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11話 元凶

 二人はヘイストに教えてもらった騎士団の物見塔に辿り着く。人の手が離れて久しい物見塔は古び、廃墟のように廃れていた。この塔は長きにわたり平和を維持したハインドゴーン騎士団の存在により、その役目を終えていたはずだった。


 「お兄様、ここからが本番です。ヘイスト様のお言葉、騎士団の壊滅。元凶となった方は相当の実力であることに間違いありません。注意して進みましょう」


 アスターは頷き、目の前の扉を押す。


 二人は武器を顕現させ、突入する。警戒した二人の様子とは裏腹に、人が物色した跡すらない整然としたままの部屋が出迎える。


 武器を降ろし、二人は先を急ぐ。


 「おかしい…。人が通っている雰囲気が全くない。これは一体…」


 シャルロットは目の前の蜘蛛の巣を片付ける。「ヘイスト様の話によると、ターゲットは私達以上の戦闘能力を持っておられるはずです。建物の中を経由せず、一気に屋上まで向かったかもしれません。そうでなければ、ここまで状態が保存されることはないでしょう」


 「そうだな。積もった埃も、腐った床が軋んだ後さえない。彼が勘違いしているとも考え難いからな。シャルロット、屋上へ急ごう」


 シャルロットはアスターに続き、屋上まで駆け抜ける。




 物見塔 屋上


 屋上に続く螺旋階段を抜けると、一気に視界が開ける。視界の先に、人影が見える。男は外壁に足を投げ出したまま、ゆっくりと振り返る。

 男は二人を見た途端に口角を上げ、「やっと来たな、スレイヴ。雑魚共が殺し合うのを見るのには飽きてたんだ。俺の力はあんな奴らに使うもんじゃねえからな」と独り言を呟く。


 アスターとシャルロットは武器を構える。「御託はいい。とっとと終わらせる。これ以上被害を増やさないためにも」


 男はその言葉を聞いて立ち上がり、二人の前に降り立つ。「ああ、いいなあ。その圧倒的な自信、手慣れた構え。そそるぜ。教会に居た騎士の部隊の隊長さんも、そんな顔してたなあ!一瞬に信頼してた仲間が死んで、動揺して後ずさりして、気迫を放っていたのはほんの一瞬だったがな!アハハハッ!まあいいや、お手並み拝見だ…」

 男は赤黒い光を放つ短刀を取り出し、地面を蹴る。


 直後に金属音が響き、シャルロットが後方の壁に吹き飛ぶ。男は身体を捻ってアスターの腹部目掛けて蹴り込む。アスターはその動きに瞬時に反応し、黒剣で受け止める。しかし、その衝撃は想定の数倍重く、防いだのにも関わらず塔の端まで吹き飛ばされる。


 男は二人が立ち上がるのを気にもせずに顔を上げ、「いやー凄いぜ!俺の攻撃を止めた奴は初めてだ!やっと戦える!俺を楽しませてくれるんだな!嬉しいぜ!」と気味悪く笑う。そして、急にシャルロットの方へ視線を向けて突撃する。


 シャルロットは男が到達する前に体を捻り、その一撃を寸前で回避する。直後、男の短刀が外壁を砕き、周囲に衝撃が轟く。シャルロットは即座に白槍を地面に突き立てて体勢を整える。

 衝撃と白煙が収まると、螺旋階段の上部全てが崩れ去っていた。そして、その砕けた破片が下部への道を完全に封鎖してしまう。


 男は息を吐きながら腕を降ろして振り返る。「これで逃げ場はないな。まあ、この程度の高さならお前らも無傷で降りられるんだろうが。でもまあ、人の援軍は来られなくなったな。こんなに楽しめそうなんだ。邪魔が入ったらつまらない。さあ、続きをしよう!」


 アスターは立ち尽くす男に接近し、黒剣を振るう。しかし、直撃を確信するほどの距離で振るった刃を男は最小限の動きで回避していく。アスターはそれに構わずにさらに攻撃を加速させていく。


 男は回避をしながら、「最強もこの程度か?遅すぎて欠伸が出ちまうぜ、ハハハ!」と挑発する。「それに!」と突然回避を止めて短刀を黒剣にぶつける。アスターの黒剣はいとも簡単に止まり、男はアスターに顔を近づけ、「遅い、弱い。この程度か?」と嘲笑する。

 男は体を捻ってアスターの腹部を蹴り飛ばす。地面に伏した彼を見下しながら、視線を向けることなくシャルロットの白槍を受け止める。シャルロットはすぐさま体を捻り、白槍を再度突き込む。その速度はアスターの攻撃の比ではないほど早く、男の脇腹を掠める。


