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15話 灯された火

 分裂した刃先は、絶望の淵で崩れ落ちたシャルロットに向けて業火を解き放つ。


 展開された防護陣が軋み、熱気が肌に触れる。展開された防護陣は業火に耐えきれずに一枚、一枚と溶け消えていく。ポラリスは苦しい表情を見せながらも「シャルロットさんッ!立って!貴方が立たなければ、私達3人はッ!アスターさんは死んでしまうッ!」と叫ぶ。

 シャルロットはその声を聴き取っているはずだった。そのはずだった。だがその瞳の輝きは失せ、目の前で煌めく業火と防護陣の光をただただ眺めていた。


 最後の防護陣が溶け落ち始め、熱波が三人に迫ろうとする中、「シャルロットさんッ!シャルロットさんッ!お願いッ!立って…!立ってッ!」と懸命に叫ぶ。


 シャルロットは微動だにせず、白槍がゆっくりと霧散する。


 ポラリスはその姿を見つめ、静かに視界を下げる。「やはり…届かないですか…」その呟きと諦めに呼応するように、防護陣の光が揺らぐ。次の瞬間、防護陣は溶け落ち、一瞬にして業火が轟いた。


 しかし、その業火は俯いたポラリスには届かず、彼女を避けるように周囲を燃やし尽くしていく。


 ポラリスはその異常な状況にすぐに気が付き視界を上げる。そこには、ただ一人で大剣を構えて業火を凌ぐ人影があった。業火は瞬く間に周囲を焦土に変える。永遠とも思えた業火はゆっくりと収束し、完全に消滅したのと同時にその偉大な影はゆっくりと崩れ落ちる。

 一瞬の静寂が訪れる。女性の影は再び剣を形成させる。高温に熱された刃からは白煙が立ち上がっていた。しかし、女性の影は動かずにそのまま三人を見つめる。


 そんな中静寂を破ったのはシャルロットだった。目の前に現れた人影が倒れ込んだ時、現実をゆっくりと認識するように涙を零す。「兄様…?アスター…お兄様…?」座り込んだ姿勢のまま、目の前の倒れ込んだ人影の元に手を伸ばす。そして、ゆっくりとその人影の服の裾を掴む。


 「兄…様…。ごめんなさい…。私は…シャルロットは…貴方が居ないと…何も…」


 「シャルロットさん…」戦場に居る事を忘れ、ポラリスは二人の姿を見守る。


 数秒の沈黙の後、シャルロットはアスターの手を優しく握って俯く。「兄様が救ってくださった命、無駄にはしません。私はもう、迷いません。ポラリス様、お兄様を…お願いいたします」

 次の瞬間、シャルロットの元に女性の影が迫る。鬼気迫る勢いで距離を詰め、両手で握った剣を彼女に向けて振り下ろす。

 しかし、その刃は彼女には届かなかった。誰の目にも捉えられないほどの速度でシャルロットは白槍を取り出して立ち上がり、影の攻撃を防ぐ。彼女は白槍を捻り、影の刃を振り払って片足を軸に軽く飛び上がる。体を捻り、影に渾身の回し蹴りを打ち込む。

 影はその直撃に大きくよろめき、体勢を整える間もなく迫る白槍を無理に弾く。明らかに無理な姿勢での防御は大きな隙を見せる。シャルロットは地面を蹴り、間合いに入った瞬間に白槍を再度顕現させて突き込む。

 影の心臓に白槍が突き立てられる。シャルロットはすぐさま体を捻り、勢いよく白槍を横に払う。その動きに連動して噴き出したのは鮮血ではなく、赤黒い霧であった。


 ポラリスはその状況を見て唇を噛む。「やはり…彼でないと致命傷は負わせられない…」影はシャルロットの突き立てた部分を霧に変え、その体に一切の傷を負わないように形成しなおす。シャルロットはそれを瞬時に察し、攻撃と回避を同時にとれる動きを選択した。


 影は手を止めることなく彼女に剣を振るう。シャルロットはそれを予見するように薙ぎ払いながら影の側面に斬り抜け、視線を向けることなく背後に白槍を突き込む。感触がない事を確認し、白槍をすぐに引いて姿勢を低く取る。シャルロットの頭上を刃が通過し、彼女は屈んだ反動で軽く跳ねて回し蹴りを入れ込む。

 影は彼女の蹴りを受けて軽く怯みながら後退し、手を突き出す。シャルロットはすぐさま誰も居ない方向へ白槍を投げ、影を睨む。直後、影が自身の手を閉じるのと同時にシャルロットの姿が消え、彼女の居た場所を焼き払うように人一人分程度の範囲の火柱が空から照射される。

