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4話 開戦の狼煙

 ???


 男は優しい風に揺られながら、屋上で景色を堪能する。「考え事何て珍しいわね。ディオス?」と背後から女性の声が響く。


 ディオスは景色を背後を一瞥し、不機嫌そうに視線を逸らす。いつの間にか姿を現したフードを被った女は視線の先で煌めく星の剣に視線を向け、「順調なようね。ハインドゴーンは壊滅したわ。アルマー家の現当主は本当に愚かな人間だったわ。ため息が出るほどにね。でも、面白い事もあったわ」と興味を誘うように笑う。

 「スレイヴ家と呼ばれる、アルマー家に代々仕える汚れ仕事のエキスパート。星の民を劣勢に追い込める程に力を有した隠れた実力者。この私と戦いになるほどの力を有した人類。私の侵攻時、彼らは事態をすぐに把握して最適な行動を指揮した。けど、アルマー家の当主様はスレイヴ達の指示に従わずに戻ってきてしまった…」とクスクスと笑う。

 「こちらにとってスレイヴ家は目を向けるべき脅威だと断定できた。けれど、あのお馬鹿さんはそれを理解していなかった。私の為に彼らに隙を作ってくれるほどに。だから、その行為に甘えて有難く使わせてもらったわ。一瞬にしてアルマーを護衛したハインドゴーンの精鋭騎士を壊滅。市民も誰一人逃さないといった勢いで始末してくれたわ。でも、あと少しの所で現れた緋色の大剣を持った男に彼らは倒されてしまったわ。結果としてはハインドゴーンは壊滅したし、私の任務は完遂できたけれど惜しかったわ。あんなに個人に興味を持てたのは久しぶりだったのに」と残念そうに呟く。


 ディオスは溜息を吐き、「そうか。目的が達成できたならそれでいい。ロードの復活は目前だ。だが、緋色の大剣使いとやら。我らゾディアックの視線を浴びれるほどの人間は危険因子でしかない。排除に向かえ」と告げて立ち去る。


 残された女は溜息を吐き、「やれるだけの事はやるわ」と呟いて影となり霧散する。






 約束の時


 扉がノックされる。ロムラが離れた後、まともに眠れていなかったシュバルツは視線だけを向けて扉が開くのを見守る。


 「返事がなかったもので、勝手に入らせていただきました。シュバルツ様、体の具合はいかがですか」と優しい声が響く。


 「ああ…。問題ない。こんな姿ですまないな」


 「いいえ。お気になさらず」とロムラはそれだけを告げて口を噤む。


 長い沈黙が過ぎ、シュバルツは静かに口を開く。「この地の為に散っていった騎士団員、アーツ殿に託された事。これからの事。多くの事を考えた。だが、何が最善かは分からなかった。アーツ殿に託されたように、アーツバルトに攻め入るという事はこれから先の全てを投げ出す事でもある。だが、ここで臆し、最後の時まで市民を騙して滅ぶ等という選択を選ぶことはできない。ラインハルト家が滅ぶ事で民は迷うかもしれないが、アーカムが存続すれば再び民は団結することが出来る。そうなると思っている。だが、そうならなかったら…。各都市が強固に結びついたことで生まれた平穏を築き上げたのはラインハルト家とイージス家だ。我々の地位が崩れた時、再び平穏が崩れてしまったらと思うと不安でならない」


 静かに話を聞いていたロムラは自分の顎を摩り、「そのような事を考えておられたのですね。確かに、それは難しい選択でございます。貴方様やアーツ様が築かれたこの平穏は非常に脆いものでございます。ハインドゴーンを含めた三大都市の地位が崩れてしまえば、今まで通りとはいかなくなるでしょう。ですが、シュバルツ様はご自身でご覧になられた筈です。各地には我らと志を同じくし、様々な視点から平和の為に動く人々達を。貴方様方がこの地を去られてしまえば、混乱は少なからず生じるでしょう。ですが、再びアーツ様やシュバルツ様のように平穏への導き手は現れます」と真剣な表情で見つめる。


