー兄さんギルドの人が口々に呟く。
僕は兄さん達とギルドの人を見上げる。
「あけてみろ、ジャック」
「いいの?」
「ミミックじゃなさそうだしな」
「危険はないと思いますから」
ギルドの人もそう言ってくれたので、兄さん二人はうんうんと頷く。
いえやと声をかけて宝箱を開けると、小さなボトルと食玩パーツの一部が一緒に入ってた。
ポケットに忍ばせていた前回宝箱から出てきたパーツの一部を取り出して、今目の前にある宝箱からでてきた足……脛の部分と思われるものとジョイントしてみた。
カチッと音がして、つながる。
足だ……。脛の部分だ。
「ウィル兄さん、アーサー兄さん、これ、みて、ほら、つながったの」
僕がつなげた部品を兄さん達に見せる。
「足?」
「足の部分?」
一番最初に出てきたのが人間の足の甲の部分だった。今は足の甲と脛の部分をくっつけてみたので、それがわかる。
ギルドの人は僕が握るその謎のパーツをじっと見つめる。
「魔力の回路が見えますね……かなり緻密な……」
眼鏡を押し上げて僕の手の中の謎のパーツを見るギルドの人……。
「きっと残りもこのダンジョンにあるのは間違いないでしょう。えーと材質はミスリルですか……集めるとギルドに報告が上がってる中でも、最小の――ゴーレムになるかもしれませんね」
「ゴーレム……」
「形状からして間違いないでしょう。ゴーレムのデザイン、サイズは様々ですけれど、ここまで小さなものは初めてです」
ギルドの人の言葉に、兄さん達は顔を見合わせる。
宝箱に入ってるボトルを取り出す。
「あと何このボトル……」
ガラスのボトルを取り出すと、ボトルの首のところにタグがついている。
――またきてくれたご褒美だよ。いつでもたくさん、おいしいお水がでてきます。またきてね――
タグにはそう書いてあった。
……ホラーっぽい。
でも純粋に、お誘い文句のような気がしないでもない。
このタグも兄さんとギルドの人にはちゃんと読める。
「そう、うちの犬も――……あー言ってるそばからボスが噴水の水を!」
ウィル兄さんがギルドの人に説明しようとしたら、ボスが噴水の水を飲んでる。
兄さんの声にびくっとしてボスは噴水から離れて、僕の傍にやってきた。
「おいしいお水だったから、ボス、飲みたかったんだよね?」
僕がボスにそう語りかけてもふもふした毛並みを撫でると、「そうなの~我慢できなかなったの~」というように、くーんと鼻を鳴らす。
「噴水のと同じお水かも」
「飲料水ですね……ダンジョン産の飲料水は売れますよ」
「水が?」
「メルクーア迷宮都市もサンクレルも上下水道はかなり進んでます。でも、ダンジョン産は飲料水では極上なのはご存じでしょ?」
ギルドの人がそういうと、ウィル兄さんもアーサー兄さんも頷く。
「こういうお土産も用意してる……ジャック君にどうしてもダンジョンに来てほしいって……このダンジョンの意志を感じますね。機会があれば、ジャック君はサンクレルにきて、スキルと魔法の素養調査を受けてほしいです」
ギルドのお姉さんはそう言った。




