姉が結婚式から逃げました。
シーン
静まり返るチャペル。
誰もが、突然の出来事に、フリーズしている。
最初に動き出したのは、式場スタッフ。
「!!、何してるの、追いかけて!。」
数人のスタッフが慌てて会場の外へ走り出す。
我にかえった両親も、新郎の父親も、チャペルの外へ走って行く。
(…これは、私も行ったほうがいいのかな?、どうしたら…。)
立ち上がったのはよいが、おろおろしてしまう。
「心晴さん、私達も行きましょう。」
新郎の母親、加奈枝さんが、新郎である聡さんに支えられながらわたしを促した。
「皆様、このまま少々お待ち下さい。」
会場スタッフの言葉に、招待客も騒ぎ出す。
スタッフに誘導され、父達と合流した。
「お父さん、お姉ちゃんは?。」
「…だめだ、どうやら計画的だったみたいだな。」
父と母は、目を見合せると、揃って膝をつき頭を下げる。
「渡瀬さん、何とお詫びすればよいのか、うちの娘が本当に申し訳ないことを。」
私も慌てて隣に座り、頭を下げる。
「頭を上げて下さい。神楽さん。…まあ、何というか、なんとなく、三咲さんとは、上手くいかな気がしていたので、これはこれで…、まあ、良かったのかもしれません。」
新郎の聡さんが、父と母、私を立たせる。
「まあ、確かに、三咲さんと聡が上手く行くとは、思えなかったのは、確かね。嫌なら、早く言ってくれれば、何で今日なの?。」
加奈枝さんも、首をかしげる。
「…お姉ちゃんの性格なら、今日かな。」
「おとなしくしてたからな。まさか、当日これ見よがしに駆け落ちするとか、あの男誰だ?。」
式の序盤、バージンロードを歩き、新郎に父親が託す寸前、突然扉が開き、
「三咲!。」
姉は、振り返って、ためらいなくその男に走りより、立ち止まることなく、二人でチャペルを走り抜け、消えて行った。時間にして、10秒ちょっと。
あまりに一瞬の出来事に、誰もが何が起こったかわからず、追いかけるのが遅れた。
入口に、車が止まっていて、二人は後部座席に乗り込みあっというまに消えて行ったと、たまたま入口近くにいた方の証言。
「…あ、お姉ちゃん少し前に、ウェディングドレス変えたよね、裾の長いやつから、…短いのに。」
「走って逃げるためにかえたのか。」
全員が、ため息をつく。
「とりあえず、招待客に説明を。」
聡さんが、スタッフを呼ぶ。
「そうですね、…私から話します。」
父は、項垂れていた頭を起こし、渡瀬さん達にお願いした。
「いや、神楽さん。二人で話そう、お互いかなり仕事関係者も招待している、聡、ダイジョブか?。」
聡さんは、腕を組んで何やら考えている。
全員で、チャペルへ戻り、スタッフにマイクを借りたお父さんが招待客に説明を始める。
「皆様、本日は二人の為にお集まりいただいたのに、大変申し訳ありません。新婦である、娘、三咲が、…駆け落ち?、いや、まだ分からないので、会場から逃走しました。」
ざわつく会場。
「本日の式は取り止めにいたします。ご祝儀は、お返し致します。そしてこの後の披露宴は、お食事会とさせていただきます。」
「あの、ちょっと待ってもらえますか。」
聡さんが、マイクを父から受け取る。
「皆様少しだけ、お時間を。そもそも、この結婚は、渡瀬家と神楽家の結婚です。まあ、いわゆる政略結婚。
心晴さん。」
突然名前を呼ばれて、びっくりする。
「正直、三咲さんとの結婚、僕も乗り気ではなかった。この話しが上がった時、心晴さんが高校3年生で、三咲さんが23歳。必然的にお姉さんと結婚で話が進んだ。君は大学受験目前の大事な時期。学びたい事があると話していた時に素敵なお嬢さんだなと、思ったんだ。かたや、お姉さんは、僕の容姿をみて、そっぽ向いて携帯いじり始めてた。あの頃僕は、仕事が忙しくて髪はボサボサ、少しふっくらしてたし。」
聡さんは、苦笑いする。
「さすがに、結婚式までに、元の体型に頑張ってもどしたし、見た目もきちんとしたんだけどね。」
「そうですよ、お姉ちゃん、今の聡さんみたら、絶対結婚してたと思います。お姉ちゃん見た目に弱いから。会場来てから一度も顔合わせなかったんですか?。」
「…挨拶に行ったけど、無視された。携帯見ててこっち見なかったよ。」
お姉ちゃん、アホだ。
今の聡さんは、滅茶苦茶イケメン、絶対お姉ちゃんのタイプなのに。
思わず、マイクを奪い取ると、
「皆さん、聡さんは、こんなに素敵な方なんです!、今日の出来事は、きっと神様が結婚辞めなさいって、うちのお姉ちゃんなんかにはもったいない、そう言ってると思うんです。聡さんには、もっと素敵な人がいつかきっと現れます。だから…」
「うん、だから、心晴さん、僕と結婚しない?。」
「…は???。」
「さすがに高校生は、まずいかと思ってたけど、今大学生だよね。もちろん、結婚しても大学辞めろなんて言わないよ。」
聡さんは、牧師さんから指輪が2つ入った台座を受け取り、片膝をつき、
「神様は、僕に間違いを正すチャンスをくれた。神楽心晴さん。僕と結婚してくれませんか?。」
(な、何で、私??。)
会場は、シーンと静まり返り、私達二人に注目している。
(うわ、視線が痛い、まだ結婚とか考えた事ないのに~でもこの場を納めるには最良の判断だょ~、どうしたら!!。それにこの指輪、お姉ちゃんのサイズ…だよね、…私入らないんだけど、ほんとどうしたら…)
ちらっと、父と母を見ると、二人とも必死な顔でこっちをガン見している。
受けろ~、絶対受けろ~と、…メチャ顔に出ている。
聡さんのご両親も、同じような感じで、目が合うと、ぐっと握り拳で頷いている。
(招待客200人近く会社関係で呼んでるし。面目丸つぶれを回避したいよな…、でも、指輪入らないよ~。)
姉のサイズは、7号、私は何と13号。産まれながらに手は大きい方で、指も太い。姉に散々からかわれた。
「……指輪が…いや、入れば…、神様も、うん、どうしたもんじゃ~、えーと…。」
どうしていいかわからず混乱で何かわからない言葉が口から出てくる。
「指輪が入れば、いいのかな?、じゃあ。」
聡さんが私の左手を取り、薬指にリングを付ける。
「え?、ウソ!…入った!」
私の指細くなった!!。
「どうやら神様はこうなる事をわかっていたみたいだね。」
聡さんがニッコリ笑って、招待客に向き直る。
「皆さん、大変お騒がせしました。私は、神楽心晴さんと結婚します。」
会場中から、拍手が巻き起こる。
「今日の式は中止にします。彼女が無事大学卒業したら改めて二人の式を挙げさせて下さい。」
聡さんが、頭を下げ、両家の親族が立ち上がり招待客に頭を下げた。
