24話 向けられた刃
甲高い音が周囲を掌握する。草木は揺れ、地が軋む。星剣に降り注いでいた光が収束し、刀身が煌めく。大地に突き立てられた剣は、その束縛から解放される。金色の鎖は砕け、光の雨を降らしてその瞬間を祝福する。
「あの圧倒的な威光。スターロードが創造した神聖なる武器は、今や全てを滅する裁定の剣と成った。」アリエスは陶酔するように呟く。
レグルスは水晶大剣を下げ、霧散させる。「終わりだ。かの剣が大地から解き放たれた今、争う事に何の意味も無い。あれが通り過ぎた先に待つのは焦土のみ」
その場に立つ全員が戦意を失い、全てを凌駕するその剣を見上げる。剣は光を増幅させ、空高く掲げられる。
「まだだッ…。まだ終わるわけにはいかない…。この世界を…この島を壊されるわけにはいかないんだ…」レグルスとアリエスの間を抜け、緋色の光を限界まで宿す。今にも振り下ろされそうな剣を睨む。
「意味のない事だ。あれを止められる者などいない」
力を込めろ…。限界など知る事か…。終わらせてたまるか…。母さんや父さん。シャルロットが守った世界を…次に妹が立った時に戦いなど縁がない世界とするために…。
深く構え、緋色の光を限界まで込める。
破壊の化身を睨み、剣を抜刀する。「緋刃…一閃ッ!」
緋色の斬撃が地面を焦がし、一筋の軌跡が空を裂く。斬撃は空気を焦がし、陽炎を残す。暗闇を灯す一筋の光は、その威力も勢いも減衰することなく星剣に放たれる。
極みの一撃は、何物にも妨げられずに剣に触れる。爆発の余韻が微かに見え、直ぐに霧散する。微かに動き出した星剣はその動きを止めたが、何事も無かったかのようにその輝きを再び増幅させていく。直後、剣のすぐ近くに白銀の光が増幅するのが目視できた。
「ダメッ!」ポラリスの声が響き、金色の防護陣が三重に展開される。直後、音を置き去りにした光が二枚の防護陣を砕き、その場にいた全員を衝撃だけで地面に叩きつける。
防護陣を貫通した熱波が周囲を掌握し、熱と衝撃で目を開く事すら叶わなかった。そして、絶望を増大させるように防護陣に亀裂が生じる音が耳に届く。その時だった。
「任せて!セブンスコード・アクティベートっ!アブソリュートプロテクト!」彼女が発した言葉に呼応するように生み出された光の結晶は、一つの雫となって地面に零れ落ちる。地面に触れた途端、光は淡い光を拡散させ、白銀の奔流を退けていく。
衝撃が収まり、瞼を開ける。頭を回すより早く、僕の疑問の答えがあった。
女性は振り返り、呆れたような表情を見せながらアスターに手を伸ばす。「間に合った…。無茶しちゃって…立てる?」
僕は彼女の手を取り、立ち上がる。「どうして君が…」
「ふふっ。私はミーティア・「イージス」ですから。セブンスの末裔たるイージス家の人間として、星の民の計画を阻止しに参上しましたっ。ここからは、私も貴方の隣で戦うからねっ」
その横で、「バカな…。貴様のその力は…」とレグルスが驚きを隠せないままに声を洩らす。アリエスも同様に驚きの表情を見せ、「何故気が付けなかったんだ…彼女は…」と声を洩らしながらも赤黒い霧を顕現させる。
ミーティアは振り返りざまに金色の光を集め、大弓を顕現させる。光の矢を顕現させ、矢先に光を収束させる。「ポラリス様」と彼女が目配せするのと同時に、ポラリスの魔方陣が矢先に何重にも顕現する。「絶対に阻止して見せる。皆の為にっ!」金色の光が風を巻き起こし、彼女のスカートを揺らす。アリエスが放つ霧は彼女の光に触れた途端に霧散し、瞬く間にその光は増大する。
「セブンスコード・アクティベート!これは始まりの光!希望を背負いし者達の反逆の剣となれ!シューティング・スターライト!」
解き放たれた金色の光は、一筋の道となり星剣へと導かれる。希望を失いかけた暗き空を明るく照らすその光は、白銀の光をも打ち払い、星剣に到達する。そして、光は剣を起点に大きく花開き、剣の光をも拡散させる。暖かく、一際強く煌めくその光は島の果てまでをも照らした。金色の光と白銀の光が呼応するように二重の輪を生み、星剣の輝きが消失する。制御を失った剣は再びこの地に刀身を埋める。
同時に、島を大きく揺らす地震が生じる。地面に幾つもの細かい亀裂が走り、剣の近くで地面が隆起する。とてつもない振動が落ち着き始め、何とか立ち上がる。全員の視線は、星剣を中心に生じた島を縦断する地割れに向いていた。
