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5-9 人魚姫の呪縛を解く方法|レオネル

久し振りの更新になります。


更新に先駆けて過去の文章を読み直し、至らない点を修正することに決めました。取り急ぎ第3章は修正しました。今後は更新と修正を併行していきます。

「人魚の歌というと神秘的に聞こえるけれど、要は精神に干渉する魔法よね」


精神を干渉する魔法と言えば古竜ドリーマーを思い浮かぶが、エレーナの様子をみるにあんな緊迫した状態ではない。


精神干渉の魔法を解く方法は4つ。


1つ目は精神干渉を受ける本人が自ら正気に戻る、2つ目は魔法をかけた者に解かせる、3つ目は魔法をかけた者の命を奪う、4つ目は魔法をかけたときに付けた解除条件を満たす。


前回は古竜だったから1だけの一択だけど、人間はいいな、言葉で意思疎通ができる。



「さて王子様、魔法の解き方もしくは魔法を解くための条件をご存知ですか?」

「知らん」


意思疎通、しよう? 


本当にこのトンデモナイ王子は……自分の命綱を躊躇なくぶち切りやがった。



「それなら方法は1つだわ」


ほらな。


「ちょっと待て」


アイシャを羽交い絞めにして止める。俺も気が短いほうだけれど、アイシャと一緒にいると俺は自分がとても気が長く思慮深いタイプに思えるから不思議だ。



「アイシャ、短気は損気と学んだのではなかったのか?」

「レオ、人には向き不向きがあることを知らないの?」


はいはい、そうですね。


「大丈夫よ」

「何が?」


アイシャがこういう顔をしたときに大丈夫だったことは一度もない。


「ヴィクトルがどうにかしてくれるわ」


やっぱりな。



「私も拐われそうなエレーナを守るためにうっかり……正当防衛だったってちゃんと主張するから」

「うっかりって言いかけたじゃないか。それにな、拐おうとした証拠がない」

「証拠は作ればいいわ」


俺の嫁、怖すぎる。

何でそんな、『当然でしょ?』みたいなと顔をしているんだ?


その顔がまた可愛いって、なに詐欺?

だれ得?



「大丈夫よ、レオ」

「さすがに白々しいぞ」

「だって証拠ならあるもの。今回は捏造の必要なんてないわ」


今回は?

前回は何をした?


「レーヴェ様が仰っていたじゃない、少年の心をもつ夢みるヤバい奴だって」

「……まあ、似たようなことは?」

「そういう男はね」


アイシャがトンデモナイ王子を指差す。



「まず自分が拒否されると思っていないの。だからエレーナは一緒にトンデモナイ国にいってくれると思っているわ」

「当たり前だ!」


……自慢できることか?

いや、親の前で堂々と人さらい宣言って……さすがの俺もキレるぞ?



「この馬鹿、自分の船の一部屋をエレーナに相応しいように改築したはずよ。だから依頼された職人がこの街にいるはず」

「なんだと? なぜ分かる!」


……馬鹿すぎて怒りが飛び散る。

馬鹿、すごい。


お前、さっきアイシャのカマ掛けに引っ掛かったばかりだろうが。少しは学習しろ。魚だってもう少し考えるぞ。あ、でも双子たちが魚は脳みそがないとか言っていたっけ。



「他にもあるわ。エレーナのドレスを作るために私たちがドレスを誂えた店にも行ったはず」


まあ、この街でエレーナのサイズを知っているのはあの店だけだからな。『スフィンランの将軍、娘とのペアルックをこの店で注文!』って店にでかでかと書かれていたし。探る必要さえなかっただろう。



「どうせ花嫁だからって、白地に金色の刺繍したドレスあたりを注文したはずよ」

「くっ、まるで見てきたように」


こいつ、馬鹿だろう。

馬鹿だ、馬鹿に違いない。


「くっ」ってなんだ?

お前に悔やむ資格はない。



「ほらね」

「……名探偵だな」

「それじゃあ、いいわよね」

「よくない」

「よしっ!」


だーかーらー‼


「よしじゃない! 話を聞……「やめろ‼ なにが何だかわからないけど今すぐやめろ! アイシャがそうやって気合いいれるとろくなことがないから!」……マックス!?」


部屋に飛び込んできたマックスに全員の視線が向く。


とりあえずアイシャの手が止まったのでトンデモナイ王子の襟を引っ張ってアイシャと距離をとらせた。グエッと苦しむ声がしたが死ぬよりマシと思ってほしい。



「アイシャ、何があった?」

「見れば分かるでしょう?」

「分からないから聞いているんだよ!」


確かに見ても分からない。いや、なぜかが分からないだけで、何をしようとしていたかは分かったはず。どう見てもアイシャが他国の王子に危害を加えようとしていたところだ。


ただマックスは現実から目を背けたいだけだ。



マックスはアイシャの性格を知っている、理由がなく誰かに危害を加えるような女じゃないと分かっている。でもな、この女は理由を作る奴なんだよ。しかもハチャメチャな理由を押し通そうとするんだよ。


怖いよなと思うんだけど、そこもいいと思う……複雑だよな。


いや、エレーナに害があるなら先にやってしまうというのも確かにいい方法といえるのではないか?


理由付けがされて報復できたって、もうエレーナは傷ついてしまったあとなんだし。

それは嫌だ。



「レオ、説明してくれ」

「こいつがエレーナに如何わしい真似をしようとしていたんだ」


……ん?