 男はすぐさま後退し、脇腹に手を添える。そして、手に付着する赤い液体を見つめ「おいおいマジか。こりゃすげえ。俺とやり合ええるってのか」と手をグッと握りしめながら笑う。「いいぜ、もっとだ!俺はこの力で、本当の戦いをしてみたかったんだ!」と短刀を強く握り、構える。


 シャルロットは静かに男を睨み、姿を消す。直後、日を遮るように影が覆い、一筋の光が煌めく。瞬く間もなく男の身体が外壁に叩きつけられ、衝撃が轟く。男は目を見開きながら視線を降ろすと、その体には白槍が突き立てられていた。男は手を伸ばすが、白槍は触れる間もなく霧散する。身体に穴が開き、地面に血が伝う。

 男は手に伝う血を見つめ、その先に居る二人を捉える。「どうなってる…俺は…貴様らより圧倒的に上だった。それは明らかだったはず…」


 シャルロットは男を無視してアスターの元に駆け寄り、「大丈夫ですか?お兄様」と心配そうに見上げる。アスターも服に付いた砂を落としながら、「大丈夫。ありがとうな」と応じる。


 男は目の前の光景に怒り、拳を地面に叩きつける。「クソッ!一撃入れただけでいい気になるなよッ!」よろよろと体を起こし、短剣を地面に突き立てる。直後、赤黒い霧が漏れ出す。霧は瞬く間に広がり、物を作るかのように規則的に形を作り、収縮する。霧が晴れると、そこには数体の騎士の姿があった。そのどれもがヘイスト以上の高位な騎士の装備を手にしていた。


 二人は瞬時に体制を整え、武器を構える。


 男は傷口を抑えながら立ち上がり、「ハハハ!お前らは正義の騎士様なんだろ?なら、正義の為に敵になった友達だった奴を倒してみろよ!」と笑う。その言葉に共鳴するように、高位な騎士達は赤黒い霧を兜から洩らしながら、2人に襲い掛かる。同時に、短剣から漏れ出し続ける赤黒い霧が男の傷口へゆっくりと流れ込んでいく。


 「シャルロット。彼らを解放するぞ」と告げ、アスターは高位な騎士の懐に飛び込む。そして、瞬時に2人の騎士を斬って捨てる。


 シャルロットも頷き、慣れた手つきで白槍を構え、騎士を葬っていく。


 数秒後には、6体も居た高貴な騎士の亡霊は、その魂をあるべき場所に還して静まっていた。


 男はその光景に目を見開き、「お前ら、その行動がどれほどまでに残酷か理解しているのか?!そいつらはかつて、教会に居たあいつのように部隊を指揮した隊長たちだぞ!お前らを知るものだって居たはずだ!なのによくも簡単に斬り捨てられたな!頭がおかしいのか?!感情がないのか?!化け物どもめ!」と明らかに動揺し、それを隠さずに発しながら後ずさりする。


 アスターは明らかな殺気を纏いながら男に近づいていく。「彼らを傀儡にして嘲笑っていたお前が口にする言葉なのか?使命を終えて安らぎに向かう彼らを縛り、剰え望まぬ形でその力を振るわせるお前が…?彼らはその高貴な使命を全うし、その生涯を終えた。彼らの鍛え上げた力は、お前のような醜い欲望に捕らわれた人間が振るわせていいものではない。彼らはそれぞれの信念、正義の為に、ハインドゴーンの未来の為に剣をとってくれた。そんな彼らをこれほどに愚弄したお前を正しく葬る事はしない。塵も残さずに消してやるよ」

 アスターの意志に呼応するかのように、握られた黒剣に緋色の光を流し始める。静かに滾るその緋剣は周囲に陽炎を生成していく。


 男はアスターの接近に怯み、後ずさりする。「おい、止めろ!来るな!」そう叫んだ瞬間であった。男の姿が一瞬にして消える。瞬く間もなくアスターの目の前に現れ、短刀を突き立てる。しかし、短刀は緋剣の刀身に触れ、大きな金属音と衝撃が響く。

 「そんな馬鹿なッ!なぜ反応できる?!」と奇襲の一手を視線すら向けずに受け止めたアスターに向けて叫ぶ。すぐさま姿を消し、幾度も同様の奇襲を繰り返す。「まぐれだッ!この動きが読めるわけがないッ!」と男の焦る声と剣同士がぶつかり合う衝撃音のみが鼓膜を揺らす。


