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9話 責務の為に

道の中央には、イリーゼが立っていた。


 「お母様?」「母さん?」と二人で首を傾げる。


 「なんで?って顔ね」と笑う。すぐに真剣な表情となり、「信号は見たわね。星の民が襲撃を始めてる。リックが屋敷内で首謀者と思われる人物と戦闘中。星の民の被害を受けているのは南西区画と屋敷内に留まってる。先刻、南西区画は騎士団が制圧にかかっていたけど戦果は挙げられなかった。依然として南西区画は混乱状態よ。首謀者が一人なわけない。きっとそっちを纏めてる奴がいる。私はリックに合流して首謀者を叩く。貴方達は南西区画の鎮圧に向かって。いいわね」とだけ告げて屋敷側に消える。


 イリーゼの言葉に二人は頷き、「行きましょう」「ああ、行こう」と地面を蹴る。



 ハインドゴーン 南西区画


 二人は南西区画に到着し、周囲を見下ろす。「これは…ひどい有様ですね…」と目下の街の惨状に目を伏せる。区画の至る所で炎が立ち込め、幾つもの建物が崩壊していた。人々の混乱する声、悲鳴が断続的に響き渡り、最悪の事態を想定させる。


 「とにかく、状況の把握と情報収集をしよう。民間人の救助に向かう」


 「分かりました。こ、こんな状況で申し訳ないのですが…服を…着替えてもいいでしょうか…」とシャルロットが顔を赤らめて尋ねる。


 アスターはその言葉にハッとし、「そうだね。じゃあ、僕が先に偵察する。準備が出来たら合流してくれるか?」と言って鞄を手渡す。


 シャルロットは頷き、それを確認してアスターが南西区画に侵入していく。



 南西区画 住宅街


 アスターは悲鳴の聞こえるままにその方向へ進む。すると、すぐさま数人の民間人を発見する。その姿は、酷い有様であった。獣の爪に抉られたような傷が体に深く刻まれた者。鋭い刃物で切り裂かれたような跡を残す者。様々であった。

 民間人の状態を観察していると、小さな声が聞こえる。「タス…ケテ…」と。アスターはすぐさま声の元に走り、その人間の姿を確認する。民間人の男は、腹部を大きく抉られ、今にも息絶えそうな状態であった。


 「何があった」


 「奴らが…急に…街に…。騎士団の…人たちも…奴らに…」そう言って、彼はぐったりと力無く項垂れる。

 アスターは小さく祈りをささげ、移動しようとする。直後、甲冑を着た者が歩く音が聞こえる。即座に近くの家屋に身を潜め、様子をうかがう。

 アスターが隠れた直後、騎士の装いをした人間が姿を現す。騎士は倒れ込む民間人を一瞥し、息絶えた人々に剣を突き立てる。数人の民間人に剣を突き立てた後、興味を失ったかのように騎士は来た道を引き返す。


 直後、人の気配を感じて攻撃姿勢をとって振り返る。その動きを優しく止め、「お兄様。お待たせいたしました。」とシャルロットが申し訳なさそうに声をかけてくる。


 アスターはすぐさま手を降ろし、「わ、悪い。気を取られて気が付かなかった」と謝罪する。


 「いえ、驚かせてしまい申し訳ありません。それより、あの騎士は…」と不安そうに騎士が通った道を見つめる。


 「ああ。あれは普通じゃない。ハインドゴーン騎士団は統率された騎士団だ。たとえ人の目がなくとも、あのような行動をするような人間はいない。だから、考えられることは二つ。騎士の鎧を星の民が奪って、生き残った人々を索敵しているか。中の人が何らかの形で正気を失っているかだ。」


