1話 再来
最南端 レーベ
白いローブを纏った男が周辺に集まる星の民に指示を出す。「諸君、聞いてくれ。我らはロードの奪還を目指す!我らの怒りを見せつけ、最高位の存在であると勘違いした人類を地に落とすぞ!高度な知性を持ちながら同族を傷つけあう愚かな人類を、上位種である我らが先導する。無意味な争いのない理想郷を、我らの手で作り上げて見せようではないか!」と高らかに語る。
星の民たちは大きな歓声を上げ、「やってやりましょう!」「人類には痛い目を見せなくてはいけません!」と口々に告げた。
男は静かに剣を掲げ、「ディオス・アルマータがここに宣言する!上位種である我らが人類に裁きの鉄槌を下し、彼らを平和に導くと!」と眼前に建つ星の剣へ向けて、数百の星の民を連れて歩き出す。
アーツバルト 南街道
少女と会っていた時とは違い、男は真剣な表情を見せながら眼前に並ぶ歴戦の戦士達を見つめる。
「皆、よく集まってくれた。我らはこれより迫る、星の民を名乗る者共を迎え撃つ。奴らは我らと違い、一人一人が一騎当千の英雄に匹敵する。我らに勝ち目などないのは火を見るよりも明らかだろう。だが!敗北しか結末が待っていないとしても、抵抗もせずに殺されるような我らではない!今日この時、敗北が決まったこの戦をすると私に告げられた時、君らは誰も絶望したりしなかった!たとえ死するとも、その瞬間まで我らは戦士としてこの地を守護し、人類を勝利に導く!地獄が待っているからと言ってその到来を恐れて自害するような愚か者などこの地にはおらんのだ!」と士気を上げるように高らかに告げ、静かに振り返る。そして、視界の遥か先に映る塔を見つめ、「行くぞ友よ!人類に栄光あれ!」と告げて走り出す。
戦士達が去るのを静かに城内から見つめていたセーレムは、「アーツ様。どうか神の御加護を…。」と呟き、城内で待機していた幾千もの女子供の元に付く。「では、参ります。ホワイトアーツへ」と告げ、静かにアーツバルト北側の街道へ歩き出す。
行軍が始まり、数時間が経過した後。アーツは視界に映る死屍累々の惨状に胸を痛めていた。
白銀の大剣を握り、静かに地面を蹴る。目前に控えるのは数十の星の民。たとえ力を継承し続けたイージス家の当主であっても、アーツの力は星の民が束となれば遠く及ばない。だが、類稀なる剣術を有したアーツはその戦力差を一人で覆していく。
星の民は一騎当千ともいえる活躍を見せるアーツに驚き、「なんだあいつはッ!」「調子に乗るなよ人類!」と声を洩らしながらも勇猛果敢に突撃していく。
アーツは一言も発することなくただひたすらに剣を振るい、迫り続ける星の民を始末し続ける。アーツバルトの軍勢は出発時の十分の一にも満たない少数と成り果て、残された戦士達は傷つき疲弊していた。
そんな時だった。白いローブを纏った金髪の男がアーツの前に立つ。男は二つの剣を握り、四本の剣を浮遊させながら静かに佇む。「人類の中にはここまで勇猛な戦士がいるのだな。たとえその力を得たとて、結局はすべての能力で勝る我々の脅威とはなり得ない。だが、それを凌駕するどころか一人で拮抗させるとは。だが、その勢いもここまでだ。この私、ディオス・アルマータが相手してやろう」
アーツは傷ついた身体の痛みを忘れたように口角を上げ、「これほどまでの気迫。私も長い人生を送ってきたがこれほどの強者と相まみえたのは久々だな。では、一つ手合わせ願おうか」と静かに剣を構えなおす。
ディオスはニヤリと笑った後、地面を蹴る。金属音が辺りに響き、続けて衝撃波が辺りを薙ぐ。ディオスはすぐさま一歩後退し、手に持った剣をアーツに向ける。直後、浮遊していた剣がアーツの方へ剣先を向け、音速で突きこまれていく。アーツは勘を頼りにその攻撃を回避し、続けて迫るディオスの攻撃を剣で受け止める。直後に体を転身させ、低い姿勢となって斜めに斬り上げる。しかし、周囲を浮遊していた剣の一つがその攻撃を受け止めてしまう。
ディオスは、目の前で動きを止めたアーツに向かって剣を突き入れる。アーツは咄嗟に回避行動をとり、間一髪でディオスの攻撃を避ける。ディオスはすぐさま浮遊剣に追撃の指令を下すが、左右にブレながら後退するアーツには届かなかった。アーツは浮遊剣を避け切った直後に地面を蹴り、ディオスに斬りかかる。ディオスは立ち尽くしたまま片手の剣で簡単にそれを受け止め、そのまま連撃を続けるアーツの攻撃を簡単に受け止め続ける。視界を一瞬動かし、アーツの背後に突き立っていた浮遊剣を操作する。アーツはその動きをすぐさま察知し、ギリギリまで剣戟を続けたのちに回避行動を行う。直後、天から4本の剣がディオスの目の前に突き立てられ、地面を大きく抉る。
アーツはすぐさま振り返り、悠々と見下すディオスを見上げて冷や汗を流す。剣を浮遊させるディオスに向かい、更に剣戟を打ち込んでいく。しかし、その剣が届くことは一度もなく、アーツの体力は徐々に削られていく。
ディオスはそんなアーツを見下しながら、「どうしてそこまでして戦う?」と冷酷に告げる。
アーツは手を緩めず、「負けられない理由があるんでね。それを話したらあんたらは退いてくれんのかい?」と尋ねる。
ディオスは軽蔑の眼差しを向け、「ありえんな。上位種である我らが人類なぞに敗北することはなく、戦いをしなければ生きていけぬような貴様らのような愚か者共に撤退なぞせん。いままで攻め入る事をしなかったのは、貴様らが理解すると思っていたからだ。だが、違ったようだな」と告げ、浮遊剣を用いてアーツの剣を叩きつける。
アーツは圧倒的な膂力に負け、大きく体勢を崩す。すぐさま大剣から手を離し、後退しようとするが、そこで動きが止まる。視界をディオスに向けた時、そこにはアーツの目の前に剣を突き出した彼の姿があった。
ディオスは完全にアーツの動きを制し、「ここまでだ。人類の勇士。貴様はよく戦った。一つ提案をしてやろう。私の眷属として、星の民に加わらないか?貴様のような勇士は人類を束ねるのに必要な存在だ。今も東西の勢力を静かに援助し、貴様を中心としてこの島の人類は団結している。貴様を失った人類は、昔のように争い合う事であろう。どうだ?我らに付き、人類の統制に力を貸さないか」と告げる。
アーツは口角を上げ、「それはお断りさせていただくよ。我ら人類は、星の民などという別の種族の手を借りなくてはならぬほど愚かではない。確かに昔は争いの絶えない地であった。しかし、今はこうして少しずつ平和の道を歩んでいる。私なぞ居なくとも後の世は平和であろう」と告げる。
ディオスは溜息を吐き、「残念だ。貴様ほどの勇士もそのような妄想にとりつかれているとは。断言しよう。人類という種族は自らの力だけでは平和などにはたどり着けぬ。高度な知能を持ち得ながらも欲深く、戦闘などという愚かな方法ばかり選び続ける貴様らなぞにはな」と告げ、剣を掲げる。
アーツは静かに目を閉じ、最後の時を待った。