だよな?


まあ、未遂でもその意思というか願望はあったはず。男とはそういう生き物だ。うん、やっぱりやってしまおう。



「ヤバい奴じゃないか」

「そうなんだよ。それでアイシャがやろうとしていた。それで、マックスはどうしてここにきたんだ?」


「やろうとしていたことが気になるけれど……まあ、いいか。義姉さんが西部の名物のスイカが手に入ったから持っていってやれって」

「おお、ちゃんと家族孝行しているな」


スイカとは西部で採れる独特の黒と緑の縞々模様をした果物。いや、野菜だったか?



「そのスイカはどこに?」

「外にいるトンデモーナ公国の騎士たちが王子が拉致されたって騒いでいて、アイシャがそんな面倒なことするわけないと思ったんだけど、俺かヴィクトルに面倒を押しつけそうな気がして急いできたんだ」


流石はわが友、いい勘をしている。



「スイカは重かったから奴らに預けてきた。とりあえず、王子が無事だったことと、楽しく歓談しているようだからしばらく預かるって伝えてくるわ」

「よろしく」


よしっ、時間稼ぎができた。




 ◇ マクシミリアン



「それはまた、トンデモナイことになって」

「そうでしょ、レオの不幸体質にはびっくりよね」


お前ら二人が揃うと不幸を引き寄せるんじゃないか、とも思ったが黙っておく。言ったところでどうにかなるというわけではないが、二人は一緒にいてほしいと思っている。


それに、この二人が揃えばあらかたの不幸は一掃されるんじゃないかなと思ってる。例えば国王の友人。最近国内の空気が清々しいんだよね、と嬉しそうに言っていた。面倒も多いけど見返りも多い、はず。



「後顧の憂いを断つには、やっちゃったほうがいいと思うのよ」

「……それは最終手段にしよう。何かしらの使い道があるかもしれないし」


「餡子を格安で手に入れるとか?」

「一国の王子の命を天秤にかけて欲しがるものか? お前どれだけ餡子が欲しいの?」



トンデモナイ王国……じゃなかった、トンデモーナ王国。ややこしいな。いや、アイシャがややこしくしたんだな、そういう女だ。


さて、トンデモーナ王国は東部の海岸線からよく見える国であり、こうして王族がひょいひょいと一貴族の夜会にくる程度には交流がある。アイシャのように餡子が盾にされていなければ、国力差などを考えても特にうちが気を使う必要のない国。ここでトンデモナイ王子をどうにかしても、まあ事故で処理できないことはない。


但し、後味が悪い。


「なんか気持ち悪い」

「ああ、そこにマザコンがいるからだわ」

「マザコンか。イヴァンのことがなくても絶対にエレーナを嫁にはやれんな」

「そうなのよ。私も姑ではろくな目に合わなかったから」


すげえ、アイシャが言うと重みが半端じゃねえ。


「王族にもいい思い出はないし、そう考えると見事に嫌ばかりが揃っているのよ」

「ああ、そうだね」

「とりあえず、この顔面を潰しとこうかしら」


本気で言っているから怖い。


「お前、聖母か妖精かっていうその見た目どうにかしろよ。言動とのギャップが酷くてバグりそうだ」

「ギャップ萌えで片づけなさいよ」

「ギャップ萌えの範疇にまで抑えろと言っているんだよ」


大きな溜め息を吐くと、アイシャが『忘れてた』という顔をした……もう嫌な予感がする。



「もしかしたら沖合いにネームド・セイレーンがいるかも」


ああ、そう。


「驚かないんだな」


レオの言葉に、ああ、そうかと思い出す。


「セイレーンや人魚たちは海から出てこないからな。海にさえ出なければ問題はないし、セイレーンや人魚はうちの国の船は基本的に襲わないし、いまはトンデモナイ王子がいるから尚更だ」


「ああ、好物だものね」


好物、分かりやすい表現だな。



「俺とそこの王子が同時に海に入ったら、そこの王子は一瞬で食われて、俺の場合は腹がまだ減っていたらって感じで食われるからな」

「デザート扱い」

「まあ、たまにデザート優先タイプとかデザートしか食わないタイプもいるから気をつけてはいるけどな」


アイシャみたいに。


「マリナは海の異変に敏感だし、風がないのに海が荒れれば人魚が来てるってことを地元民なら誰もが分かっているから誰も海には入らない。ハーピーと違って人魚はそんなに好戦的な魔物でもないから、放っておけばじきにいなくなる。基本的に人魚たちはトンデモナイ王国に近い海にいるからな」


「好物だから?」

「それもあるが……アイシャ、お前は聞いたんだろ?」


エレーナが初めて王都にきたとき、見せてくれたアイシャの実験ノート。


【人魚は人間を恨んでいる】で思い当たるのは、こっちに見向きせずトンデモナイ王国を監視するように取り囲む人魚たち。人魚が世界を恨むほどのことをトンデモナイ王国はした。


考えられるのは、あのときのアイシャと同じ恨み。



「トンデモナイ国ね。セイレーンもしくは人魚たちにとって大事な人魚を誘拐したんだわ」


ここまで読んでいただきありがとうございます。ブクマや下の☆を押しての評価をいただけると嬉しいです。次回は10月9日(木)20時に更新します。

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