 「考えたくありませんが、前者であって欲しいものです。後者であるならば、私達には手の出しようがありません…」とシャルロットは苦い表情を見せる。


 「そうだな。とりあえず、情報をもう少し探ろう。考えずとも答えはこちらに迫ってくる」と呟き、家屋を出る。


 二人は騎士の通った道を進み、中央部に近づいていく。そちら側ではまだ人の声が響いていたからだ。歩き出そうとした時、視線を感じて二人は戦闘姿勢をとって近くの崩壊した家屋を睨む。すると、そこには手招きをする民間人の姿があった。

 二人は手招きされるままに家屋に入る。そこには、軽傷の民間人の女性と子供がぐったりと床に座りこんでいた。


 男は2人を迎え入れてから周囲を見渡し、扉を閉める。「あんたら、ここの人間じゃないな?何処から来た?」


 「僕達は屋敷から派遣されてきました。アルマー様直属の人間です。状況を教えてくださいますか?」


 その言葉に男は驚きを見せ、「騎士団の連中と同じか!?まだ生き残りが居たとはな」と呟く。


 「どういう意味ですか?」とシャルロットが首を傾げる。


 男は息を飲み、「騎士団の連中は奴らに全員やられたと思っていたよ。あいつらはここに入ってすぐに生き残った民間人達の救出より事態の収束を優先しようとしたんだ。騎士団は集団で中央に進んで、一瞬でやられていった。奴の手にかかっちまったから」と怯えるように話した。


 「奴ってのは何なんだ?」


 「あんたらは見てないのか。幸運だな。奴ってのはナイフを持った男。普通の男だ。特徴は、赤黒く発光するナイフを持っている事。それと、斬った人間を蘇らせるて手駒にすること。蘇った人々はどういうわけか周囲の人々を襲い、殺しまわり始める。手駒となった人々は敵味方の区別なく殺し合い、ほとんど壊滅した。」


 最悪の事態だった。アスターとシャルロットは苦い表情で項垂れる。「そう…ですか…。」


 「俺は、状況を好転するために生き残った人達と情報を共有しながら動き続けた。その中で分かった事は二つ。まず、蘇った奴らには首謀者の男と違って倒した奴を蘇らせる能力はない。もう一つは、騎士団の中に生き残りがまだ居て、抵抗してるという事。奴に向かった騎士達は全滅して手駒になったが、ここから南に進んだ先に最初の戦闘に参加しなかった小隊が抵抗しているって話だ。俺達生き残りは彼らに助けを求めることが唯一の道だからとそちらに向かってた。だが、そこにたどり着くまでにご覧のありさまだ」と自身と傷ついた二人に視線を送る。「今、俺達みたいに話せる人間はほとんど残っていないと思う。その小隊も生きているかどうか。今はこの辺も手駒になった騎士たちがウロウロしてて俺達に打てる手はない」と辛そうに顔をしかめる。


 「どうして区画を出ようとしなかったんだ?」


 「皆最初は出ることを目指したさ。だが、どういうわけか出られなかった。気が付いているだろうが、ここは襲撃後から赤黒い霧が薄っすらとあたりを覆ってる。これのせいなのかは知らねえけど、この区画を出ようとしても歩いているうちにこっちに戻ってきちまう。騎士団は入ってきてたから、入る事は出来るんだろう。けれど出られないんだ。全く…奴が来てから、あり得ねえことばかりだ…」


 「状況は分かりました。僕達は騎士団との合流を目指します。貴方達はこの場所に身を潜めることに専念してください。必ず戻ります」と告げ、立ち上がる。


 男は頷き、「分かった。俺はそこの親子とここに居ることにする。状況はかなり厳しい。俺達は自身の身を優先する。君達も、無理はしないでくれ。無事を祈ってる」と二人に伝えた。


