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19話 星の民

 甲冑騎士の女性の最期が何度も頭を巡る。ロムラが聞いたアーツ殿の言葉。最後の時、彼女には戦闘なんてものとは無縁といった優しい雰囲気が垣間見えた。最後に見せた彼女の精神面とは乖離した、慈悲のない程に強力な殺意と無駄のなかった動き…。本当に十二名座に従うためにその力を振るったのか?なんだ…この違和感は…


 考え込んでいたシュバルツの肩に手が触れる。「大丈夫か?シュバルツ。思い悩んでいるようですが」とニックの声が響く。


 シュバルツは我に返って視線を上げる。「すまない、なんでもないんだ。それより、先を急ごう」と先行していたロムラの方へ足早に歩いていく。


 路地を進み、大きな通りを目前に止まる。周囲を見渡すと、大通りを見下ろすように大きな邸宅が目を奪う。しかし、星の民の気配はなく妙な静けさが全員に緊張を走らせる。

 シュバルツ達は目配せし、警戒しながら大通りに出る。そして、足早に邸宅の門を抜けていく。



 イージス邸 エントランス


 豪華な邸宅の中に入ると、大きな窓やステンドグラスから差し込む月明かりが神秘的な情景を作っていた。そして、スポットライトに照らされたかのように形どられた人の影が全員の視線を奪う。


 影はシュバルツ達を一瞥し、拍手を送る。「よくここまで辿り着いたな。星の民と人間。根本が違う者達だとしても、彼らは獣のように理性を持たないわけではない。彼らは君達と同じように自我を持ち、対話する。そんな彼らを感情を乱さずに殺し、進むことはさぞ心が傷んだことだろう」

 男はゆっくりとシュバルツ達の方へ視線を向け、蔑むように見下す。「それで?君達は何をしに来たんだ?」


 シュバルツは男を睨む。「私達はこの無意味な戦闘を終わらせる為にここに来た。お前が…ディオスだな」


 男は冷笑し、「いかにも。私はディオス・アルマータ。今回の騒動の発端であり、君達の敵でもある。今すぐに平伏させても構わないが、それでは面白くない。人類の力とやらを今一度見せてみろ」と一本の剣を顕現させる。


 シュバルツは水晶大剣を顕現させ、地面を蹴る。


 ディオスは構えもせずに立ち尽くしてシュバルツの接近を待つ。勢いを乗せたシュバルツの大剣がディオスの眼前に迫ってもなお。だが、その剣はディオスを貫く事はなく大きな金属音を立てて動きを止める。

 シュバルツはすぐさま後退し、再度地面を蹴る。しかし、幾度挑んだとしてもシュバルツの剣はディオスには届かず、彼は片手で全ての攻撃を受け流し続けていた。


 「ふむ…。やはり興醒めだな。あのアーツとかいう男の方が幾分かマシだった。奴はお前のように星の力を操れていなかったというのに、この私に力を使わせたのだぞ。だというのに、お前はその力を持ってしても私を楽しませる事すらできない。残念だと言わせてもらおう」と片手で顔を覆う。そして、噛み付くように剣戟を繰り出し続けていたシュバルツを片手の膂力で押し返して吹き飛ばす。


 シュバルツは地面を削るように吹き飛ばされ、剣を突き立てて膝をつく。顔を上げた時、ディオスは剣を両手で握り込み、シュバルツに向かって一直線に突撃する。直撃を覚悟した瞬間、ディオスの歩は甲高い金属音と共に止められる。


 「いやはや、中々恐ろしい技量ですな。老兵相手ではつまらないかもしれませんが、このロムラとお手合わせいただきたい」と涼しい顔でディオスの攻撃を受け止めるロムラの背が映った。


 ディオスは嬉しそうに口角をあげ、「星の力すらまともに持たぬ人間が私に立ち向かうとは面白い。いいだろう。相手になってやる」と後退する。そして、ロムラと絶妙な距離感で睨み合いを始める。


 ロムラはすぐに拮抗を破り、地面を蹴る。間合いに入り込み、ディオスの剣戟を華麗に回避する。間合いを読み、ディオスの癖を見切るように滑らかに懐に迫っていく。ディオスは一瞬驚きの表情を見せ、ロムラから距離を取ろうと後退しようとする。


 その瞬間を待っていたと言わんばかりに瞬時に動きを早め、ディオスの振り下ろした剣を間一髪のところで回避しながら、彼の脇をすり抜ける。直後、ディオスの体からは鮮血が少量飛び散る。彼は即座に後退し、傷口を触る。


 「ほう…。この私に傷をつけたか。なかなか素晴らしい腕前だ。だが、残念ながらこの程度の傷では意味はない。私は星の民。君達と違ってこの程度は傷とさえ呼べないのだよ」と話しているうちに傷口が塞がっていく。


 「流石は星の民。私達の常識では測ることができない。ですが、リソースにも限界はありましょう。私達と根比べといきましょうか」と隣に立ったキースに視線を送り、地面を蹴る。