「皆さま披露宴会場へ、ご移動お願いします。お食事の準備をさせていただきます。」
タイミングよく、スタッフが声をかけて皆が移動を始める。
「心晴さん。よく、決意してくれた。ありがとう、これで我々の面目がたつよ。後は我々に任せてくれ。」
両親達と、聡さん、スタッフは一緒にこの後の打ち合わせをはじめた。
(……あたし、結婚するんだ…この人と…。)
元々、神楽家がやっている神楽屋、父は、3代目社長だが、最近事業が上手くいっておらず、渡瀬コーポレーションと事業提携で立て直しをはかろうとしている。
お互いにメリットがある提携だが、長い付き合いにしたい思惑がお互いにあり、ちょうど聡さんが子会社の社長就任を控えていた為、結婚をそろそろと考えていた。
神楽家に2人お嬢さんがいるなら是非にと。
最初は、お姉ちゃんも乗り気だった。
次期渡瀬コーポレーション社長の結婚相手だ。
いつもは、勉強ばかりしてる、不細工女とか、罵ってるのに、急に、「大学受験頑張りなさい、落ちたら私の恥になるから、社長夫人は、私に任せて、あんたは、大学で地味に研究でもしてなさい。」と、やたら上機嫌だった。
…顔合わせの日までは。
約1年前。
料亭での顔合わせ。
着物で着飾ったお姉ちゃん。
妹の私が見ても、惚れ惚れする美しさ。
遅れてきた聡さん。
それまでニコニコ顔が、一気に強張る。
「?!、あり得ないんだけど、こんなデブと結婚しろって言うの!、この私が!?。写真と全然違うじゃない、詐欺よこんなの!」
さっきまでの菩薩のような顔から、般若の様になり、ソッポを向く。
両親は、平謝り。
聡さんは、苦笑い。
渡瀬のご両親は、お姉ちゃんを、冷たい目で見ながらも、聡さんの身だしなみにも苦言を。
「聡、お前もせめて髪ぐらい切ってきなさい。まったく…。」
「スミマセン、仕事が忙しくて、最近は外食ばかりで、…式までには、もう少し痩せますよ。」
「私の隣に立つなら、ふさわしい体型になってもらわないと。」
お姉ちゃん一人だけ何故か上から発言。
(そんなに嫌かな?。むしろ優しくて好い人そうだけど…。森のくまさんみたい。)
あんなお姉ちゃんに、怒りもせず、むしろ下手に出るわけでもない。
会話からは知性も感じられた。
ちらっと、私を見ると、ボサボサの髪の間から、優しい視線を感じた。
「妹さんも、お腹すきましたよね。ここの料理は絶品ですよ。さ、食べましょ。」
いつの間にか、空気は穏やかになり、食事が始まる。
(すごいな、あの空気を替えちゃった…、キレたお姉ちゃんもしぶしぶだけど、おとなしく座ってるし。)
お料理も絶品で、気がつけば穏やかな会食になっていた。
私は、一歩外からこのお見合いを眺めている感じでこの場に居たから解る。
この空気を作ったのは、聡さんだ。
全員に気を配りながら会話して、お姉ちゃんの性格も少しずつ会話で読み取りながら、すっかり聡ワールドに誘い込み、食事が終わるころには、両親は、すっかり聡信者。姉は、
「…いいわ、まあ結婚しても。必ずやせなさいよ。」
まだ、少し斜め横に顔はむけたままだが、あの姉からその言葉を吐き出させた。
(…すごい、この人…。)
料亭を出ると、姉は飲みなおすと、タクシーで一人去って行った。
姉が去って、両親は、改めて渡瀬家の皆様に頭を下げ、
「あんな娘で申し訳ない…、娘は、聡さんに勿体無い。この話はなかった事に…。」
「頭を上げて下さい。お互いの会社の事もあります。この話は、一旦、日をおいて話し合いの場をもうけましょう。あのお嬢さんだと、明日起きたら「やっぱ辞めた。」とか言いそうですし。」
「すごいですね、聡さん。たった数時間で姉の性格把握しましたね。」
「ふ、ふ。いや神楽家の皆さんには申し訳ないけれど、楽しかったですよ。久しぶりに、なかなかの人間に遇いました。妹さんも、かなり観察されてましたよね。あぁ、僕が二人いたら、一人そっち側でこの状況をじっくり視ながら観察出来たのに。」
「聡…、お前なぁ。こちらこそ、うちの息子…こういう所が嫌って、すぐ振られるばかりで…。けして顔も悪くないんですが…。お恥ずかしながら、太っているのも…。」
「イケメンが、ブクブク太っていくと、女性の視線が少しずつ変わっていくのがもう面白くて。何か止められなくなってきちゃたんですよね。どこまで太ろうか辞め時が分からなくなってきてたから、お姉さんの痩せなさい命令は、渡りに船でして。結婚がなくなると、もうすぐ夢の80キロ代に突入しちゃうんですよね。流石にこれ以上は、痩せるのが、大変だから…。」
「…逆も、楽しそうじゃないですか?。」
「逆?。」
私の言葉に皆の、視線が集中する。
「イケメンがどんどん太って冷ややかな視線を向けてた女性達。今度はだんだん痩せていく聡さんに、どんな表情変えるのか。あわてて、手のひら返したら、超ー美人の婚約者が隣に。悔しがる女子達!。」
「!!、いいね!、それ。うわぁ楽しそう!。」
聡さんは、満面のえみで、私の手を取ると、ブンブン振り回す。
「ありがとう、心晴さん。」
温かい手だな。
やっぱり良い人だな。お姉ちゃんには、勿体無い。
「では、この件は、後日。」
*
「結婚話そのまま続けてね。」
次の日、姉がかなり上機嫌で朝帰りしてきた。
予想外の言葉に、私達は驚く。
それからトントン拍子に話は進み、一年後、本日結婚式。
*
「今思えば、お姉ちゃん最初から結婚する気なかったんじゃないかなぁ。」
食事会を終え、渡瀬家、神楽家の面々は、控え室で全員ぐったりしていた。
招待客に頭を下げ、酒を、注いで、時には励まされ、お叱りをうけ、それを真摯に受け止め、最後にはほとんどの皆さんが両家に好意的になっていただいて、笑顔でお見送り。もちろんご祝儀も返却。
「そうかもね~、式の準備も母さんとお義母さんに丸投げだったし、やった事ってドレス選びだけだよね~。」
聡さんも、ソファーに全身投げ出して、天井を見上げてる。
「私達も悪かったわね~、会社関係の方が沢山くるからって、全部引き受けてしまったし。」
母と、加奈枝さんは、二人とも着物だったが、着替えて、ラフな服になり皆にコーヒーを配る。
「そうですね、もっと参加させれば良かったわ~。」
「それにしても、あの男は誰だ??。とっつかまえて、慰謝料請求してやる。」
父は、憤慨しながらコーヒーを一気にのみほした。
「しかし、駆け落ちとは、ぷ、くく、は、いや、本当に面白いお姉さんだよね~。」
「聡。笑い事じゃないぞ。」
「いやいや、笑い事ですよ。彼女達、我々を敵に回して、生きて行けますかね~。この会場にどんな方々が来てたか、まあ知らないからあんな事が出来たんでしょうけど。」
