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タツヤは、一人で悩んでいた。
母親にも姉にも言えない。
やり過ごせと言われていたのに、やり過ごせなかった。頼まれても断れと言われていたのに、断れなかったなどと。
学校に行っても家に居ても、そのことが頭を離れない。
母親が言っていた「安請け合いすると、後が怖いから」とは、どういう意味なのだろうか。自分はどうなってしまうのだろう。けして、安請け合いした訳ではなかったのだけれど。
タツヤは、母親や姉よりも早く帰宅する。母親が夜勤の時以外は。
その日も、一人で留守番をしていた。
買い置きのお菓子を食べて、二階の自分の部屋に上がった。宿題を済ませ、ベッドに腰掛けて、ぼんやりしていると、あの子が来た。
『タツヤくん、遊びに来たよ』
頭の中に直接聞こえる声。
座っているベッドの隣には、いつの間にか同じ位の年恰好の男の子が座っている。
「ゴイチくん」
先日、昼寝していた際に、机の引き出しを開けていた子だ。
あの日、タツヤが驚いて大きな声を上げたので、ゴイチは、タツヤに気付いてしまった。
あれから、毎日のようにこうして、遊びにやって来ていたのだ。
『お願いがあるんだ』
何度か、そう持ち掛けられた。母親の言葉を思い出し、その度に断ってきた。
だが、こういうのを根負けしたというのだろうか。自分と同じくらいの年齢の子だから、共感したのかもしれない。
「いいよ」と言ってしまったのだ。
『ありがとう! じゃあ、夜に迎えに来るね』
ゴイチの嬉しそうな顔を見たら、何だかそれでもいい気がしたのだが、やはり、不安だった。