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第8話 ぼくもダンジョンにもぐる


 デイジーお姉さんとマリアお姉さんに、「だめだめ」と勢いよく反対される。

 ウィル兄さんとアーサー兄さんは「あー言うと思ったー」的な表情で無言。

 お婆ちゃんはじっと僕を見てる。

 お婆ちゃんはどう思ってるのかな……原因はダンジョンだけど、僕のせいで、お爺ちゃんが死んじゃったし……でも、お婆ちゃんは僕を心配してくれたと思う。

 デイジーお姉さんやマリアお姉さんときっと同じ気持ちなのかな?

 お婆ちゃん。優しいんだよ。

 お爺ちゃんの葬儀の時も、ちゃんと食べて大きくなれってそう言ってくれた。


「ジャックが怖くないなら、連れて行っておやり、ウィルもアーサーも立ち会うんじゃろ?」


 お婆ちゃん!!


「お婆ちゃん! ありがとう!}


 五歳の僕より、おばあちゃんのほうがまだ身体は大きい。

 思わず抱き着いてみた。

 前世だったら、お前のせいだとか、罵られても当然のことをしたのに、お婆ちゃんは抱き着いた僕の背をとんとんって優しく軽く叩いてくれる。


 ウィル兄さんとアーサー兄さんは、僕も連れていくということで、ダンジョンに入る準備を入念にし始めた。

 やっぱり小さいダンジョンでも、準備を怠らないんだな……。

 マリアお姉さんは仕方なさそうに、ウェストポーチを僕に身につけさせてくれた。

 これは小さい容量ながらもアイテムボックスなんだって。

 ウエストにつけるのはまだ僕の身体じゃ小さすぎるから、サコッシュみたいに肩から斜め掛け鞄のように装備してみる。

 そして納屋からあるものをとりに走った。

 ウィル兄さんやアーサー兄さんみたいに、剣を武器にできない。

 スライムやワームみたいなモンスターもいるって、ウィル兄さんは言ってた。

 だから僕にも武器が必要だ。

 僕は孤児だったのを知ってたから……牧草の移動や、牧草地に生えた低木を抜いたり、畑の雑草を抜いたり小さいながらもお家の手伝いをしていたんだ……。

 そうしてたらおじいさんが僕にくれた農具。

 ヨキだ。

 枝割り用と、土いじり用を一つずつくれた。

 小さい僕でも取り回しできる。

 使い方はお爺ちゃんに教わった。

 僕は薪割用を腰に下げる。


「いいわね、ウィル兄さんとアーサー兄さんの前にはいかないこと。はいこれ、ポーション」


 戻ってきた僕にマリアお姉さんが僕にポーションを見せて、肩掛けしているウェストポーチに入れる。


「ポーション……いいの?」

「当たり前でしょ、ジャックに何かあったら、お婆ちゃんもデイジーもわたしもユジンだって、泣いて暮らすことになるわよ」

「ウィルやアーサーが怪我したときにも使えるでしょ」


 そうか……ダンジョンに潜るって、そういうところも考えて準備するんだな。


「ただし、そういうことができるのも、このうちのダンジョンだけよ」

「……」

「信頼してパーティー組んでも、大きなダンジョン攻略だと、こうはいかないからね」


 マリアお姉さんが言いたいことはなんとなくわかった。

 大きなダンジョン攻略は命がけだし、個人で用意したアイテムは分け与えることは……よほどの信頼関係があるかないか……それにもよるんだろう。


「はい」


 僕が大人しく頷くと、アーサー兄さんが声をかける。


「うちに出来たダンジョンが、洞穴レベルだって、わたしだってわかってるけど! わたし達の一番小さな弟なんだからね?」


 マリアお姉さんの言葉にアーサー兄さんはわかった、わかったわかったと両手をマリアお姉さんに向ける。


「心配はわかる。でも、これはいい機会だともウィルも俺も実は思ってる」


「は?」

「あぁ?」


 アーサー兄さんの言葉にデイジーお姉さんとマリアお姉さんが声を上げた。特に、デイジーお姉さんの方が……なんていうか喧嘩腰の声の上げ方だ……。

 デイジーお姉さん……見た目可愛いのに、そのドスの聞いた「あぁ?」はないと思うよ? 目つきも前世のいうところのヤンキーみたいだよ?

 ほら、アーサー兄さんがちょっと及び腰になったっちゃった……。


 アーサー兄さんはウィル兄さんに助けを求めるように、視線をウィル兄さんに向ける。こういう時のウィル兄さんは、一家の家長っぽい雰囲気になるよね。

 お兄さんとお姉さん達は年が近いから、もう自然とお互い兄妹感が薄いんだ。


「ジャックは五歳だけど、都市部だと、このぐらいの子が初級学校に行ってる。ダンジョン内で浮き上がったテキストフレーバーを読み取れたのも、ジャックの環境なら、本来、読めないはずなのにな」


 ウィル兄さんの言葉に、お姉さん二人ははっとしたように僕を見る。


「サザランディア大陸西南のこの地域――メルクーア大迷宮都市とサンクレルは、多分他所の国よりも、いろんなことが先にいってる。先進国といっていい。本来ならジャックにはいろんなことを俺達は学ばせておかないといけないはずだ――学校についても、死んだ爺さんは考えていたと思う。そうだよな? 婆ちゃん」


 お婆ちゃんはまっすぐウィル兄さんを見つめて、言葉の続きを促す。


「俺達だって、通っただろ。この土地で生きていくための――ダンジョンを抱えるこの土地の歴史やダンジョンによって進んでいく魔法や科学、ダンジョンの恩恵と――そこから出現するモンスターという危険も――……少し早いけど、ジャックが知っていい頃合いだと思ってる。この大陸で生きていくなら……」


「う……そう言われちゃうと……」


 デイジーお姉さんもそう呟いて、さっきの迫力をひっこめて、僕を見る。

 ウィル兄さんは、いつものように僕の頭を軽く撫でて、「行くぞ」と声をかけてくれた。




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