本当それ。
お姉ちゃんは、式の準備丸投げだったから、招待客のリストなんて見てないだろう。
渡瀬コーポレーションの、仕事関係者は、ほとんど社長クラスが招待されていたし、議員や、市長も来ていた。
聡さんのは、顔が広いので、沢山友達も呼んでいたし、会社の次期社長の跡取り仲間がゴロゴロいる。
お姉ちゃんの友達達は、始まる前、招待客リストを見て、目をキラーンと光らせてハンターモードだったけど、新婦が逃げてしまったので流石にハンターになれず、皆さんしょんぼり食事。
聡さんの友達が、なんとか聡さんを助けようと、彼女達に情報収集し始めたら、とたんに元気になって情報交換に紛れて連絡先交換してた。
流石ハンター。
そして、私は知っている。
それを誘導したのが聡さん。
同情して、慰めに来てくれた友達に
「ありがとう、…あぁ、でも彼女達も可哀想だな、あそこだけお通夜みたいだ…。彼女達は、何も悪くないのに肩身狭くなっちゃって。三咲さんが何処に行きそうか、話を聞きたいんだけど…。」
「ダイジョブだよ、俺達に任せておけよ。お前は、まだ挨拶まわらなきゃだろ。」
さすが聡さん。
こんな時でも、回りをきちんと見ている。
私は、挨拶にいっぱいいっぱいで、姉の友達の事まで気がまわらなかった。
(…あれ??。)
そういえば…。
「ねぇ、お父さん、お母さん…、お姉ちゃんこれからどうするんだろー。」
「どうするって、相手の男の所にでも住むんじゃない?。」
「…うーん…」
「?どうしたの心晴さん、何か?。」
「いや、うまくいえないんですけど…、何かあのお姉ちゃんなら、一週間くらいで普通に部屋にいそう。…そう、だって掃除も洗濯も、料理もしないお姉ちゃんが駆け落ち…絶対、家政婦雇ってエステとかネイルとか、そういう生活したいはずなのに。聡さんと結婚しちゃえば叶うのに。何かおかしい。」
「そうだな、相手が余程の金持ちなのか?。いや、逃げた車は普通の車だっていってたな。あいつ自身働いてないのに…金何かないだろ…。」
聡さんが、ガバッと起き上がる。
「スミマセン、自宅に金目の物とか、有りませんか?!。」
「多少は…まさか!、あいつ!。」
お父さんも立ち上がると、ドアに向かって走り出す。
「心晴、母さんと荷物頼む。」
「父さん僕も、行きます。まだ捕まえられるかもしれない。」
「はぁ、わかった。行け。」
「心晴さん、また後で!。」
「はい。」
*
式場から、我が家までは、30分くらい。
姉が、逃亡してから4時間以上たっていた。
結果、いくつか時計と宝石。
姉の部屋にあった引っ越しの荷物がなくなっていた。
新居は、姉があれは嫌、これは駄目でまだ全然決まってなかったので、荷物だけ整理してあった。
今思えば、それもおかしかった。
姉が荷造りを自分でやるなんて。
いつもなら、「心晴、あんた荷造りやっといてね。」
って言ってたはずだ。
母と私も遅ればせながら家に着く。
「心晴、母さん、お帰り。心晴念のため、自分の部屋チェックしてきなさい。普通に泥棒の、可能性もなくないからあまりさわらないように。」
「わかった。」
自分の部屋に向かいながら、ため息をつく。
聡さんが、後ろから追いかけてきた。
「心晴さん、大丈夫?、近くまで付いていって良いかな。」
「…はい。…は、は、多分ダイジョブです。姉にお金取られるなんて、いつもの事何で…、最近じゃ、わざと解りやすい所に1000円だけおいて、他は絶対ばれない所に隠してるんですよ。あ、ほら無事です。あー、でも。」
洋服ダンスを開けると、明らかに服が減っていた。
「お金が見つからないから、売れそうな洋服だけ選んで持って行きましたね。バックもないや。あれ、初めてバイトした給料で買ったのに…。」
「…心晴さん…」
もう、いろんな事が起こりすぎて、頭の中がぐちゃぐちゃだ。
「聡さん、スミマセン何かもう何に謝ってるのか…」
「うん、君は、悪くないよ。」
聡さんがそっと抱きしめてくれる。
(やっぱり温かい…。落ち着くなぁ…。)
聡さんの体温に、少しずつ心が落ち着きを取り戻してきた。
(落ち着いてきたのは、良いけど…この状況…どうしたら…。)
身動きが出来ない。
「…ん、ん。あー、心晴、どうだった。」
(お父さん、ナイス!タイミング!。)
ガバッっと聡さんから離れると、急いでお父さんに説明を始めた。
「クス、残念。」
(聞こえてます!。)
*
「心晴、おはよう!。何かメチャ噂になってるよ。」
あれから2日。
昨日は、事後処理で、両親は駆けずり回って、私も疲れて、大学を休んだ。
流石に今日は大事な講義がある。
行かない訳にはいかず、大学に足を運んだか、友人の理沙に昼休み強制連行されてカフェテラスに行くと、大学で中の良い友人アキが奥まった人気のない席で手を振っている。
「ちょっと、何、どうなってるの!。心晴、結婚したの!。」
アキは、既に興奮状態。
「してない、してないよまだ……?。て、何で知ってるの!。」
「いやいや、あんなけ招待客いれたら、1人くらい知り合いがいるって。あたしの高校時代の友達の親が出席してたらしいよ。昨日電話かかってきた。」
「あたしの兄貴、新郎の会社の取り引き担当で出席してた~。」
友人のアキのお兄さんは、確か商社勤めだったはず。
「いや、世間は狭いね。聞いたよ新郎超イケメンなんだって!。会社のホームページ調べてチェック済。ちょっと年上だけど、アリだね。」
「いつでも変わってあげるよ。イケメンで社長、お金持ち。いや~お姉さん何で玉の輿ポイ捨てしたかな~。何の躊躇いもなく、一目散に逃げていったんでしょ。すごいね。兄貴真横を新婦がダッシュで走り去って行って、唖然としたらしいよ。あ、そう、それでね、兄貴が携帯撮影してたから良かったら映像どうぞって。これ。」
アキの携帯の映像を皆で確認する。
突然の事に驚いて途中カメラはぶれていたが、最後走り去る二人を映していた。
「ありがたい、これ相手の顔良く写ってる。もらってもいい?。あまりにも突然だったから映像皆写してない人多くて。メチャ助かる。」
私は、早速、お父さんと、聡さんに映像データを送った。
「…何か、この人見たことあるような…?。」
「理沙、知り合い?、名前とか知りたいんだけど。」
「うーん。」
理沙が考え混んでると、私の携帯が着信する。一昨日帰り際に番号を交換した。
(聡さんからだ!。)
「もしもし。」
二人がニタニタこっちを見ている。
「心晴さん、今ダイジョブ?。」
「はい、お昼ごはんで大学の友人達と一緒なんです。」
「映像データありがとう。これ、どうしたの?。」
「これは…。」
事情を話すと、