 「ああ!どんなバケモンでも死ぬまで切れば死ぬんだぜ!」と叫び、先行するロムラに合わせるように地面を蹴る。


 ディオスはその様子を面白そうに眺め、「いいぞ。このディオスに傷をつけた勇士の戦術ならば興味がある。さあ、我を驚かせて見せよ」と剣を構える。


 キースとロムラはお互い距離を取り、ディオスを挟むように展開する。そして、立ち尽くすディオスに矢の雨が到達するタイミングと同時に、一気に距離を詰める。


 ディオスはすぐさま剣を両手で握り、ニックの方へ一振りする。風圧が迸り、矢は瞬時に粉々に砕け散り、先に構えていたニックの体勢を簡単に崩してしまう。


 ディオスはすぐさま反転し、一切視界に捉えていなかったキースの大剣を斬りあげる。そのまま勢いを殺さずに振り返り、迫ってきていたロムラの剣を止める。そして、彼の剣を止めながら、空いた片手をキースに向け、握り込む。直後、何かに殴られたかのような衝撃がキースを襲い、恐ろしい速度で邸宅の壁に突き刺さる。

 すぐさまロムラの剣を弾き、体を捻って回し蹴りを叩き込む。ロムラは咄嗟に剣で受け止めたものの、その衝撃に耐えきれずに大きく吹き飛んでしまう。膝をついたロムラの手元には、刀身の折れた剣が残されていた。


 ディオスは手を止めず、すぐさまロムラに向かって地面を蹴る。そして、膝をつく彼に剣を振り下ろしていく。その瞬間を、2人の間に大きな影が割って入り、金属音を響かせる。


 「邪魔しないでもらえるかな。私は彼と戦っているんだ」


 シュバルツは押されながらも剣を当て続け、ディオスを睨む。


 「君では力不足だと言っただろう?未熟者は指を咥えて見ているといい」と徐々に力を込めてシュバルツの体勢を崩していく。


 その時、風を切る音が響き渡りディオスが後退する。直後に2人の間を風を纏った大矢が通り過ぎ、邸宅の壁を抉る。シュバルツは即座に剣を握り直し、ディオスに詰め寄っていく。

 ディオスはそんなシュバルツを無視し、スッと地面を蹴る。全員が瞬きもしないうちに、ディオスはニックの背後に立っていた。そして、握られた剣には鮮血が付着していた。

 「バカな…。早すぎる…」ニックは驚きを隠せずに目を見開く。体を抑えながら即座に移動するが、手は赤く染まり、口端からは血が流れ出ていく。


 ディオスはニックを一瞥し、「場を制する者を先に仕留めるのは基本的な事。そうだろう?複数人で行動する場合は役割が重要だ。お互いが支えあうことでより効率的に、優勢に戦闘を行える。だが、その負荷率は均等であるべきだ。なぜなら、このように負荷率の高い者が居なくなると一手で大きな打撃となってしまうからだ」とシュバルツ達に悠々と告げる。その傍らには、後退したはずのニックが地面に伏していた。

 シュバルツは一瞬の動揺を見せて目を泳がせる。手が震え、怒りで表情が歪む。しかし、その一瞬の隙を彼は待たなかった。ディオスは瞬時に地面を蹴り、シュバルツに剣を突き出す。「言い忘れていた。人間というのは、感情で動く側面がある。感情が大きく揺れるとき、人はそれを飲み込めずに動きを止めてしまう。つまり、私が何もしなくとも簡単に隙が作れてしまう。君達は一手目を打たせた時点で負けなんだよ」と大柄の男性を貫きながら、悠々と肩越しにシュバルツをあざ笑う。


 シュバルツは目の前の大男に突き刺さる剣と赤く染まった刀身を見て崩れ落ちる。「ああ…待て…。そんな…」と声が洩れる。その前で、無情にもゆっくりと抜き去られる剣とバタリと地面に伏すキースの姿が視界に入り込み、硬直する。

 ディオスは剣を振って血を払い、折れた剣を握って立ち上がったロムラに向かって手を向け、降ろす。直後、ロムラは重力に叩きつけられるように再度膝をつく。「断罪の時だ。星の力を人類が扱うなど、忌々しい事をしてくれたな。人ならざる力を得て楽しかったか?英雄にでもなれたか?お前は人類を危機から救うために立ち上がり、星の民に勇敢に立ち向かって死んだ。最高の英雄譚だな、シュバルツ」


 ゆっくりと剣を構える。「さらばだ。人類の英雄。よくやった。心配せずとも、そこの勇士も一緒に送ってやる。皆で逝けるのなら、人は死すらも怖くないのだろう?」そう告げた後、剣を振り下ろす。


 その時、シュバルツとロムラを包み込むように金色のオーラが展開される。「お願いします。アスター」と少女の声が響き、奥のガラスが割れる。その先から、流星の如く一筋の光がディオスを貫く。


 直後、とてつもない熱波と衝撃が地面を通じて響き渡り、周囲を燻らせる。シュバルツの前には、先ほど出会った青年が佇んでいた。そして、彼が見つめる先には体を抉られて膝をつくディオスの姿があった。

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