28話 災厄
斬撃を引き付け、ライエが手を伸ばす。ライエの前に球体の光が投影され、斬撃が触れる。直後、斬撃と球体の光が拮抗し、球体が渦巻く。斬撃は重力に引き込まれるが如く流れに巻き込まれ、球体の色が変化する。緋色の光が混ざりながらも煌めく球体を一瞥し、突撃してくる影に手をかざす。球体が同期するように続き、ライエが指を弾く。
直後、球体から緋色の光が照射され、影を覆う。「わざわざ見せて差し上げましたのに…。感情も制御できずに飛び込むなんて、愚かな人。」
「愚かなのはそれを分かっていながら油断するお前だ!ライエッ!」とアスターの声が響く。
ライエがその声に驚くように光を見上げると、球体から照射された光が遥かに強力な輝きに飲み込まれていく。彼の握る剣の光は緋色に煌めき、エネルギーがそのまま形を作っているかの如く滾っていた。
空を覆う光を前に、ライエは両手を突き出す。精巧な防護陣を編み上げ、アスターを睨む。
アスターは剣を強く握り体を捻る。「そんなもので止められるものかッ!悉くを塵に変えろッ!緋刃一閃ッ!」
直後、強烈な熱波が地に降り注ぎ、目を閉じる。全てが焼けるような錯覚を見せ、恐怖すら感じさせるその熱を耐え、目を開くと防護陣は白銀の輝きを失い、亀裂を走らせる。効力を失った事を自覚させるように光が弱まり、直上に迫る斬撃が彼女の心を揺らがせる。空気が揺らぎ、視界は何を認識する事すら出来なくなる。
「人間如きが調子に乗らないで!」ライエの瞳が煌めき、彼女の前に小さな光が顕現する。直後、光は緋色の斬撃に触れ、閃光のように眩く煌めく。同時に、硬い地面の感触と耐えがたい痛みが全身を貫き、視界が一瞬にして真っ暗に変わる。
「ライエ。私が居なくなったら、私の意思を継いでくれないか」
「お父様が居なくなる?そんなのやだ!」目尻から涙を溜め、少女は反発する。
「泣かないでくれ。私は始まりの星の民として、多くの時間を越えてきた。私にも休息の時間が必要というだけだよ」
「やだやだ!居なくならないで!」駄々をこねる少女を抱え、男は微笑む。
「じゃあ、昔話でもしようか。始まりの時。アトラシア様がその瞳を開かれた時だ。この宙に広がる全ての星々が生まれ、私達星の民が誕生した。私は誰も居ない、存在しないその宙に生まれた。多くの時を見守り、世界の構築を見届けた。私は漂流する中で同じ境遇の物を見つけ、共に時間を共有した。そして、ある時。彼は私達とは違う、星の中で育まれる命を見つけた。彼はその世界に興味を持ち、ある時降り立つことにした。暗い宙の中では想像もしなかったような美しい景色、生活、文化がその場には存在した。彼と私はその多くを見て、触れた。そして、この美しい世界に魅了され、現地の生命体に紛れ、静かに生活を謳歌する事を選んだ。私達のような選択をした星の民は他にも何人かいた。しかし、中には羽目を外して惑星に影響を与えてしまう者もいた。そんな時だった。アトラシア様はそのような状況を危惧されたのか、その眼差しをこちらに向けられた。そして、星の民に秩序を生み出した」
「星の民は観測し、行く末を見守る者。だからこそ、惑星に影響を及ぼす事があってはならないと。星神アイオス様はその御身を我らに晒されることはないが、この宙や世界を見てくださっているんだよ」
「お父様はアイオス様に会った事があるってジンおじさん言ってたよ!おじさんに嘘ついたの?お父様悪い人?」
「はははっ。あいつに聞いたのか。そうとも。私はアトラシア様のお姿を見た事がある。私は旅の末、銀河の始まりに近づこうとした。その時、アイオス様は我らにその瞳を向けられた。アトラシア様は秩序を保つためにはそれらを束ねる存在が必要だと考えられた。だが、アイオス様がそれらを担う事は出来ない。故に、私達をその代行者とすることとされたんだ。拝命した名はスターロード。観測者を束ね、秩序を保つための存在だ」
「うーん…。お父様…難しい話、分かんない…」ライエは目を擦り、コクコクと頭を揺らす。
「はは、ライエには難しかったかな。今、この銀河にはスターロードという秩序の番人の名が知れ渡っている。惑星に住まう人間達も、星の民達も。その全ての行く末を見守り、時に介入を持って前進させる。ライエ。君に継いでほしい。」
私は何かを呟いた。
「そう言ってくれると思ったよ。ありがとう」お父様はそう言って笑った。
少女が目を瞑ると、私の視界が晴れた。突然の変化に認識が追いつかず、へたりと地面に座り込んでしまう。