「その子、そこにいる、代われるかな!。お礼を言いたい。」
アキに電話を代わる。
「いえいえ、お礼は兄貴に、はい、はい。」
アキは携帯を返してきて、悶え始める。
「心晴さん、ありがとう。しばらく忙しいから会えないけど、週末伺うから、待っててね。それじゃ。」
電話を切ると、アキが興奮状態で話はじめる。
「ヤバ!!、イケボなんですけど!!。耳が、耳が!。」
「心晴、今度紹介してね。楽しみ。」
「耳から、イカされるよ、妊娠しちゃう!。心晴、気をつけて!。あんた、あっという間に妊娠、出産、二人、三人って、大学中退まっしぐらだよ。」
「あー、あれは、イケボなのね~、何か納得。まあ一応大学卒業してからって約束だし。ダイジョブじゃない?。」
「万が一に備えて書面化した方がいいよ。あんた、大学辞めたくないでしょ。」
「私ならあんなの、3日もたない…。」
うーん、大袈裟な…と言いたいが、もともと聡さんに悪い印象は持ってないし、あんな姉をもらってくれる、良い人?、まあ実際は変人ポイけど。
あの頃は、まだ高校生だし、自分には関係ないって、他人事。それより、目の前に迫った受験で頭がいっぱいだった。
まさか、自分事になるとは…。
「そろそろ次の授業始まるね、心晴、行こ。」
「あー、今日は、心晴のダーリンの授業かぁ。雨が降っても槍が降っても休まない予定のね。頑張って~。あたしは、あっちだから。」
アキと別れて、理沙と急いで教室に向かう。
ギリギリで滑り込む。
「今日も、最前列空いてるね。良かったね、心晴。じゃ、私は後ろに。」
私は、最前列ど真ん中に座り、理沙は、1つ後ろの席…の端に座る。
「こんにちわ、では、今日はこの前の続きから…。」
中嶋教授が入室、講義が始まる。
教室には、10人くらいしか生徒はいない。
人気のある講義だと、座る席を探すのも一苦労だが、この教授の講義は、専門分野に興味がない生徒はうけない。
(私は、教授の講義を受けたくて、この大学を選んだんだよね~。)
私が学びたい事。
考古学。
昔から、気になる事は調べないと気が済まない。
幼少時代は、花や虫、土や石、そこから、小学生になると生き物や植物全般に、中学時代は、さらに深堀されて、地質学や、化石、恐竜にも興味を持ち、気になるイベントがあれば参加して、質問しまくる。
イベント会場によっては、あまりにもしつこいマニアックな質問をして煙たがれる事もあった。
そんな中、高校生になって初めての夏休みに、中嶋教授が主催した、〖山でキャンプしながら考古学と天文学について学ぼう!〗という体験型イベントが1泊2日であり、参加した時、中嶋教授に運命の出会いをしてしまった。
この2日間、中嶋教授は、質問に真剣に答えてくれたし、時には心晴の質問に、“答え“を教えるのではなく考えさせ答えを導いてくれ、有意義な2日間だった。
天文学の教授も、夜、皆で星を眺めながら興味深い話を沢山してくれた。
中嶋教授に学びたい!。
教授達のような人がいる大学で学びたい!
しかし、心晴の成績は、あまり良くなかった。
なぜなら興味のある事には、俄然やる気を出すが、それ以外には、全くやる気が起きないので、最低限しかやらなかった。
しかし、やりたい事が決まった心晴は、そこからがすごかった。
まだ高校1年の夏だったので受験まで時間もあった。
夏休み明けにすぐに担任に相談。
「私、決めました!。慶明大学受験します!。」
「!!………、正直言おう。無理。お前、1学期の成績、下から数えたほうが早いだろうが。」
「はい!、自分が一番良く分かってます!。でも、決めました。合格する為ならなんでもします。」
「…とりあえず、次のテストで本気見せて見ろ、せめて真ん中以上には…。」
「いーえ、上から数えたほうがって言わせます。」
有言実行。
夏休み明けのテストで心晴は実力を発揮した。
「…お前、ちゃんとやれば出来るのか。…本気で慶明大学受験するなら、最低3年間学年トップ3くらいに入ってないと。」
「任せて下さい!。」
心晴は3年間、学年トップ3に入り続け、担任に白旗を上げさせたのだ。
*
「神楽さん、少しいいかな。」
「はい!。」
講義が終わると、中嶋教授に呼び止められた。
「次の授業あるなら、終わってからで良いけど。」
「ないです。」
「一昨日の事なんだけど、二人きりだとまずいかな、聡に怒られそうだな。問題なければ、友達も一緒にどうかな。」
「?、え、聡って、?。」
理沙は、困惑している。
「理沙、聞いて驚いて。なんと中嶋教授は聡さんの叔父さんだったの。一昨日、会場で会ってビックリ!。」
「僕は、妻実家に婿に入ったから、名字が違うんだよ。」
教授は、聡さんのお父さんが家を継ぐ事になり、研究者として生きて行く決意をして、その時付き合っていた教授のお嬢さんと結婚して婿入りした。
一昨日は、奥さんと一緒に招待されていて、一連の出来事に、一緒に奔走してくれたのだ。
「理沙は、一昨日の事知ってます。問題ないです。」
「そうかい。いや、一晩たって妻がね、心晴さんが心配だって。」
「奥さまが?。」
「あの場を丸く納めた聡の手腕はたいしたもんだけど、完全に、両家の体面を保つ為の手段をとった。君には、NOを言える状況じゃなかったよね。どう見ても突然だったし。君がなやんでるんじゃないかって。必ず今日心晴さんに、話を聞いてくるように言われてね。もし、結婚したくないなら、全面的に協力するからと。」
教授は、あたまをポリポリかきながら、ナイショだよ、と小声になる。
「聡がこの世で一番苦手なのは、実は僕の奥さんなんだ。」
「え?、…なんでですか?。」
思わずこちらも小声になる。
「聡って、ちょっと変わり者だろ?。年に何度か親戚の集まりで会うんだけど、うちの奥さんには、聡節が全く通用しなくて。今じゃ挨拶したら聡の方から逃げていくよ。聡の扱いかたに困ったら、いつでも相談したらいい。」
教授はポケットから名刺を一枚取り出すと、私に差し出した。
「裏に妻のナンバーかいてあるから、困ったら電話してきなさい。」
教授は、私の肩を2度ポンポンと優しく叩くと、「じゃあ、また来週。」と、教室を出ていく。
「まさか、教授と親戚になるって事か。旦那が焼きもち妬きそうじゃない。」
理佐が、ニタニタ笑う。
「なんとなくだけど…、聡さんと教授って似てるかも…。」
「どの辺が?。」
「…周りを良く見て全体を上手い事回す感じ。」
「あー中嶋教授、敵いなそうだもんね~、噂によると、仏の中嶋って言われてるけど、優しいとかって意味じゃないらしいよ。確か、めったに怒らないらしんだけど、…あの人は敵に回してはいけない人なんだって。先輩が言ってたよ。」