 数十回の剣戟の後、一瞬音が途切れる。アスターは男の攻撃を受け止めるのではなく、達人技ともいえるギリギリで回避する。即座に体を捻り、バランスの崩れた男に一閃する。

 大きな衝撃が響き渡り、男の体がしなる。塔の端に土煙が舞い上がり、衝撃が二人の服を揺らす。アスターは息を静かに吐きながら男が吹き飛んだ場所を睨む。直後に土煙が揺らぎ、彼の目の前に男が一瞬にして迫る。「一撃で死ぬと思ったか?そんなわけねえだろッ!」と虚勢を張るように大声で叫び、短刀を振り下ろす。しかし、男の姿はその言葉が終わる前にアスターの視界から消える。次に脳が認識したのは、シャルロットの姿だった。


 アスターはシャルロットが見ている方へ視線を向け、塔の外壁にぐったりと寄りかかる男を見つめる。男は身体の至る所に致命傷ともいえる傷を作りながらもなお、フラフラと立ち上がる。「どうなってんだ…さっきまでは圧倒してたはず…。俺は…お前らより多くの恩寵を受けてこの場に立っているんだぞ…この俺が、どうしてお前らなんかに…こんなことはあり得ねえ…」とブツブツと呟きながら短刀を構えようとする。先程から漏れ出し続ける赤黒い霧は絶え間なく男の傷口に入り込み続け、ゆっくりとその傷を癒しているように見えた。

 「俺の体は特別なんだ…。あの方から力を貰ったからな。俺の体がどれだけ傷ついたとしても、俺が死ぬことはない。この霧が治すからな…。お前らが幾ら強がっても、死なねえ奴と死ぬ奴では勝敗ははっきりとしてるんだぜ…諦めてさっさと死んだ方が身のためだ」と先ほどの怯えた顔とは一変して余裕の表情を見せる。


 アスターはその言葉を聞きながら、「お前の体は赤黒い霧に治されているのか?力を与えた奴ってのは知らないが、その霧の能力は浸食して支配する事。お前は、その力を与えた奴の傀儡になりかけているんじゃないのか?」と淡々と尋ねる。


 男は笑いながら、「おいおい、そんな馬鹿みてえな推理で俺がビビると思ったか?この力はあの方の力だったが、今は俺の力だ。俺の力が俺を治してんだ。それに、あの方はお前らの何倍も強い力を有してる。そんな方がわざわざそんな回りくどい事をするわけがねえ。俺は信頼されてんだ」と力説する。その言葉にはどこか不安を感じさせるものがあった。


 アスターは男の不安をさらに煽るように、「それよりも、お前の能力はその霧で治癒する事らしいな。だが、体をよく見てみろ。僕が与えた傷の部分は依然癒えていないようだが?」と尋ねる。


 男はその言葉を真に受け、視線を下におろす。「おいおい、こりゃどういうことだ!?」とその体の状態に驚愕する。男の体は確かに霧によって治癒され続けていたが、アスターが緋色の光で一閃した部分のみは、霧が侵入を避けるような動きを見せていた。男はその事実に驚愕したように後ずさりし、「なんでだ…?!どうして治さない…?」と動揺を露わにする。


 アスターは最後の一言として、「僕の力はお前に効果があるようだな。つまり、僕はお前を殺せるということだ。大人しくするべきはどちらか、理解したか?」と淡々と伝える。


 男は動揺を見せながら、短刀を構える。「ちょっと効果があった程度で調子に乗るなよッ!お前の動きはもう見た。もうお前の攻撃なんか…っ…。なんだ…頭が…ッ」と急に男は目を見開き、頭を抱える。


(お前は失敗したようだな。我が僕?あそこまでの力を渡してやったというのに残念だ。…。ああ…いいことを思いついた。彼らの力を把握するためにも、一戦交えておこう。どの道こちらに来るんだろうからね)


 男は頭を抱えながら、崩れ落ちるように跪く。そして、涙を流しながら首を横に振る。「待って!待ってくれ!今からこいつらを始末するところだ!あんたの言ったとおりにやっただろ!」と誰かに懇願するように声を上げる。


 (ああ、そうだな。貴様はよくやった。任務を全うし、南西区画を地獄に仕上げた。想定以上だ、素晴らしい)


 男は神を見たかのように涙を流し、「そうだろう?!なら、これからの俺の逆転劇も見ていてくれよ!結果は言うまでもない!」と続けた。


 (ええ、もちろん…ダメよ)


 男はその瞬間、絶望した表情を見せた。直後、塞がりかけていた傷口や口元から赤黒い霧が立ち込め、男を覆うその瞬間に。

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