 シャルロットは白槍を握りながら影を睨み、不規則な軌道をとりながら影に接近していく。影はその動きを横目にシャルロットの方へ手を突き出し、握る。直後に放たれる業火を、シャルロットは五感と勘でそれを捉えて間一髪で回避する。そして、自身の間合いまで迫って白槍を強く握って地面を蹴り、無防備な影にそれを突き込む。

 しかし、シャルロットの白槍は空を切るかのように影の身体を通過する。シャルロットはその現象に顔色一つ変えず、白槍を引いてステップを踏むように後退する。

 影は剣を再形成し、後退するシャルロットに追撃する。白槍と剣が火花を散らし、大きな金属音が響いたその時だった。二人を包み込むように業火が降り注ぐ。同時に、僅かながらポラリスの光がシャルロットを包む。

 一瞬にして二人を包み込んだ業火が収束する。そこには、一切の傷を負わずに片手を突き出した影と驚きの表情で立ち尽くすシャルロットの姿があった。


 鍔迫り合いの最中、影はシャルロットが気が付かないように刃を飛ばし、自ら諸共業火に包み込んでいたのだ。間一髪、ポラリスの判断によってシャルロットは防護陣に守られたことで服の裾を焦がす程度のダメージでそれを受け止めることが出来ていた。


 後退した影の剣に一欠片分の刃が戻り、白煙を放つ。影は剣を構え直し、シャルロットに斬り込む。二人の鍔迫り合いはさらに加速し、火花と金属音が重なり合うように響き渡る。そして、激しい剣戟の最中に火柱が戦場に通過していく。

 シャルロットは苛烈になる剣戟の中、刃先の長さと影の動きに集中し続ける。火柱の迫るタイミングと向きを勘だけで察知し、白槍を投げて体を移動させつつ戦闘を続ける。


 ポラリスはそんな様子を不安そうに見つめる。「駄目…そんな動きを続けてちゃ、身体がついていかなくなる…」そう呟きながら、地面に伏したアスターを治療し続ける。「早く起きて…。君が居ないと彼女は…」明らかな焦りが自分を急かし、苛烈な戦闘音に冷や汗を流す。

 そんな時だった。ガキンッ!と重たい金属音が地面に突き立てられる音が響き戦闘音が止む。ポラリスは視線を上げ、シャルロットの真横に突き立てられた武器と先に立つ人影に戦慄する。

 「そんなっ…アリエス…」そう呟いた直後、シャルロットが脇腹を抑えながら身体がよろめかせる。その隙に合わせるように影が一瞬にして彼女に迫り、剣を降ろす。


 間一髪のところでシャルロットの方へ展開した防護陣が一撃目を防いだが、影はポラリスには捉えられない速度で二撃目を斬り抜ける。影は血を払うように剣を振り、体を捻ってシャルロットを蹴り飛ばす。シャルロットがポラリスの目の前に力無く倒れ込み、込み上げる血に咳き込む。


 「イリーゼ。止めを」とアリエスの声が響く。ポラリスはその声にハッとし、防護陣の展開準備をしながら視界を上げる。しかし、予測よりも早く迫る業火に目を見開き、未完全な状態の防護陣を展開する。


 直後、三人は業火の熱風に弾き飛ばされる。




 声が聞こえる…聞きなれた声が…。「様…!兄様!お兄様っ!目を開けてくださいっ!お願い…します…。最後だけでも…」と。


 自然と目を開く。直後、声の主である少女が僕に倒れ込む。僕は咄嗟に彼女を抱き寄せ、先を見る。見慣れた街並みは崩れ、燃え、赤く染まっていた。その視界の先には赤黒いオーラを身に纏い、静かに剣を握る女性の影と建物の上から見下すアリエスの姿が見えた。 


 僕は少女をゆっくりと降ろし、立ち上がる。歩みを進め、黒剣を手に取る。地面を蹴る。


 一瞬にして僕は屋根の上に立ち尽くす女を斬る。


 「バカな…」女はそう呟き、目では捉えきれないほどの速度で吹き飛ぶ。遥か先の半壊したアルマーの屋敷で白煙が上がる。

 地面を蹴ろうとした時、目の前に赤黒い霧を纏った女性が斬りかかってくる。


 片手で黒剣を握り、簡単にその攻撃を弾き飛ばす。女は驚きの表情を見せながらも後退しつつ、アスターの方へ手を突き出し、握り込む。


 アスターの周囲を熱気が捉え、直後に業火が彼を飲み込んだ。

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