「何か分かるかも、聡さんも、多分だけど同じタイプだ。………お姉ちゃん、終わったな。」
あの日、聡さんが唯一怒りを見せた瞬間があった。
私の部屋の荷物が取られてた、あの時だ。
一瞬だったけど目の端に怒りが出てしまい、多分それを私に見せたくなくて、私を抱きしめたんだ。
(聡さん、…私何かで本当にいいのかな。)
*
日曜日、改めて話し合いをする為、神楽家に渡瀬家の皆さんがやってきた。
挨拶もそこそこに、まずはもう一度渡瀬家の皆さんに、3人で頭を下げた。
「この度は、家の娘が…。」
「待って下さい!、頭を下げるのは、こちらの方です。心晴さん、申し訳ない。」
そう言いながら渡瀬家の3人も、頭を下げた。
「え、?、元はと言えば家の長女が…。」
「いや、あの後、弟の嫁に怒られまして…。心晴さんの気持ちを無視して、結婚だなんて、詐欺みたいな事してるんじゃない!って、確かに、あの時、会社の経営者として、結婚式を、あの場をどうするかとしか、考えていなかった。本当に申し訳ない。心晴さんが嫌なら、結婚は白紙にさせてもらっても、構わない。」
「…あの、とりあえず、おあいこと言うことにして、お互い頭あげましょ。話し合い進まないですし。」
全員に声をかけて、元の姿勢に戻って、お茶を入れ直してお茶菓子をテーブルに置く。
改めて話し合いを始めようとしたら。
「あの、少し出て来ていいですか。心晴さんと。」
聡さんがそう言いながら座りかけてた私に手を伸ばし、肩を抱かれた。
「堅苦しい話しはお任せしますよ。僕達は、デートしてきます。」
そう言いながら私の手を掴み、リビングから連れ出されて行く。
「はぁ…、行ってこい。初デートで浮かれて振られるなよ。」
「と、言うわけで、デートしよう心晴さん。出かける準備しておいで。」
「…え、でも…話し合いは…。」
「両親達が話せば十分だよ、横で何時間もただ黙って聞いてるとか、地獄じゃない。それより僕達にはやらなくてはいけない重要な事がある。」
「重要なことですか?!。それは何ですか!。」
「僕達がお互いの事知らなすぎるって事。本当に結婚するにしても、知らなすぎるでしょ。」
聡さんが、ウィンクした。
「ちなみに、お姉さんにも、何回か、デートのお誘いしたよ。一度も出来なかったけど。」
「今日のテーマは、お互いの事を教え合う、かな。」
聡さんが、玄関を開けると、目の前にある駐車場に小さくて可愛い車が止まっていた。
「え、可愛い車。」
「僕の愛車。ルノー トゥインゴ。ルノーって呼んであげて。」
そう言いながら、助手席のドアを開けてくれる。
「さぁ、どうぞ。」
さりげなく左手を出した聡さん。
思わず手をとってしまった。
「外車乗るの始めて。よろしくルノ-ちゃん。」
シートベルトを締めると、聡さんが、聞いてきた。
「さて、姫。どこか行きたいところがあれば、なんなりと。もちろん聡プランもご用意してあります。」
「さすがに急すぎて…ゆっくりお茶でもしながら、お話いっぱい出来れば…ちなみに聡プランは?。」
「A アクアライン一周ドライブ。B 横浜で中華デート。 C 浅草ブラブラ散策デート。」
「じゃあ、浅草ブラブラ散策デートで。」
「かしこまりました、じゃあ他は、次回にとって置くね。」
聡さんはエンジンをかけ、車を発信させる。
「僕は運転中でもおしゃべり可能ですが、心晴さんはOK ?。」
「はい。聡さんがダイジョブなら。」
人によっては、運転中は、話しかけない方がいいという人もいる。
「じゃあ、まずはお互い改めて自己紹介しない?。基本情報確認。」
「なんか、恥ずかしいですね。でもわかりました。」
「まずは俺からね。名前は、渡瀬聡 30歳 男。父と母が一人ずつ。誕生日は11月23日 変わり者が多い射手座。血液型はABで仕事関係者には、A型て言われるけど、プライベートは、B型と言われる事が多いです…。」
聡さんは、自己紹介を聡節?満載で面白おかしく話し始める。
「最近の悩みは、心晴さんとの、年の差かなぁ~。後4年待つけど、俺34歳になる。心晴さんは22歳。12歳差って、ちょっと犯罪?。今のうち気を付けておけよ加齢臭って、この前友達に言われた~。」
「は、は、まあ、その時になってみないと、わからないですよね。」
「次は心晴さん。の番です。」
「神楽心晴、18歳。3月3日産まれ、魚座 B型。慶明大学1年生。考古学に興味があって、中嶋教授に教わりたくて。」
教授との出会いを聡さんに説明した。
「そうなんだ、叔父さん、カッコいいよね。僕も好きだし尊敬してる。」
ちょっと意地悪心が疼きだす。
「奥様は?。」
「う!……心晴さん、叔父さんから何か聞いたでしょ?、……ちょっと苦手。この前も、滅茶苦茶怒られた。「あんた達、ちょっとお座りなさい!。」って、正座したんだよ。3人で。」
想像して、思わず吹き出した。
「今のモノマネですか?、ヤバい、奥様、ふふっ。」
「結構似てたと思うよ。」
笑いながら楽しく話していたら、浅草はわりと近いので、30分くらいでついてしまった。
近くのパーキングはいっぱいだったので、少し離れた場所に止め、まずは浅草寺に向かって歩きだす。
「はい。心晴さん。日曜日だから人混みはぐれないように。」
聡さんが左手を差し出した。
(聡さんの手。私とおなじくらい………。)
「…聡さん…もしかして指輪のサイズ…13号ですか?。」
「ありゃ、バレちゃったかな!、そうです。13号。あの時はめた指輪は、僕かするはずだった方。」
「冷静にかんがえれば、わかるのに。あの時いかに冷静じゃなかったか…。私の手大きくて…。姉にいつもバカにされてたんです。」
イヤな事を思い出してしまった。
「2桁の号数の指輪なんて、女として終わってるんですけど、恥ずかしいからその手、見せないでよね。って姉に言われて、中学時代泣きました。」
聡さんは、私の右手を取ると指を絡めてつなぐ。
「そんな事、俺は気にしないよ。むしろ俺は、男にしては、手小さい方かな。ん、もしかして。」
聡さんは、手を離してお互いの手のひらを合わせる。
「ほら、僕達同じサイズ!、ピッタリだよ。」
「本当だ。」
聡さんは、嬉しそうに、笑顔で言った。
「……ヤバい、俺、好きかも。」
「え?、なにを?。」
「…心晴さん。」
「…。」
「可愛い?、顔真っ赤で。」
「…、聡さんも、顔赤いですよ、」
「心晴さんにつられました。」
お互いに顔を赤くしながら、道端で立ちどまっていた。
「…行こうか。」
聡さんが、あらためて左手を差し出す。
「そうですね。」
私も右手を差し出す。
聡さんが、私の手を取り指を絡めて、二人歩きだす。
