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【本編完結】俺によく似た彼女の娘……え?  作者: 酔夫人(旧:綴)
【第4章】幸せの形 ※本編最終章
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4-18 女は強い|レオネル

アイシャの叫ぶ声。


侍女たちが激しく出入りする。


アイシャは大丈夫なのか。どんな状況なのか。赤く染まったタオルを持って出てきた侍女を捕まえて問い詰めたい。


そんなことをして何の意味がある。


ただの俺の自己満足でしかない上にアイシャの邪魔になる。ここで俺が動揺しても何も意味はない。



「アイシャ様、しっかり」

「まだ始まったばかりですわよ」


中から聞こえる王妃陛下とフウラ夫人の声は力強い。


「レア様、それは絶望でしかありません」

「そうなのですか? うちの子は破水から3時間くらいで産まれましたから」

「それは羨ましいですわ」


アイシャの絶叫に顔を青くしてオロオロする俺たちの何たる情けないことか。部屋の中から聞こえるアイシャの傍にいる2人は雑談の余裕さえある。男がいざというとき女に勝てない理由が分かった気がする。



「男って無力だねえ」

「ヴィクトルの意見に深く同意するよ。3回も経験しておきながらフウラと違ってこの体たらくだ」


そんな言葉を聞きながら頭の中で女神への祈りを唱え続けていたら、ルネがやってきた。満足気な顔を見れば結婚の手続きが無事に終わったことが分かる。 


「これでアイシャは俺の妻だ」


思わずそう言うとヴィクトルとヒョードルの会話がピタリとやんで、「おめでとう」と揃って言われた。



「そういえばマックスがいないよね。まあ、ここにいても役に立たないけれど」


さも役に立っていた風のことを言うヴィクトルに呆れているとマックスが走ってくるのが見えた。噂をすれば、だ。



「なんか妙に浮かれていないか?」


ヒョードルの言う通り、やけに浮かれている。地面から足が数センチ浮いているかのような弾む足取りだ。


「あの浮かれっぷり、恋か」


……恋、この状況で?


「俺、運命の恋をしちゃった!!」


それはめでたい、こんな状況だけどな。


「お相手の女性は誰なんだ?」

「分からない! でも北部の子っぽい顔をしていた。俺、将軍やめて北部に住もうかな。温泉もあるし、第二の人生にはもってこいだろう?」


……ん?


「僕、ちょーっと嫌な予感がするんだけど」

「フラグを立てるのは止めましょう、陛下」


「まさかの2本目?」


 ◇


「さて、説明して頂戴」


アイシャの目の色と同じ夜明けの色に染まる中で赤ん坊の泣き声を2人分聴き、「アイシャ様もご無事です」という婆や殿の言葉で意識が飛んだ。


目が覚めると出産から少し時間がたっていた。


慌ててアイシャたちのもとに行くとアイシャが仁王立ちしてその前で3人の男が頭を垂れていた。それがこの状況。なに、この状況。


「おはよう、レオ。よく眠れたならあっちを見て頂戴」

「あっち?」


アイシャの指さすほうを見て直ぐに事態を察した。並んだ2つのベビーベッド……に群がる大量のアイグナルドとスフィンラン。


「俺もそっちにいって頭を下げるべきか?」

「レオ、私が忙しいときに将軍やめようかなんて暢気なことを考えていたの?」


アイシャの言葉に俺は高速で首を横に振る。

 

「さて」


出産直後でアイシャの顔は憔悴している。死んでもおかしくない量の出血もしたのだ、顔色も悪い。それなのに目だけは爛々と輝き3人を順番に睨んでいく……ん? ヴィクトル、関係なくないか?


「誰?」


俺も含めて男たち全員の人差し指が迷わずマックスを指す。


「ひどっ」


すまん、マックス。俺も我が身が可愛いし、生贄を投げ入れて早期事態の収拾をはかり双子を愛でたい。


「そう……将軍辞めようかなあなんて思ったのはマックスだったの」


アイシャの迫力にマックスの周りにいたマリナたちまで揃って床に正座し始める。妙に可愛らしい。そして可愛いは正義だ。アイシャも「辞めどきなんて人それぞれよね」と態度を軟化させた。


「アイシャ、すまない」

「私こそごめんね。子どもたちがいずれ将軍になると考えたら動揺してしまったわ」


将軍は負けることが許されない存在。その重圧を知るアイシャは苦しげに精霊に選ばれた子どもたちを見る。それにしても、そろそろ子どもたちを見たいのだが……。


「マックスは優しいからあまり闘うのは好きじゃないものね」

「違う違う。俺、恋しちゃったんだよね」

「……は?」


アイシャの表情から笑みが消える。


「そう、どこのどなたなの?」

「分からないけど、シーツやタオルを持ってアイシャのとこにいったから王妃付きの侍女かな。俺、ビビッと来ちゃった」


マックス、空気、というかアイシャの顔を読め!


「あ、ヴィクトルなら分かるんじゃないか?背が高めで亜麻色の髪をした美人」


マックス〜〜〜!!


「さ、さあ、誰かな〜」


王様は流石に空気を読む。王太子はまだ幼いものな、ヴィクトルは我が身を大事にしてくれ。


「フウラ夫人は知りませんか?」

「知りませんわ」


おお、フウラ夫人の目が笑っていない。


「王妃様はご存知ありませんか?」

「……さあ」


王妃の声が怖い。


「アイシャは?」


馬鹿野郎!!


「なんで私?」

「同じ部屋にいたじゃないか」

「そりゃあいたわよ?」


アイシャの周囲の気温がヒュッと下がる。いや女性全員が怖い。



「閣下、出産は命がけなのですよ?」

「運命のお相手ならばご自分でお探しなさいませ」

「浮かれド腐れ野郎が」


……アイシャが一番過激だな。



「「「振られてしまえ」」」

ここまで読んでいただきありがとうございます。ブクマや下の☆を押しての評価をいただけると嬉しいです。

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