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第7話 冒険者ギルドの人がきた。


 サンクレルの冒険者ギルドから、調査の人がきた。

 ウィル兄さんはギルドの人から渡された書類に必要事項を書き込んでいる。

 これはウィル兄さんが現在どのぐらいのレベルがあって、ぼくのおうちのダンジョンを一度最奥まで潜りましたっていう書類。

 冒険者ギルドは発生したダンジョンの管理をしてるから、たとえ小さなダンジョンでも、時間が経過したら、大きくなる可能性が少しでもあるならギルドに連絡をするよう決められている。

 特にぼくのうちのミニダンジョンは敷地内に発生したから、なおさらだ。

 この酪農エリアはメルクーア大迷宮都市とサンクレル港街の中間地点。

 この二つの都市の人口の食を支える酪農エリアだから、どちらかの冒険者ギルドに申告しないとダメなんだって。

 ユジン兄さんのお勤め先がサンクレルだから、今日はサンクレルの冒険者ギルドの人が来た。


「なるほど、五層までの低層で、一階で隠し部屋を発見、モンスターはワーム系の出現率が高いと……あと気になるところが隠し部屋の噴水の水ですか」

「うちの犬も牛もなんか飲みたがって、犬なんかはダンジョンに潜ってしまったぐらいなんですよ。それと、噴水からなんかフレーバーテキストが浮き上がって、宝箱が出現しました」


 ウィル兄さんは僕を見る。


「義弟が言うには、何かの部品で、集めると形になる――と言うんです。素材は多分ミスリルです」


 ウィル兄さんに言われたから、大事にしていたダンジョンの宝物を持ってるけど、取り上げられないよね。

 冒険者ギルドの人が僕の目の前にしゃがみ込む。

 ダークエルフのお姉さんだ。褐色の肌に金髪で眼鏡をかけてる。


「僕のお名前は?」

「ジャック……」

「持ってるの見せてくれる?」

「……僕の」

「ダンジョンで見つけた宝物だもんね。とらないから、ちょっとだけ見せてくれないかな?」


 優しく諭すように促されて、おずおずと手のひらにあるパーツをギルドのお姉さんに見せる。

 陽光のせいか、お姉さんの眼鏡のレンズが光る。

 もしかして、鑑定してるのかな?


「これを見つけた時は光る文字だったのよね? ジャック君は文字読めるのかな?」

「読めたよ」


 僕がそう言うと、ウィル兄さんとマリアお姉さんは顔を見合わせる。

 僕は文字が読める。メルクーア大迷宮都市と港街サンクレルは僕が想像していた中世異世界とはほんの少し違う。

 識字率は高い。

 ダンジョンに落っこちて記憶が一時混乱してたから、どうやって文字を覚えたのかっていう工程は覚えてないけど、多分それまでお兄さんお姉さんが読んでいただろうと思われる絵本がうちに残っていたから、自然と覚えたのかも……とは思ってる。


「読めたんだ。覚えてるかな?」

「んと……なんか難しい言葉だったけど……」


 わかってるけど、うちのお兄さんとお姉さんが意外そうな表情をしているから……ゆっくり思い出すみたいにたどたどしく口を開く。


「――彷徨いし孤独なる魂を持つ者よ、時空の神から愛と幸を知る祝福を授けよう――」


 僕がそう言うと、冒険者ギルドのお姉さんは目を見開く。


「ってかいてあった」

「あの、ジャック君……きみは、スキルや魔法の素養確認調査ってしたことある?」

「ないよ。なあにそれ」


 スキル判定、魔力判定みたいなものかな?

 ギルドのお姉さんの顔からウィル兄さんとマリアお姉さんの顔に視線を移して、なあに? って尋ねるような表情をしてみた。

 ウィル兄さんが言うには、僕達みたいな孤児の両親は冒険者が多い。

 両親が持っていたスキルや魔法が子供に受け継がれていることがある。

 メルクーア大迷宮を攻略するためにはたくさんの冒険者が必要で、迷宮攻略を難なくできる未来の冒険者を育てる為に、冒険者ギルドが孤児が持ってる素養を調べるらしい。

 あと、メルクーア大迷宮都市とサンクレル港街には、学校があるんだとか。

 基本的な教養を身に着けて冒険者になったり、お勤めしたりするようです。

 ……僕が子供だからわかりやすくざっくりと要点だけそう教えられる。

 やっぱり、中世っぽい異世界じゃないな。

 魔法はあるけどかなり近代的社会機構だ。お姉さんが書き込んでるのも羊皮紙とか紙じゃない……前世で見たタブレットみたいなもの。動力は魔石とか魔鋼から取り込む魔素や魔力……。

 僕のお絵描き帳面も、多分、お婆ちゃんが作ってくれたと思うけど……街のチラシの切れ端を太い糸で縛って作ってくれたものだし。

 この家のレベルで紙があるんだから、科学も化学も文化も発展している。


「じゃ、一度潜りましょうか」


「ぼくもいく!」


 僕がそういうと、マリアお姉さんは「言うと思った……」と呟く。


「なんかわかんないけど、神様が、しゅくふくしてくれるなら、おじいさんに会えるよね」


 そんなわけがない。

 わかってる。

 でもこの五歳という年齢なら、この謎理論は押せば通る……気がするんだよ。


「ボスも行くの。お水汲まないとダメだって。牛にもあげたいの、お水……」


 ボスも尻尾を振って、ワンと吠える。

 そうだよ、行くよーって言ってるみたいに。


「今日は、ダメ」

「ええ~」

「ギルドのお姉さんが調査するからダメ」




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