「あの、心晴さん。」
「はい。」
「僕と結婚してくれませんか?。」
浅草寺の参道を歩きながら、聡さんはさらりと言ってきた。
「…聡さん。」
「すみません、なんか自然に口から出てました。」
自然すぎて、驚いてる時間もない。
「なんか、二人で同じサイズの指輪、一緒に作りに行きたいなぁ、めっちゃ楽しいんだろうなぁとか。よく考えてみたら、これが普通なんじゃないかな。前回は、その、指輪もお店の人に進められたのこれでいいやって感じで。」
聡さんと歩きながら、境内に入る。
「心晴さんと、二人でならきっと式の準備も楽しいんだろうな。前回は、ほとんど人任せで最終確認だけ、後の時間は、全てジムでトレーニング。両親も、お前が一番にやるべき事は、痩せる事って。」
二人そろってお賽銭を投げて、参拝を終えると、おみくじの前まできた。
「…聡さん、おみくじ引きましょう。」
聡さんを引っ張っておみくじの列に並ぶ。
「私の予想だと、お姉ちゃんは、1カ月で戻ってくるって思うんです。」
「え?、戻ってくるの!?…。さすがにそれはないんじゃ。」
「両親は、計画的だったから、3カ月だろうって
言ってます。何にせよ、今頃聡さんのご両親にも話してるはずです。姉は、飽きるのも早いんです。長くても一年以内には、何事もなかったかのように、家に帰ってくるとふんでます。」
私達の番がきたので、お互いにおみくじを引く。
「おみくじで私達の運試し、しましょう。」
せーので、開けると
「………凶。」
「私、大凶です。さすが私達。」
聡さんは、ガックリ項垂れている。
「あの~聡さん、ここって凶が他より多めって知ってます?。」
「え?、そうなの!。」
「これ以上悪い事が行ってほしくない時は、ここのおみくじで凶を出しておけば、この後運気向上間違いなしです。」
「そうゆうものなの…。」
「はい、肝心なのは、中身ですよ。ほら。」
お互いのおみくじをよく見てみる。
聡さんの縁談の所には〖思うにまかす〗、待ち人には、〖待ち人くる驚く事あり〗
心晴の縁談の所には、〖思うにまかす〗、待ち人には、〖待ち人くる〗
「思うにまかすか…。よし、心晴ちゃん行くよ!。」
聡さんは、私の手を取ると、境内を抜けて車まで戻った。
「聡さん、どこに行くんですか?。」
「着いてからのお楽しみ。」
*
「……聡、それは何かな。」
3時間後。
指を絡めて戻った私達。
指には、お揃いのリングが。
聡さんのご両親は、驚きを通り越して呆れていると感じた。
「うん、二人で選んだんだ~、婚約指輪。」
頭を抱えるご両親。
(分かりますその気持ち…。)
聡さんに連れていかれたのは、銀座のハリー・ウィンストン。
驚いてる間に、別室に連れていかれて、目の前に高級そうな指輪がずらりと並んで…あれよというまに、私の指に収まった。
「みんなに見せたくて、今日は持ち帰りしたけど、後で今日の日付とイニシャル刻んでもらって…。」
「落ち着け、聡。まあ座って、二人とも。」
「か、母さん、お茶。」
「そ、そうね、新しいお茶を。」
「私も手伝いますわ。」
両親達の方がアタワタしてしまっている。
新しいお茶を入れ直して、全員が座ると、聡さんが
「僕達結婚します。」
「えーと、はい、します。」
「心春さん、二人で決めた?、聡に言いように言いくるめられてない?。」
「はい、なんか聡さんと手のひら合わせた時に、この人だ、って思ってしまったんです。」
「うん、僕も。でも最後の後押しは、おみくじかな~。」
「おみくじ?。」
「二人で凶だったの見て、それを見て笑顔の心晴さんが美しくて、もう心晴さんしか見えなくなった。」
聡さんが、私を見つめる。
(う、両親の前で、恥ずかしい……。)
「!そうだ。これも、前は、やらなかった。」
聡さんは、うちの両親に向き直る。
「神楽さん、心晴さんを僕に下さい。必ず幸せにします。」
聡さんが頭を下げる。
私も隣で頭を下げた。
「わかった、二人が決めたなら、私達は全面的に応援するよ。心晴、あの話しは、したのか?。」
「まだ、全部は。」
「渡瀬さん、先程の話、すぐに取りかかろうと思います。」
「そうね、聡さん、私達引っ越そうと思います。もう心晴は、聡さんにお願いしましょう。」
「引っ越しですか?。」
「一週間で準備して引っ越す予定です。心晴さんは大学の近くでアパートでも借りる予定でしたけど…。」
「独り暮らし!、駄目です!心晴さんに何かあったら!。」
「ですよね~、私達もちょっと心配で。」
うちの母が、年頃の娘を心配するのは当たり前か。
「心晴さんすぐ寝食忘れて、研究に没頭、着替えもせず部屋にも帰らず、研究室で寝泊まりしてる姿しか想像出来ないのよ。」
「ちょっと、お母さん!。」
めっちゃ恥ずかしい、が、……当たってるかも。
「あら、ちょうどいいんじゃない、聡も、仕事仕事で家には、寝に帰るだけ。週の半分は、会社のソファーで寝てるもの。一緒に住んで、お互い相手を尊重しつつ、二人の家庭を作っていきなさいな。まさか、心晴さんを家に一人にはしないでしょ。」
「仕事定時で終わらせて、毎日帰ります。」
「聡さん。」
「そうだ、さっき聞いた心晴さんの誕生日、そこで婚姻届も出したいなと。3月3日。1月後です。」
「さすがにそれは…大学卒業してからの方がよくないかな?。」
「あ、それは私から提案したの。お姉ちゃんに戻ってくる隙を与えたくないし、…さ、聡さんを取られたくないので…。」
いいながら、顔が赤くなってしまう。
聡さんと絡めた指が熱くなる。
「たった3時間で、ラブラブって。聡いったいどんな手を~。」
「イヤ、聡の方が心晴さんにやられた感じだぞ。」
「聡くん、大学卒業までは、手を出すなと言いたいが…。まあ、無理だろうな。……せめて大学卒業は必ずして欲しい。」
「あら、私早く孫が見たいわ!、とっとと産んで、孫の面倒みてあげるから、任せなさい。」
「あら、素敵。二人の子供ならきっと可愛いわ。」
母親達は、二人で盛り上がってしまう。
PIPI
聡さんの携帯が着信を告げる。
「お、やっときたか。もしもし。……せっかくなので皆で聞きましょ。」
携帯をスピーカーにして、テーブルの真ん中に置く。
「こちら相原探偵事務所です。神楽三咲さんの調査報告をさせていただきます。まず、三咲さんのその後の行動ですが、家を出てから質屋に行って、時計や、宝石など、売りに出してます。詳しい事は、後程一覧表で提出いたします。」
やっぱりお姉ちゃんの仕業か。
「その後、男と、運転席の女、3人で、空港に向かい出国。行き先は韓国です。まだ、帰国してません。」
まさかの海外!
