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【本編完結】俺によく似た彼女の娘……え?  作者: 酔夫人(旧:綴)
【閑話休題】慰謝料はドブに捨てたと思いましょう
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2.子どもが語る未来|エレーナ

「姉さん、学校を作りましょう」


他校に通う弟が突然学校にやってきた。これは別にいい、むしろ大歓迎。ただ……学校とは?



「ハルト、学校に行くのがつらいの?」


学校に行きたくないというのなら分かる。


ハルトが通っているセアラヴィータ学院は規律が超厳しい男子校。マックス小父様によると通う生徒の大半が浮世離れして、聖者になって霞を食って生きていくと言っているとか。 ハルト本人が気に入っているようだから何も言わないでいたけれど、そんな不思議ちゃんを量産する学校はヤバいと思っていた。


「……ハルト」


傷ついた青少年の心を刺激しない話し方って難しいわ。


「姉さん、国家予算一年分の大金があるんだ。このお金を使って平民に文字の読み書きと算術を教える学校を作ろう」


……ん?


「足りなければ貴族から出資金を募る方法もあるよね。地位と権力のある母上と父上の名前を使えば彼らも財布の口を開くだろうし。あ、運営に口出しされたくないから寄付の形にしないと」


うん、大丈夫。私の弟、ちゃんと地に足ついている。


「宝くじでもあたったの?」

「宝くじでも国家予算一年分は無理だよ」


ハルトが笑う。うん、動揺しているのは私のほうみたい。



聞けば母様が以前父様に支払った賠償金に父様が同額追加して母様に渡そうとしたのだが、ドブに捨てたものを受け取るつもりはないと母様が受け取り拒否。父様は母様に強く出られないのですごすご引き下がり、いつか陽の目を見るだろうととっておいた、と。


「父様の母様への愛情が重い」

「僕はそうならないように気をつけると父上に言ったんだけど、気をつけても儘ならないのが恋だって」


父様が言うと説得力がある。


「父上の場合は母上だから仕方がないんだよ。母上を見て一目惚れしない男は子どもか老人か不能だよ」


不能って……宗教画に描かれた聖人が抜け出たような穢れのない見た目のハルトから凄いパワーワードが出てきた!


「母様の中身を知ったらなかなか他の女に恋なんてできないよ。例外はエレーナ姉さんかな。だけど姉さんはイヴァン兄さんと婚約してるもんね」

「……そうね」


ハルトの母様と私に寄せる親愛はなかなか強火だ。


独占しようとかして父様やイヴァンにきつくあたるわけじゃないから「実害なし」で放置していたけれど、マザコンとシスコンがどんどん悪化している気がする。この子、独身主義じゃなくても一生独身になっちゃいそう。



「ルネとハルトに相談したのはいい案よね。父様じゃあ遺産として渡すくらいしか思いつかなさそう」


そうしたら母様はそれを全て燃やしてでも天に昇る父様へ突っ返しただろう。


「母上とエレーナ姉さんが突っ返せない使い道を考えたら学校がいいかなって」

 

なるほど、確かにいい案だわ。誰にとっても。



卒院後、ハルトは冒険者になると言っている。


冒険者は男の子にありがちな夢ではあるけれど騙されない。ハルトは公爵家から早く出ていかないといけないと思っていることにまだ3歳の双子を除く家族は全員分かっている。


父様の連れ子であるハルトは母様はもちろん父様とも血が繋がっていない。父様の二番目の妻と不倫相手の子どもである自分はウィンスロープ公爵家の異分子だとハルト自身が思っている。


ハルトは家族が好きで、将来結婚できるかどうか気になるくらい私と母様が大好きで、だからこそ自分がいてはいけないと勘違いしている。そんな勘違いによる理由で家から出ていくのを見過ごせるわけがない。もちろんそれがハルトの心からやりたいことが見つかれば止めないけれどね。


母様なんてハルトが卒院するまでにいい案を思いつかなければ北の砦に軟禁しようとまで思っている。父様は母様や私の泣き落としで十分と言ってはいるが母様は聞く耳を持たないだろう。


今回の学院話はハルトが監禁されない手段としていい案であるに違いない。

 


「うん、やってみよう」


私の言葉にハルトはパッと嬉しそうに顔を輝かせる。


「私が反対すると思った?」

「あまり自信がなかった。だって、学校経営には様々な利権が絡むし。しかも平民向けの学校を貴族が運営するなど初めて。やっかまれるだろうし」


「それなら、なんで学校なんて思いついたの?」

「だって、学校ができれば能力のある平民が街や城で活躍しはじめて、そうなれば無能な貴族の居場所がどんどん無くなりますよね」


……ん?


「貴族を蹴落とす平民たちの学校、母上がお喜びになるに違いありません」


血の繋がりがないのが不思議なくらいハルトは母様によく似てる。



ハルトによると父様は母様のことを時々話していたらしい。


父様が楽しそうに語る母様の話が、その優しい表情に灯る自分に向けるのとは違う甘いものが幼いハルトにとってとても印象的だったとか。ハルトが父様の語る母様に似たのは、父様が大好きなハルトにとって自然な形だったのだろう。



「ハルト、母様の今度の狩りについていくのよね」

「うん、イヴァン兄さんと一緒に行って魔物の解体と高く売る方法を勉強するんだ」


……ハルト、その技術はもったいないから冒険者を副業にしよう。


副収入は大事。副業、騎士たちの間で流行しているじゃない。サイスとかほぼ母様の秘書官状態だよ。あれはもう副業じゃないね。南の砦の仕事のほうが副業だよ。



「それじゃあ、また家族会議をしましょう」

「はーい」


うん、いい返事。

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