4-19 この形も幸せ|レーヴェ
地面に膝をつき、持っていた壺を穴の中に埋める。
2匹のアイグナルドがそれを満足そうに見て消える。彼らがパルヴァの遺骸を守ってくれていたため、パルヴァはただ眠っているようにサンドリオンの岩の下にいた。
「やっと土に還らせてやることができる」
ゆっくりと土をかける。寂しさはあるけれど、覚悟していたからか意外と落ち着いている。
壺の上に苗木を植える。数年たてばこれも大きくなり、パルヴァが好きだった花を満開に咲かせるだろう。
「父上」
少し離れたところにいてくれたレオが気づかわし気な視線を向ける。
「ずいぶんと待たせた、すまなかったな」
「いいえ」
首を横に振るレオの周りにはいつも以上にアイグナルドがいる。レオの腕の中で眠る赤子に夢中だ。
「お抱きになりますか?」
「もちろん。おいで、パルシーヴァ」
パルヴァの名前を継いだ孫。名前を呼ぶたびに涙ぐみそうになる。他の孫と区別したくはないから、双子が大きくなるまでには心を落ち着かせておこう。
でもいまは――。
「小父様、母様が呼んでいるよ」
「すぐ行く。父上、パルシーヴァをお願いします」
任せておけと頷いて屋敷に走っていくレオの背中をエレーナと共に見送る。いや、エレーナの腕の中にもう一人いるな。エレーナの腕の中でエアハルトはスフィンランに埋もれていた。
「お爺様、お婆様にお花をあげてもいい?」
「喜ぶだろうが……花はどこだ?」
あっちとエレーナが指差すほう……レオンハルトが持っているのは花輪?
「エレーナ、あれは結婚式に飾るやつだぞ」
「今日はお祝いだといって母様が特大のものを注文したの。自分たちの結婚式のときの花輪より大きいから父様……小父様が不貞腐れていた」
父様、か。わざわざ言い直したエレーナが可愛らしい。
よかったな、レオ。
エレーナに「父様」と呼ばれる日は近そうだぞ。
*** 三年後 ***
「「爺上しゃまだー」」
ゲートをくぐり終えたと同時に飛びついてきた双子に相好が崩れる。
「じいさんを出迎えにきてくれたのか?」
「ちがうよー」
「母しゃまからにげてるのー」
「それはつれないな」
屈託ない笑顔で否定されてしまった。
強請られるままに交互に抱き上げてはグルグル回っていると、パルシーヴァが「あ」と声を上げた。
「あ、母しゃまだ!」
「ほんとうだ!」
「エア、にげるよ」
「パル、まってー」
笑いながら二人は俺が来たのと違うゲートに走っていく。父親のいる南の砦につながるゲート、双子は妙に育児に慣れた屈強な騎士たちに大歓迎されるに違いない。
「逃げられた」
駆けてきたアイシャが困ったように眉間に皺を寄せる。
「スケールの大きな追いかけっこだな」
そう言って手土産として持ってきたミシュアの樹の新作ケーキをアイシャに渡す。
「何をしたか知らないが、これで双子を許してやってくれ」
「レーヴェ様は二人に甘い」
それでもアイシャの仕方がないなと怒りをおさめた。アイシャへの供物はケーキ一択、間違いなしだ。
「ただいま」
「「父しゃま、はなしてー」」
「父上、来ていたのですか」
お茶を飲みながらケーキを頬張るアイシャを見ていたら、双子を両腕に抱えてレオが帰ってきた。レオは双子をアイシャの前で下ろす。
レオはこの北の砦に暮らし、南の砦に通勤している。スケールの大きな通勤だ。
「ほら、二人とも」
双子はレオを縋るような目で見るものの、「ほら」ともう一度促されてアイシャに向き直る。
「「母しゃま、ごめんなさい」」
「もう私のプリンを食べちゃだめよ」
……プリンだったのか。供物が効果的だったわけだ。
「アイシャも、3歳児相手にプリンの取り合いなんてするなよ」
「はいはい」
するな、この返事は。
「父上、今日はどうしたのですか?」
「そろそろ花が咲きそうだから、花見でもしないかと誘いにきたんだ」
何の影響か分からないが、パルヴァの花はたった3年で大樹になった。去年から沢山花を咲かせ、その間公爵邸は優しくて甘い香りに満たされていた。
あの女に公爵邸を穢されたことで多くの想い出が消えたと思ったが、最近少しずつ昔のことを思い出すことが増えた。どの思い出も幸せで、過去に捕らわれそうになると俺はこの砦にくる。
死んだように生きてはいけない。
あちらでパルヴァにいろいろ話をしてあげないといけない。
そんな義務感で生きる俺は不幸なのだろうか、と思ったりもする。でも幸せというのは自分で決めるものだとこの家族を見ると思う。レオもアイシャも喧嘩したり仲良くしたりと忙しいが、それでも夫婦である。
二人とも将軍であるから討伐で忙しい時期は砦を留守しがちである。そんなときは俺やエレーナたちがアイシャたちに代わって双子の面倒を見る。
妻は夫の傍にいるべきとか、母は子の傍にいるべきとか。貴族の夜会でそんなことをご夫人方に言われているアイシャを見たことがある。
もちろんそんな嫌味にへこむアイシャではない。
アイシャはレオに贈られた左手の指輪と、エレーナとレオンハルトが贈った左右で違うが対になったデザインのイヤリングを見せて「家族に愛されていますわ」と自慢する。アイシャはこれでスッキリするのだが、レオのほうは不完全燃焼。貴族会議に出席しては嫌味をいったご夫人の夫たちにネチネチといびっている。嫁に似てきたようだ。
「アイシャ、それ以上食ったら太るぞ」
レオの言葉にアイシャはむっとして見せたが、それがなんだとばかりに口を大きく開けて残りのケーキを一口で食べきる。
「何を言われようと自分が幸せならいいのよ」
うん、その通りだ。
第4章のこの完結を持ちまして、本編は完結になります。これ以降は基本的に番外編となります。
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