「あのこ韓国好きよね…。年2.3回行ってるわ。」
「一緒にいた女は、自称モデルのナナ。三咲さんの遊び友達の一人で、いつも一緒に韓国に行くのは、彼女とです。男の方は、山城貴幸、山城ホールディング社長の長男、28歳。」
「山城ホールディングの長男か…。なるほど。」
「おじさま知っているのですか?。」
「山城ホールディングの跡継ぎは次男の貴成さんに、ほぼ決まってるんだよ。長男は、ろくに仕事もせず、定時前に帰って夜は、遊び歩いて。山城社長嘆いてたな。同じように育てたはずなのに、って。」
「山城ホールディングの保養所が韓国にあるので、そこにいるようです。三咲さんと貴幸は、肉体関係はないそうです。貴幸のお相手は、ナナさんの方でした。ただ、近所の方の話では、保養所に、男性が入って行くのを度々目撃しているのと、夜中まで騒いでいて困っているとのこと。」
「ありがとう、引き続き調査頼むよ、3人の帰国日が分かったらすぐ教えて欲しい。」
聡さんが通話を終える。
* * *
「なんなのよ、もう!。」
「ちょっと、車にあたらないでよ!。」
ナナの運転する車の助手席でイライラしながらタバコに火を付ける。
ナナとナナの彼氏の貴幸、3人で日本を出国して韓国へ。
貴幸は、他の予定があるらしくそのままインドに飛び立った。
貴幸が会社の保養所を1ヶ月借りてくれていたので、ナナと二人夜な夜なイケメンな男を呼んでパーティー三昧。
昼まで寝て、エステに、美味しい韓国料理。
いつもなら、金銭的に、一週間くらいしか居られないが、今回はホテル代が浮いた分、余裕があり、いつもよりゴージャスに遊べた。
家から盗んだ品々や、婚約指輪、ウェディングドレスも売りはらって、全部お金に換えたから。
全て計画的だった。
あの見合いの日。
着物のまま、いつものバーに飲みに行く。
そこには、ナナと彼氏の貴幸が既に来ていた。
お見合いの話を聞いた二人の提案で、金目のものを貢がせまくって捨ててやろうと話した。
3人で計画を立てる。
貴幸が、花嫁強奪やりたい、なんていいだしたから、一年も我慢してしまった。
まあ、婚約指輪も高いの買わせたし、ウェディングドレスも、かなり良いものじゃなきゃイヤだってごねたかいがあり、2つとも高値で売れ、我慢したかいがあったけど。
1カ月振りに日本に帰国して、空港に降りたった。
が、貴幸が空港で待ち構えていたスーツの男達に、連れていかれた。
「ちょっと、あんた達誰よ!。貴幸を放して!。」
身なりのよい男性が名刺を差し出す。
「失礼、こういうものです。」
差し出された名刺には、"山城ホールディング社長、山城貴士"と書いてある。
「……貴幸のお父さん、あの、初めまして私貴幸さんの彼女の…。」
「ナナさんですよね。うちの愚息が、世話になった。いや、世話してあげたのか。まあ、どっちでもよいか。多分もう会うことは、ないでしょう。これからは、おふたり、地獄しかないでしょうし。二度と私の前に現れないで下さい。」
「は?、何を、言って、わたしは、将来社長夫人に…。」
「本来なら、社員以外が保養所を使う事は、規則上違反です。使用料を請求させていただく。が、今回は手切れ金代わりに請求しないであげましょう。」
「ちょっと、貴幸お父さんに何とか言ってよ!。ねぇ!。」
「諦めなさい、これ以上関わると、あなた達、さらに不利になりますよ。」
後ろで貴幸を拘束していた男性の一人が、こちらに近づいてきた。
「田中ナナさん、神楽三咲さんですね、少しお話を伺いたいので署までご同行お願いできますか。」
手には、警察手帳。
「え、警察…。」
「ちょっと待ってよ、私達何も……、」
「貴幸さんについて少しお話を伺いたいだけですから。」
*
結局、2時間近く、警察で話を根掘り葉掘り聞かれた。
貴幸は、インドに薬を買いに行ってたらしく、私達は、隠れ蓑にされていたのだ。
「一緒に韓国にいる事にしとけって、……そういう事だったんだ。」
ナナは、今にも泣きそう。
「保養所だから、俺が、居ないと後が面倒とか、言ってた。本当面倒、面倒、面倒!最悪なんだけど!。」
「貴幸、逮捕された、社長夫人……終わったわ~。これからどうしよう~、帰ったら結婚しようって話してたのに~。」
ナナは、かなり落ち込んでしまった。
しばらくナナの家に居候予定だったので、荷物は、ナナの家に置いてある。
二人でナナの家に帰り、泣くナナを一人にはできず、側で励まました。
1か月ほどで、ナナも元気を取り戻してきたので、一度家に様子を見に行った。
そろそろほとぼりが覚めただろうから、家に帰るかな。
父も母もなんだかんだで娘には甘い。
今回も、「政略結婚なんかしたくなかった!!。」軽く涙を見せれば、両親も後ろめたくて折れるだろう。
そう思い、家の前に立った。
「え……、嘘……?。」
家のまえには、売却済みの看板。
(まさか、つぶれた!?。)
あわてて、母親に電話をかけるが繋がらない、妹にも、父親にも…。
携帯で検索をかける。
"神楽屋"
(つぶれては、いない見たい。…え?!、"渡瀬コーポレーションと業務提携" "新商品発表" 何で!?。)
あれだけの事をしたら普通、破談だし、業務提携も無しになる。
(もしかして、あのブサイク、まだ私に未練が?、最近の写真だと、ちゃんと痩せたみたいね。ふふ、私が帰って来るの待ってるのね。さすが私。美人は得よねぇ。もう一度考えてやっても...。)
さら画面をスクロールする。
「…は!、え?、神楽屋の次女と結婚!。心晴と!!。嘘でしょ!。」
神楽屋の本店に電話をかける。
「父に代わって!。」
「失礼ですが、どちら様でしょうか?。」
「娘の三咲よ、早くして。」
「お電話替わりました、神楽屋社長、神楽信一でございます。」
「お父さん、心晴が結婚って!?、家売りに出されてるんだけど!、ねぇどういう事なの!。」
「お父さん?、失礼うちには一人しか娘はおりません。お間違えでは?、失礼いたします。あ、もう店には、二度と電話して来ないで下さいませ。では。」
電話が切れた。
「嘘……、私、……え?。」
捨てられた?、いや見捨てられた。
(……嘘でしょ……。)
*
「心晴おはよう~、あ、違った渡瀬夫人~。」
「...おはよう、もう、やめてよ、理沙。」
あれからあっという間に3月になり、昨日3月3日、二人で婚姻届けを提出してきた。
私は、19歳になり渡瀬心晴になった。
(正直、大変だった...。)
あの日。
結婚すると決めてから。
一週間後に引っ越しをすることが決まり、両親は一時的に神楽屋の二階に引っ越し、事業が落ち着いたら新しい引っ越し先を探す。