 アスターとシャルロットは男に感謝を告げ、南に向かう。


 しかし、すぐさまその歩みは止められてしまう。「助けて!お願い!あああああ!」と人の声が聞こえたからだ。


 「兄様!」「ああ!」と二人はすぐに声の方へ向かう。


 その場所は袋小路になっているようで、女性は騎士二人に囲まれていた。騎士を見上げながら後ずさりする女性は壁に当たり、座り込んでしまっていた。恐怖で声すら出なくなり、震える手で顔を覆ってしまう。それと同時に、アスターはすぐさま黒剣を顕現させ、騎士二人の首に一閃する。騎士は魂が抜けたかのように地面に伏した。


 すぐさまシャルロットが駆け寄り、「お怪我はありませんか?」と女性に手を貸す。


 女性は依然怯えた様子で彼女に視線を向ける。「あ、貴方…達は…?」


 「アルマー様の騎士です。鎧は着ていませんが」と笑って声をかける。


 女性は驚いた表情で地に伏した騎士とシャルロットとの間を視線が行き来する。「あんた、仲間を殺したのか?どうして?私も…殺すの…?」と後ずさりする。


 「いいえ、騎士達は皆高潔な者達です。星の民の傀儡となっていなければこんな虐殺を行う事はあり得ません。我ら騎士は、力を持たぬ民を守るために日々鍛錬を積み、剣を振るってきたのですから」とアスターが答える。


 女性は怯えたまま、「そんな事が信じられるわけないでしょ!騎士達は嬉々として私達を手にかけ続けてる。あんたらもそうなんでしょ!私を殺さないというなら、早く消えて!貴方達を信用することはできない!」と吠える。


 シャルロットは差し出した手を戻し、「分かりました。可能な限り静かに、身を隠せる場所を探してください。全てが終われば、必ず助けに戻ります」と告げて先を急ぐ。アスターもそれに続いた。


 その後も似たような状況に何度か遭遇する。アスターとシャルロットは民間人に声をかけず、敵対する人、騎士。その全てのみを斬り、進む。


 そうして南に進み続けていると、戦闘音が聞こえてくる。


 アスターとシャルロットは戦闘音のする方へ急ぐ。その場には、高貴な騎士の甲冑を着た男が一人、複数の騎士を相手に一歩も引かずに防戦していた。彼の背後を迫る騎士の剣を弾き、アスターが割って入る。


 「大事ありませんか」


 騎士は苦い表情を見せながら、「ええ。助力に感謝いたします。アスター様」と答える。「見えますか。アスター様の左前側の崩れた協会に民間人が匿われています。彼らを守っていただけますか」と小さな声で続ける。


 アスターは頷き、シャルロットがすぐさまそちらに向かう。「ここを切り抜けます。背中は任せてください」


 騎士は頷き、目の前の騎士の胸を貫く。「感謝いたします」


 アスターと騎士は周囲の騎士を瞬く間に斬り捨てる。地に伏した騎士達を前に彼は静かに跪き、祈りをささげる。アスターも続く。

 騎士は祈りを終えて口を開く。「彼らは私の部下です。幾つもの戦場を共にし、家族のように長い時を過ごした大切な人達でした。そんな彼らを、目の前で一瞬にして殺されました。奴は、遊んでいるかのように笑いながら、蘇る彼らを見下していました。そして、私の部下達は命令されたかのように剣を握り、私に迫りました」

 「その時、この場で彼らに殺されることが部下を守れない愚かな隊長の罪滅ぼしになる。そう考えました。ですが、頭の中の彼らがそれを否定し続け、私は抵抗を選びました。結果として彼らがこうして安らかに眠りにつけた事。それを私の手で行えた事。アスター様が来てくださらなければ叶いませんでした。感謝します」


 アスターはその言葉を静かに受け止める。


 そうして静かな時間が続き、騎士が立ち上がる。「時間を取らせまてしまい申し訳ありません。気持ちの整理がつきました」とアスターに声をかける。


 アスターは首を横に振り、「いいえ。死者を尊ぶ時間を長いなどと思いません」と優しく答える。


 騎士は静かに礼をし、教会付近で立っていたシャルロットの方へ向かう。「状況をお伝えさせてください」

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