アリエスとレグルスはすぐさま得物を顕現させ、全員を睨む。「人間如きがロードの邪魔をするまでに力を高められるだなんて驚きだ。賞賛に値すると言ってもいい。だが、我ら十二名座の前でそのような行いをしたらどうなるか…分かっているのだろうな?我らはロードの為に動く剣。障害となるなら、その全てを排除するまで」
「ええ。人間如きが楯突こうだなんて愚かな行為だという事、もう一度分からせてあげるわ」そう言葉を投げながら、二人は武器を構える。
その時、ポラリスの背後から声が響く。「遊び相手をご所望でしたら私共が引き受けましょう。英雄達を貴方達程度に止められてはたまらないですから」
その言葉に全員が視線を向ける。そこには、ロムラと共に見知らぬ大男が立っていた。
「到着が遅れた。すまない、ミーティア。」大男は大太刀を地面に突き立て、彼女に声をかける。
「シンっ!来てくださったのですねっ」
「はい。予定になかった援軍も来ています。ここは私に任せてください。」と大男が告げると、背後から集団の声が響く。
「彼らは?」
「シュバルツと関わりがあった者達だそうです。アインツマイヤーの騒動を聞きつけ、この地に駆けつけたのだとか。リーダーはアリシア。シリウスを縄張りにする荒くれ者達です。彼らには私の武器を授け、アーツバルトに残った星の民の制圧を任せています。後は彼らを制すのみです」
ミーティアは話を聞き入れて頷き、「分かりました。私達はライエの制圧に向かいます。ここは任せましたよ。ロムラ?」と目配せする。
ロムラは名を呼ばれた瞬間に静かに頭を下げる。「お任せください。どうか先を急ぎくださいませ、お嬢様」
レグルスは明らかな苛立ちを見せ、「我らを無視するとは…いい度胸だな人間ッ」とロムラの方へ視線を向けていたミーティアに向けて剣を振るう。
しかし、その剣はミーティアには届かずに動きを止める。「貴方の相手はこの私です。レグルス」静かな怒りを見せながら、ロムラはレグルスを睨む。
ミーティアは決意するように頷き、アスターとポラリスを魔方陣に入れる。手を払い、魔方陣が起動すると三人の姿が消えさる。
レグルスは後退し、ロムラの背後で行使されたミーティアの力を見て狼狽する。「バカな…。どうなっている…。転送の力を使える人間など存在するはずが…。それにあの力…。あれはセブンスの力…。奴らは数世紀も前に消滅したはずだ。全くどうなっているッ…」
「どうだっていいわ。奴らが行ってしまったのなら私はライエ様の元に戻るわ。すぐに片付けて貴方も戻りなさい」レグルスに告げた直後、アリエスが霧を展開しようとする。しかし、霧が彼女を包み込むより早く、シンと呼ばれた大男が目前に迫る。
「行かせると思っているのか。アリエス」シンは目にもとまらぬ速度で大太刀を抜刀し、斬り降ろす。アリエスはその速度に圧倒されつつも霧の展開を即座に中止して回避行動をとる。そして、体勢を整えつつ斧槍を顕現させる。
アリエスはシンを睨む。「貴様…何者だ…。星の民が我ら十二名座に歯向かう意味が分かっているのか…」
シンは表情を変えずに「貴様が誰だろうと関係ない。私は任せられた事を為すのみ」と吐き捨て、アリエスの懐に迫る。勢いのままに柄をアリエスの腹部に突き込み、反転して一閃する。
体勢を崩されながらも斧槍で辛うじて受け止めたアリエスは距離を取り、苦痛の表情を浮かべる。
アリエスは姿勢を低く構え、片手に霧を纏わせる。展開後即座に赤黒い霧を放射し、シンの視界を遮りつつ地面を蹴る。
目を閉じ、深く構える。気配があれば、勝手に体が動く。シンは静かに大太刀を納刀して構えを続ける。そして、何かを察知するように目を開き、迷いなく左側に振り抜く。
武器同士がぶつかり合い、衝撃が轟く。風圧で霧が晴れ、アリエスの姿を捉える。飛び退きつつ霧を向けたアリエスが着地するより早くに彼女の懐に潜り、斬り上げる。瞬時に位置を変え、彼女の眼前に迫り斬り降ろす。彼女は霧を纏わせた腕を突き出し、大太刀を受け止める。
直後、アリエスは地面に叩きつけられ、地面が砕ける。アリエスは苦痛の声を漏らしながらもすぐに立ち上がり、シンを睨む。
「クソッ…。いいわ…。貴様如きに使うのは癪だけれど、使ってやる。ゾディアックコード・アクティベートッ!ブラッドレイン!」アリエスは腕を天に掲げ、霧が周囲を暗く染める。霧からは赤黒い雫が滴り始め、その雫は形を形成し始める