顔を上げると緋色の残滓が空を覆い、白銀の光と混ざり合って雪のように降り注いでいた。
少女は静かに立ち上がり、ポラリスを睨む。「私はお父様の遺志を継ぐ唯一のスターロード。秩序の番人として、この地を断罪する…」
地上に降りたったアスターは苦い表情を見せながらよろめく。「クソッ…」
ライエの雰囲気が一変する。白銀の光を纏い、その力を増幅させていくのを肌で感じ取る。ライエが静かに瞳を向けると同時に、ミーティアとポラリスがアスターの前に立って防護陣を重ねる。直後、白銀の光が大きな波のように周囲に解き放たれるう。波は防護陣に到達すると拮抗し、圧倒的な圧力で防護陣の光を喰らう。
「耐えきれないッ!」「突破されるっ…」二人が声を洩らしたのと同時に金色と青の光で編まれた防護陣に亀裂が走る。直後、防護陣は光の波に呑まれ、三人を強烈な熱波と衝撃で吹き飛ばす。
地面に伏した三人は顔を上げる力も入らず、目の前の少女が魔方陣を編むのを睨む事しかできなかった。少女はゆっくりと顔を上げ、白銀の光を溜め込んでいく。光は身体の先から地面に迸り、周囲を焦がしていく。
少女が目を開き、魔方陣が煌めく。白銀の光が収束し、青白い光が決壊するように解き放たれる。
直後、氷の障壁が三人を覆うように展開され、障壁が白銀の光で補強されるように輝く。青白い光が氷の障壁を削りながら頭上を通過し、周囲を焦土に変えていく。障壁をも超えて圧倒的な熱波が肌を撫でていく。
無限にも思えた光の川が収まり、障壁が解除される。焦土と化した地上に、スッと青年が降り立つ。「お任せを」と青年が手を振るうと、白銀の光が三人を包み、傷口を塞いでいく。
青年の足元に魔方陣が展開され、彼の髪が揺れる。瞳の輝きが強まり、魔方陣が無尽蔵に展開される。青年が少女に手を向けると同時に魔方陣が輝きを強め、白銀の光が放物線を描きながら少女の防護陣を貫いていく。
少女は再び沈黙し、白銀の光を洩らす。「撃たせはしません」青年が手を振り下ろすと少女を囲むように魔方陣が展開され、冷気を放つ錨が解き放たれる。錨は少女の身体を避けて地面に突き込まれ、大地を凍らせる。魔方陣から更なる鎖が解き放たれ、少女の動きを封じる。直後、鎖から冷気が解き放たれ、少女の身体を固めていく。少女の手足が瞬時に凍り付き、冷気が大気に放出される。
青年は魔方陣を閉じ、「力の制御…難しいものだな…」と肩を揺らしながら呟く。動きを封じ込めた少女を睨み、魔方陣を展開しようとしたその時。鎖が微かに揺れるのを捉えて苦笑する。「まあ、そうだよな…」
凍り付いたはずの少女の身体から少しずつ白銀の光が漏れ出し、アンカーが焼き切られるように一つずつ霧散していく。青年は振り返り、三人の状態を一瞥してすぐに水晶大剣を取り出す。目の前に迫る怒り狂った少女を止める為に…。
少女は手を青年に向け、魔方陣を展開させる。直後、白銀の光が無数に青年に迫る。
青年は氷の障壁で自身と背後を覆い、全てを受け止める。障壁を解き、白銀の光をそのまま握って武器とする少女の攻撃を受け止める。「何をッ!何をしているんですかッ!レグルスッ!」
青年は苦笑しながら後退し、白銀の光を撃ちだす。少女は光剣で攻撃を相殺しつつさらに接近して光を振り下ろす。青年は回避行動をとり、水晶大剣を振るう。少女は防護陣を瞬時に展開して受け止め、すぐさま二手目を振るう。青年は飛び上がり、白銀の光を撃ちおろす。
「やはり…貴方ではないのですねっ…レグルス」と白銀の光を球体で吸収したライエが苛立つように青年を睨み、球体を荒く叩く。
青年は体を捻りながら光を避け、地上に降り立つ。直後、青年の直上に展開された大型の魔方陣から鋭い光が撃ちだされる。針のようにか細い光は地に触れた途端に膨張し、青年とその周囲を覆う。「なんの注意も払わずに降りるなんて…その程度の腕でレグルスの身体を奪ったのかッ!」光が収束するのを待たずに叫び、魔方陣をさらに展開する。
しかし、収束するよりも早くに光が揺れ、水晶大剣を構える青年が少女に迫る。ライエは驚きながらもその剣を受け止める。「対策をせずにって言ったか?そんなわけないだろッ!」と青年が吠え、少女の足元に小型の魔方陣と大型の魔方陣を展開させる。
青年が口角を上げ、小型の魔方陣が二人の足元を凍り付かせる。「私と共に死ぬか?それとも、その卓越した防御で守ってくれるか?」
大型の魔方陣が輝きを増し、2人を覆う。直後、爆発するようにエネルギーが解き放たれ、光柱が天を貫く。