 シュバルツは静かに自身の旅路で出会った人々の顔を思い返す。「そうだな。次代の統治者は必ず現れる。ならば、その時を待つためにもアーツ殿の意思を継ごう。たとえ朽ちようとも、その先に未来があるならばこの身を捧げねばな」


 ロムラは優しく笑う。「変わっておられませんね、シュバルツ様。貴方はいつだってそうです。自分を犠牲にしてでも周囲の人々の幸せを願う。たとえその選択が自らの首を絞め、殺してしまうとしても躊躇しないでしょう。貴方には、そんな事よりも大切な人々が苦しむ姿の方が耐えられないから」

 「私と修行していた頃もそうでした。どこからか迷い込んだ獣に襲われそうになっている人と出会ったとき。貴方様は丸腰のまま獣に立ちはだかり、吹き飛ばされながらもその方を守っておられた。野党に襲われる商人に遭遇した時も、訓練用のなまくらしか持っていなかったのに飛び出してしまわれたり。貴方はそうやって、目の前の人が傷つかないように努めておられました。私はそんな優しい貴方だからこそ、剣術を指南したのです。貴方は私と別れた後もそうやって人を助けて回ったのでしょう。私に今回の話をしてくださったニック様もその一人なのではないですか?私は彼の事を詳しく知りませんが、彼も貴方様のそういった内面に触れ、救援に走ったのではないのでしょうか。そして、今も貴方の力になろうとしているのだと思います。」

 「私はこう考えております。貴方様がそのように我らの事を大切に思ってくださっているように、私達も貴方様の事を大切に思っております。貴方に傷ついてほしくないですし、幸せに生きていてほしいと願っております。ですので、いつも貴方様が背負われているその思い責任を、今回は共に背負う事を許してくださいませんか?」と話す


 シュバルツは真剣に、優しく話をしてくれるロムラを見つめ、沈黙する。ロムラは静かにそれを見守り、彼が口を開くのを待った。


 「分かった…。改めてお願いする。私に…力を貸してはくれないか…」と頭を深く下げる。


 ロムラは満足そうに微笑む。「はい、私のような老骨でもよければ喜んでお力になりましょう。シュバルツ様」


 シュバルツはその言葉を噛み締めながら、「ありがとう…ロムラ…」とだけ呟く。


 そして、背後から声が聞こえる。「シュバルツ!俺らも当然行くからな!」「当たり前です。何のために駆けつけたと思っているんですか。貴方に死なれては寝覚めが悪いんです」と二人の声が。


 シュバルツはバッと頭を上げ、優しく見守るキースとニックの姿を見上げる。2人はその姿に微笑み、静かに頷いた。




 正午


 目を開くと日は空高く昇り、暖かな陽気が辺りを包んでいた。シュバルツは緊張と不安に身を締められながらも静かに準備を始める。装備を整え、甲冑を着こむ。そうしている間に、戦友が揃い始めていた。


 ロムラ、ニック、キースは装備を整え、部屋で待機していた。


 シュバルツは三人の戦友達に視線を配る。「出撃だ。皆、準備はいいか」


 「勿論でございます。持てる全てを用いてこの地を守り、再びアインツマイヤーに舞い戻ってみせましょう」


 全員は満足そうに頷く。「ああ。これよりアーツバルトに侵攻を開始する。目標は星の民を指揮するディオス・アルマータを始末し、アーツバルトを奪還する事。ディオス達星の民がこの地をこれ以上踏むことを許してはならない。忌まわしき星の民に身の程を分からせてやろう」

 

 三人は頷き、「承知いたしました。アーツバルト内での侵攻ルートは私にお任せください。私達は貴方様を護衛し、必ずや道を開いてみせましょう」とロムラが続ける。


 四人はそれぞれの馬に乗り、遥か先に見える星の剣に目指して駆け出す。先に待つ地獄に光を齎すために。

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