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【本編完結】俺によく似た彼女の娘……え?  作者: 酔夫人(旧:綴)
【第4章】幸せの形 ※本編最終章
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4-17 非常事態は友を生む|アイシャ

「どうしたらいい、なにしたらいい!?」


オロオロするヴィクトル。とりあえず『黙れ』と言いたい。でもお腹を絞めつけるような、引きちぎるような痛みに何も言えない。


「落ち着け! まずはヒッヒッフーだ」

「流石ヒョードル!」


ホント、もう、出ていけ!



「陛下、将軍、邪魔なので出ていってくださいませ」


そう言ってヴィクトルとヒョードルをあっという間に追い出した王妃様に感激した。涙が出ていると思う。


しばらくすると痛みに慣れたのか、王妃様と会話ができるようになる。


「アイシャ様、恐らくここで出産になるかと」

「誰かを北の砦に、婆やを連れてきてください」

「産婆なら王都にも……「双子なのです」……っ!」


その言葉に王妃は目を見開いて驚く。しかし、次の瞬間には「大丈夫ですよ」と力強く応えてくれた。


「東か西の将軍に北の砦に行き婆や殿を連れてくるようにお伝えして」

「はい」

「誰か、教会に行って南の将軍にアイシャ様が産気づいたことをお知らせして。あと、トライアン伯爵夫人もお呼びして」


双子の出産が危険なこと。そして万が一のときに情報が統制できるよう、王妃様は信頼できる人だけを集めてくれる。



「追い出された役立たずたちは何をしています?」

「レーヴェ様に師事し、先ほど陛下は厨房に軽食を作るようお願いしにいきましたわ。お産は長丁場ですものね」


聞けばレーヴェ様は寝具やタオルの手配をしたり、南部辺境伯は神殿に行って式の中止の連絡や来賓対応を請け負ってくれるらしい。気の利く手伝い。南部辺境伯は若い頃とてもおモテになったと聞いている。モテる男はモテる理由がある。


 ◇


「アイシャ!」


フウラが部屋に入ってきて私の手を握ってくれた。

 

「大丈夫ね」

「言い切るね、ヒョードルには会った?」

「廊下にいるわ。アイシャが大変だと煩いから、お産は大変なものだと言ってやったわ」


フウラは笑いながら髪を一括りに束ねる。その姿に、自分も頑張るって姿に私も頑張ろうという気持ちになる。


「それにしても、ここって陛下の部屋よね。天井は、屋根はどこにいっちゃったの?」


青空を見ながら首を傾げるフウラの言葉に思わず笑い声が漏れる。王妃様も同じく。


「この惨状……アイシャ、何をしたの?」


フウラは足元にあったらしい瓦礫を指でつまんで飛ばす。


「どうして私が何かしたって決めつけるのよ」

「間違えていたら謝るわ」


間違えていない。言葉に困ると、ぐうっと強い痛みがきて話せなくなった。


「王妃陛下、このお腹の大きさ……もしかして」

「双子だそうです」


王妃様の言葉に驚いたフウラの目と合う。ごめんね。ここにいることで、フウラも巻き込んでしまうかもしれない。


「アイシャ、色々言いたいことはあるけれど……死んだら許さない」

「……うん」

「エレーナにイヴァンのお嫁さんになってもらって、家族になるのを楽しみにしていたんだから」

「……え」


エレーナとイヴァンってそんないい感じなの?


でもフウラならエレーナも嫁姑問題で苦労しなさそう。ああいう女が姑になると苦労しかしないから。


 ◇


「アイシャ!」

「閣下、お産の最中ですよ!」


飛び込んできたレオを王妃様が厳しい声で諫める。確かに気遣いが足りない。


「すまない、すぐ終わる」


謝っている割に出ていかない。廊下に追い出そうとする王妃様付きの侍女に抗って私の傍にきた。


「アイシャ、大事なことだ」

「……急用なの?」


なんだろうと思ってレオの顔を見ると、目の前に紙が出てきた……【婚姻届】?


「いますぐこれに署名しろ」


この状況でこの男は何を言っている……しかも、ほぼほぼ記入済み。この字はエレーナね。


「署名だけは本人でなければいけないんだと」

「「「当たり前でしょう」」」


 私、王妃様、そしてフウラの声が重なった。



それにしてもこの男は何を言っているのか。勝手に婚姻届を出すつもりだったのか?


……そのつもりだったな。


それで神官辺りに「署名はご本人が書かなければいけません」と言われたんだろう。こんな非常識に付き合わされた神官殿に深く同情する。それにしても……おかしいわ。


「ふふふ」


私の笑い声に王妃様とフウラが目を見張り、二人も笑い出す。突然のことにレオが目を丸くする。私たち3人の声がはもり、3人は顔を見合わせて「あはは」と声に出して笑う。



「レオ、陣痛ってすごく痛いの」

「アイシャがそう言うなら相当痛いのだろうな。代わってやれるなら代わりたい」

「代わってほしいけれど無理ね、これは女の特権だから」

「そうだろう? だから諦めて俺のできることを探したんだ」


それが婚姻届けの提出? レーヴェ様たちほど気の利く手伝いは求めないけれど、ちょっと斜め上のお手伝いじゃない?


「アイシャのことだから双子が生まれたらやっぱり結婚しないと言いそうだから」


……うん?


「お前は変なところで臆病だから、俺が逃げ道を封じないといけないんだ」

「束縛する男は嫌い」

「嫌いも何も、俺以外を好きになったことなんかないだろうが」

「……自信家な奴も嫌い」


そう言うとレオは目をまた丸くして、なぜかフウラも目を丸くして。王妃様が笑って何かをレオに渡し、レオは笑って私にそれを向ける……割れた鏡の破片?


「……何しているのよ」

「自覚を促そうかと。自分の顔を鏡でよく見ろというだろう?」

「可愛い顔が映ってる」

「だから、そういうところだって言っているんだ」


レオは笑うとそのままガラスの破片を強く握る。何を、と思った瞬間に破片を赤い血が流れる。


「これでよし」

「……普通、自分の血で押すんじゃない?」

「お前の血を見るのは嫌だ」

「それをこれから嫌というほどみるから覚悟して」


私はレオに婚姻届を指さし、ペンを受け取って手を伸ばす。力が入らず震える腕をレオが支えてくれて【アイシャ】と書くと、レオの血を使って拇印をする。


「よし!」


レオは満足気だけれど、その赤い目は不安気だ。でもごめん、どうなるかは分からない。


「レオ……あとはよろしくね」

「……任せろ」


レオは励ますように私の額に口づけると足早に部屋を出ていった。この「よろしく」の意味が婚姻届のことではないことはこの場にいる誰もが分かっている。



「北の将軍様、いまのうちにお水をお飲みください」


耳馴染みのある訛りに顔を向けると、北部の特徴の強い容姿の侍女がいた。


「北部辺境伯家の三女でございます」

「万が一を避けるため私の侍女の中でも北部出身の者を選びました」


私に万が一のあることを想定している人選。でも誰の目にも諦めはない。


「レア様、私、友だち少ないんです」

「奇遇ですね、私もです」

「友だちになってください」

「喜んで! レア、とお呼びください」


レア様の言葉に私は笑顔で頷く。



「レア様、フウラ、あとはよろしくお願いします」

ここまで読んでいただきありがとうございます。ブクマや下の☆を押しての評価をいただけると嬉しいです。

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