元々、小さい頃は神楽屋の2階に家族で住んでいたが、祖母が亡くなった時に、祖父が一人であの屋敷は広すぎるからと父に譲り、一家で移り住んだ。
明治時代に建てられた和風の平屋で、売りに出したら直ぐに買い手がついた。
半年後には、和洋折衷創作フランス料理のお店が開店予定だ。
この前、両家家族でオーナーの経営するフランス料理店に行き、美味しい料理を堪能。聡さんは、すっかりオーナーが気に入り、資金提供も約束した。
私も、聡さんの家に引っ越すことになったが、ここで問題が発生した。
「あ、俺の部屋。1DKだった。ちょっと待ってて。」
聡さんは、その場ですぐに不動産屋へ電話を掛けた。
もともとお姉ちゃんと住む家を探してくれていた不動産屋さんで、訳を話して二人で住む2LDKの部屋を探して貰った。
私の通う大学と聡さんの仕事場の間で条件に合う部屋を次の日には何件か見繕っていただき、次の日聡さんの仕事終わりに二人で内見に行った。
あまり広すぎても掃除とかに困るので、こじんまりしてるけど、ふたりが暮らす分にはちょうどよい物件に決めた。
帰りの車で聡さんは、「家族が増える事になったらまた引っ越せばいいんだし。何ならマイホーム建てても...。気が早いか。」
そういいながら、車で送ってくれた。
途中で夜景の綺麗なスッポトで車を止めて、二人で手をつないで歩きながら未来の話を沢山した。
(...途中で抱きしめられてキスしたんだよね...。思い出しただけで、恥ずかしい)
引っ越しの日は、渡瀬家の皆さんが手伝いに来てくれて、中嶋教授と奥さん、聡さんのお友達も来てくださった。
新居が見たい理沙とアキも手伝いに来てくれて、ちゃっかり聡さんのお友達とメアド交換してた。
生活が落ち着いたら、皆さんを呼んでおうちパーテイーも開催予定だ、まあこれも理沙達の押しに負けたんだけど。
大学に行きながら、引っ越しの荷造り、新居の家具家電選び(聡さんの部屋にはほとんど何もなかった。)引っ越し、荷ほどき、引っ越しの挨拶や、転居届などの書類が沢山。
聡さんは、正式に一月前に子会社社長に就任したばかりなので、仕事も忙しい。
その合間をぬっての作業だったので、正直二人ともへとへとだ。
(でも、昨夜は新婚初日だったので...えへへ。)
二人で甘い夜を過ごして寝不足だが、幸せの方が上回って疲れなんか吹き飛んでしまう。
「やばい、心晴...幸せオーラ出まくり。かあー、うらやましい~。で、新婚旅行は?どこ行くの?。」
理沙は目をらんらんと輝かせて、私の顔を覗き込む。
「まだ、未定。聡さんが忙しいから...。一応ゴールデンウイークに軽く予定は考えたけど...。実は、中嶋ゼミで合宿があって...。」
「うはっ、やっぱり立ちはだかる叔父かぁ。がんばれ旦那!。」
「...いや、教授は悪くないかな~、行き先が最近発掘が始まった現場で、一週間発掘の手伝いをしに行く予定が...。」
「...教授じゃなくて、遺跡発掘か~。...はは、さすが心晴。」
「う、自覚はある。でも、初めて遺跡発掘現場に行けるんだよ。一週間も。こんなチャンス逃したくない!!。」
「で、旦那は?。」
「もちろん、学業優先ですから。...かなり渋々だったけどね。」
夕べもベッドの中で、拗ねる聡さんに、「帰ったら覚悟しといてねっ」て、言われた。
「お姉ちゃんも、あれからどうした?。」
「一度電話はあったみたい...。何ンか聡さんが悪い顔してた。でも怖くて聞けてない。」
チラッと聞いた話で、あの時の略奪男が薬物所持で逮捕されたと。
お姉ちゃん達は、何も知らなかったので、その日のうちに解放されて、運転していた女、ナナさんの家に身を寄せている。
「落ち着いたら聞いとくよ。」
*
その夜。
聡さんが、かなり遅くなるので実家に行き、母から料理を教わりながら、お姉ちゃんの事を聞いて見た。
「三咲は、渡瀬コーポレーションの末端の工場に連れて行かれたわよ。」
あの後、ナナさんの家に戻ったお姉ちゃんは、アパートの前で待ち構えてた渡瀬のお義父さんに連行されて、渡瀬コーポレーションの一室で、父と母、両家顧問弁護士立ち会いの話し合いに連れて行かれた。
「お父さん、お母さん、私…!。」
お父さんは、お姉ちゃんに平手打ち。
初めて、父親に殴られてボーゼン自失のお姉ちゃんは、かなりショックだったのか、逆らわずに全ての書類にサインして田舎の工場に連れて行かれた。
「三咲の慰謝料、かなりの金額でね。1000万近いのよ。持ってたブランド品全部売って髪も丸めたら、減額に応じるって、聡さんから申し出があったのね。で三咲は、ブランド品は売っても髪は切らない。って。最後は、タンカ切って。」
頭丸めろとは、また凄い条件出すなぁ、あのお姉ちゃんがするはずがない。
「聡さん、三咲の性格、もう把握してるのよ。三咲から"美"というものを取り上げるのが一番こたえるって。わざと一番痛いところを突いて、三咲の性格上断る事も想定済み。意地になった三咲は、働いて地道に慰謝料を払う道を選ぶ。慰謝料は満額回収。」
二人で煮物が煮えるのを待つ合間にお茶を飲みながら、母から話を聞いた。
「あんた、聡さん尻にひいといたほうが良いかも。やり過ぎないようにストッパーになってあげたほうが上手くいくかもね。」
父も帰って来たので、夕飯を頂く。
「なんだ、新婚そうそう里帰りか。なんなら泊まってくか?。」
「ご心配なく、ちゃんとお迎えが来ます。」
1時間後、聡さんが迎えに来た。
「お父さん、お母さん。私聡さんに出逢えて幸せだよ。何かあったらまた相談にのって下さい。」
二人にペコリと頭を下げ、私はタッパーに入れた煮物を風呂敷に包み、聡さんの愛車に走り寄る。
「心晴、ただいま。」
聡さんが、私を、抱きしめてくれる。
「私もギュッてしたい。」
「俺もして欲しい。」
ヒョイっと風呂敷を持ち上げて車の中に置き、もう一度抱きしめあう。
「朝ぶりの心晴だ~。もう心晴エネルギーがお昼頃には切れちゃったよ~。」
「ふふ。仕方ないですね。お家に帰って心晴特製の煮物食べてエネルギー補填して下さい。」
「それも楽しみだけど、やっぱり心晴本体が…。」
「えー、頑張ったんだけどなぁ、煮物。食べてくれないのかなぁー。」
聡さんの顔を下から見つめる。
「その顔……反則です。降参で。」
聡さんが愛車のドアを開けて手を差し出してくれる。
「ふふ。大好きですよ、聡さん。」
「心晴、僕も大好きです。」
二人の顔が自然に近づいて、長い間車は動かなかった。




