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8話 影の英雄

数分前


 アルマーを抱えて屋敷を脱したイリーゼは、アルマーを見据えてすぐさま宣告する。「招集をかけてください。マスター。これは緊急事態です。悩む暇はありません」


 イリーゼに抱えられながらアルマーは震えながら「ならんッ!あんな奴一人に何を怯える必要があるッ!早く騎士団の元に行けッ!私が指揮するッ!貴様らの助力なんぞ要らん!」と吠える。


 イリーゼは溜息を吐き、「もういいです。少しお休みください、マスター」とアルマーの首を叩く。「な、何を…」とアルマーは声を洩らしながら意識を失う。


 イリーゼはすぐさまアルマーの懐を探り、「やっぱり持っているのね。結局は使うつもりだったのかしら」と取り出したものを掲げ、トリガーを引く。

 ボウガンを改造した特殊な携帯弓から赤い光が空に発射される。その光はハインドゴーン全体の目を引く程に大きな光を放つ。


 すぐさまイリーゼは南西区画に向かい、騎士団の集団の元に降り立つ。


 騎士団の人間がイリーゼの到着に驚き、その方に担がれた男を見て目を見開く。「き、貴様ッ!反逆者とは貴様だったのかッ!」と一斉に持っていた武器を抜き、構える。


 イリーゼはその様子に溜息を吐き、「ルード騎士団長はいらっしゃるかしら」と尋ねる。


 騎士達は武器を強く握り、「心配するな、騎士団長には会わせてやる。貴様の生死は知らないがなッ!」と一斉に襲い掛かってくる。


 イリーゼはアルマーを抱えたまま彼らの攻撃を軽やかに避け続ける。そうしていると、一つの声が響く。「何事だッ!お前らは何をしているッ!」と。

 騎士達の動きが一斉に止まる。騎士達はイリーゼから距離をとり、声の方へ視線を向ける。「騎士団長!こいつが今回の騒動の犯人ですッ!アルマー様も奴に捕らわれていますッ!」と一人の騎士が声を上げる。

 騎士達の間から、大柄な男が姿を現す。その男は、先ほどアルマーに状況を尋ねられていた高貴な騎士よりも高位の騎士であることが一瞬で分かるほどの威厳を兼ねていた。


 騎士は兜を外し、「団員が迷惑をかけました。イリーゼ様。状況をお教えいただけますか」と彼は静かにイリーゼに声をかける。


 イリーゼは微笑み、「ええ。屋敷が襲撃されました。ハルバード・アルマー様はその襲撃の最中に気絶されてしまいました。共に離脱して騎士団と合流する事が最善と考え、今に至ります。ルード様にはアルマー様の安全の確保とこの街からの離脱を優先していただきたく思います」と説明する。


 ルードは頷き、「承知いたしました。騎士達よ、聞こえたなッ!アルマー様を安全な場所まで護衛するッ!準備せよッ!」と周囲の騎士に告げる。


 騎士達は不満そうに、「何故そこの女に従うのですかッ!奴こそが反逆者なのではッ!」「こんな奴の話を聞く必要ありませんッ!我らの力があれば襲撃者を粉砕することくらい簡単です!」と口々にルードに伝える。


 ルードは表情一つ変えず、「騎士団長の決定は絶対だ。反論は許さない。彼女の助言は理にかなっている。我々が数刻前にここに構えた後、何か成果を上げたか?斥候に出した騎士は帰らず、戦力は減少する一方だ。敵はかの星の民である可能性が高く、各地の戦闘報告から見て我らが勝利する可能性は高いとは言えない。アルマー様がここに居られるという事は、屋敷が襲撃されたという情報は事実であることは言うまでもない。現在、南西区画と屋敷の両方に割く戦力は今残っていない。この状況で屋敷を襲撃されながらアルマー様を生きて連れてきてくださった彼女に勝る能力と策がある者がいるなら手を挙げてみよ」と一蹴する。


 騎士団員は一瞬にして沈黙し、周囲をきょろきょろと見まわす。


 ルードはアルマーを抱え、「衛生兵にアルマー様を見ていただく。その間に陣形を整え、撤退戦を開始する。いいか!」と叫ぶ。そして、周囲の騎士に聞こえないように「アルマー様を助けてくださりありがとうございます。イリーゼ様。緊急信号の契約に従い、貴方様の指揮下に入ります。」と伝える。


 「ルード様。私の指示は先ほど伝えた通りです。残された騎士達を率いてアルマー様を安全な場所に護衛してください。可能であれば、民間人の避難も先導いただけると嬉しいです。ここも必ず戦場になります、直ちに行動してください。ご武運を」と足早に立ち去ろうとする。


 「イリーゼ様はどうなさるのですか?」


 イリーゼは顔だけをルードに向け、「私はこの事態の収拾に尽力します。アルマー様を助けられても、帰る場所がなければ意味がないでしょ?」と笑う。


 「貴方様の勇気と献身に心からの感謝を。ご武運を」と周囲の騎士に気取られぬように態度には見せず、静かに表情で敬意を見せる。

 そして、すぐに周囲の騎士に視線を送り、「何をしている!早く他の騎士達を集めよ!すぐに移動を開始するぞッ!」と叫ぶ。


 その背中を見送り、イリーゼはその場を離れて屋敷側に向かう。




 中央街 


 赤い光を確認した後、アスターとシャルロットは屋敷に向かって走り出していた。「兄様、この状況はどういう事でしょうか…。緊急信号の何て…」と不安そうにアスターの方を見る。


 「まあ、ただ事ではないんだろうな。僕達四人がこの街に居て、騎士団が居て、それでも信号弾を使わざるを得なかった。つまりは、襲撃されてるんだろう。ここが」と呟く。


 シャルロットはその言葉を予想していたかのように頷き、「そうなのでしょうね。ここを襲撃できて、緊急事態とまで言わしめる相手。アーツバルトを襲撃したという星の民…でしょうか…」と呟く。


 「星の民?そんな奴がいるのか?」と首を傾げる。


 シャルロットはあららと言わんばかりに微妙な表情を見せ、「お兄様は情勢を聞いておられなかったのですね。アーカムは今、星の民と自らを呼称した集団に襲撃を繰り返されているんです。先刻ハインドゴーンが掴んだ情報では、アーツ様とその騎士団が壊滅し、アーツバルトが陥落した事。西の主要な街であるアインツマイヤーが南側から迫る星の民の勢力と対峙を続けている事の二つです」と伝える。


 アスターは目を見開き、「アーツバルトが…陥落した…?アーツさんが亡くなったのか?」と受け入れられないといった様子で言葉を繰り返す。


 「はい。ですが、アーツバルトの被害は少なかった可能性があるという情報も耳にしました。アーツ様とはお会いしたことがありますが、あの方であればそう言った采配をなさっていても疑問は浮かびません。聡明な方ですから」


 アスターはその言葉に同意し、「ミーティア達が無事だといいんだけど…」と呟く。


 シャルロットはその言葉にハッとし、「ミーティア様…。そうですね、無事であられるとよいのですが…。」と同じように呟く。


 そうしていると、屋敷が目前に迫る。そして、その道を阻むように一人の影が見えた。同時に、「間に合ったわね」と聞きなれた声の歓迎が耳に届く。

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