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5-2 東部へ、家族旅行のはじまり|エレーナ

母様が守る雪と氷に閉ざされる北の砦と、父様が守る砂漠に囲まれた南の砦。


転移装置で自由にこの2つの対照的な地域を行き来し、真逆の自然を気分で堪能し、行きたくなったら王都でセレブ気分を味わう。愉快な人たちに囲まれて、それ以上に見ていて飽きない両親がいれば娯楽は十分だと思う。


でも3歳になった双子の弟たちには物足りないらしい。



連日の「暇だよ~」「遊んでよ~」のユニゾンに疲れ切り、大きなため息を吐いた母様は東部での休暇を決めた。


滞在先は海辺の別荘、マックス小父様の実家・マーウッド伯爵家が所有している別荘でご厚意で貸していただけることになった。まあ、あの家と私たちはいろいろあったからね。わだかまりの解消にはある程度の図々しさが重要だと母様は笑っていた……本当に社交術だよね。


特技は汚す・壊す、体力はとにかくチャージが早い3歳児、それが2人。私が呼ばれ、2人では心もとないと私たちはイヴァンを誘い、狡いと言ったのでハルトも参加となった。意図はしていなかったのだが、なんとなく予感していた通り父様だけがのけ者になった。


こうして始まったほぼ家族旅行。


旅行だから転位ゲートは使わず、2週間かけて別荘まで向かうことになった。父様は別荘に滞在するところから、ゲートを使って東部と南部を行き来し、家族との時間を過ごしつつ仕事もする合間参加になった。


父様、本当は一緒に移動も楽しみたかったみたいだけど将軍の二人が揃って休むわけにはいかないそうだ。


次代の将軍はまだ3歳、父様と母様は実年齢40代半ばまで現役で頑張ると言っている。両親が揃って休暇を楽しめるのは10年以上先のことだけど見た目も身体的にも若いのだから、それからでも十分楽しめると二人は言っている。そのときは両親に豪勢な旅行をプレゼントしようとハルトと決めている。


 ◇


「風に海のにおいが混じってきたわね」


北の砦を出発して10日くらいすると、周りの風景が見慣れないものになってきた。岩場の多い北部やと砂地の多い南部の無機質な雰囲気とは違う、温室の中のようなムワッとする生物のにおい。母様曰くこれが「東部って感じ」らしい。



それから数日、特に道中トラブルなく予定通り馬車はマーウッド伯爵家の屋敷についた。



「母上、黒のがいないようですが」

「好奇心旺盛な子だから何かを見つけて遊んでるのかも。すぐ戻るでしょう」 


ハルトの言葉に応える気楽さから犬かなにかのようだが、『黒の』は母様が乗っている騎竜の名前。


竜、つまりドラゴン。


父様は雑な名づけだと笑っていたけれど、自分の騎竜ソラリウス・シルバフレイムは『銀の』と呼ばれるほうを好んでいることを父様は知らない。


なんで男の人って長い名前をつけたがるのかな。


小父様たちの騎竜の名前も長いし、竜に限らず他の生物にだって、例えばマクシガンは学院で飼育している一角兎に『ノクターナル・シャドウホーン』と名前をつけている。


 

「スフィンランの将軍、アイシャ様とそのご家族の皆様。道中お疲れ様でした」

「お迎えありがとうございます、マーウッド伯爵」


私たちを出迎えてくれたマーウッド伯爵はマックス小父様の上のお兄様。


見た目も爽やか、東部の美男って感じ。マックス小父様に似ているけれど、女性関係が穢れていたせいでいまだに婚約者から結婚してもらえないマックス小父様と違って伯爵は清廉潔白を絵に描いたような真面目な方らしく、奥様とお子様たちをそれはもう大事にしている素敵な方らしい。


「こちらで体をお休めください。そのあと別荘のほうに案内させていただきま……あ」


馬車の車輪の音に、そちらを見た伯爵様は小さな声で嫌そうな声を出した。あの馬車には私たちも見覚えがある。2日ほど前から私たちの馬車のあとを付かず離れずの距離でついてきていた馬車。母様は――。


「嫌ですわよね、あのストーカー(・・・・・)侯爵」


……違う、本当の名前は似ているんだけど……なんだっけ。間違えに似ているのって思い出しにくいんだよね。


「申しわけありません。うちがきちんとお断わりできればよかったのですが、ストリンガー(・・・・・・)侯爵の扱いはなかなか難しくて」


ああ、そうそう、ストリンガー侯爵。

学院の授業にも少し出てくる東部貿易の主力の一家。


マックス小父様の前とその前の東部の将軍がストリンガー侯爵の父親と妹君だったため、当代の将軍は自分の息子がなるはずだと周囲に自慢していたストリンガー侯爵。しかしマリナの愛し子となり東部の将軍になったのはマックス小父様。


ウィンスロープの魔力を愛するアイグナルドと違ってマリナは東部という土地を愛しているから血は関係ない。二代続けては偶然、むしろそちらのほうがかなりレアケース。それなのに「恥をかかせた」と侯爵はマックス小父様とマーウッド伯爵家を目の敵にしているらしい。母様によると『逆恨みの見本』。


伯爵家は侯爵家より家格が下、でも東部将軍の実家。そのため伯爵は無碍にはできないけど遜るのも間違っている中間的立場を求められている。



「中間管理職の苦労は分かりますわ」


……王様の配下で部下もいる将軍職は『中間管理職』と言えるだろうけど、王様を顎でこき使う母様のどこに苦労があるのだろう?


「ストリンガー侯爵には東部辺境伯も苦労させられておりまして」

「心中お察しいたしますわ」



家格で言えば辺境伯家と侯爵家は同等。しかし、辺境伯家は辺境を守ることが生業なので適齢期になった子女が婚活で社交界に参加するくらいしか社交界では馴染みがない。


貴族の権力に社交界の影響力は無視できないので実質的力は侯爵家のほうが上になるのだが、良識ある侯爵家は魔物の脅威と治安維持に尽力している辺境伯家を立てて『自分たちのほうが偉い』みたいな振る舞いはしない。


つまり辺境伯に苦労をかけるストリンガー侯爵は『そういう人』ということ。


そしてうちの馬車をずっとつけていたのは『マーウッド伯爵よりも先に挨拶にいくべき人物、それが私』と言いたいがためのストーカー行動。口に出せないのは母様が怖いから。なんといっても母様は王様を顎でこき使えるのだから。



「楽しい休暇のはじまりになりそうですわ」

『黒の』と『銀の』はエピソード31に出てくる兄弟竜です。


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【第三章】  あるなんて思ってなかったので嬉しいです!
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