4-14 鳴かぬなら鳴かせればいいだけ|アイシャ
少し時間が戻ります(エレーナが部屋を飛び出したあと辺り)。
思い悩む顔をしたエレーナは心配だったけれどレオに任せることにする。
獲物から気を逸らさない、これが狩りの基本。
しばらくして部屋の外が騒がしくなる。喚き声も聞こえる。来たってすぐに分かるのが有難い。さあ、ショータイムだ。
「どういうこと!?」
はじまりはサンドラ夫人の金切り声。金切り声への不快さに顔が歪まないように気を付けながら、嫣然……かどうかは自信がないけど、とにかくそれっぽい笑みを浮かべながらレーヴェ様に寄り添う。
「まあ、サンドラ様。お久しぶりです、本日は離宮よりいらしていただきありがとうございます」
サンドラ夫人の目が分かりやすく吊り上がる。うわあ、単純。
「このっ」
飛び掛かろうとしたサンドラ夫人を傍にいた近衛兵が押し留める。
「離しなさい!」
「離すことはできません。アイシャ様に危害を加えないという条件でお連れしたのをお忘れですか?」
「こんな侮辱をされて我慢をしろと言うの!?」
「我慢してください」
頑として譲らない。ヴィクトル、この頑張ってる近衛兵に特別手当をあげてね。
「どういうことなのです、レーヴェ様!!」
「どうもこうも……」
レーヴェ様が不快さを隠さない表情で、私の肩に手を置く。
「こういうことだ」
「そういうことです」
レーヴェ様ににっこり笑い、レーヴェ様から離れてサンドラ夫人の前でくる~りと回って見せる。重心を意識して動く、淑女教育も役に立つ。
ほらほら、誰がどう見ても花嫁だと分かるウエディングドレスですよ。王家のお針子総動員で作ってもらった最高級品ですよ、元王女様。使えるものはなんでも使うのが私のモットー、王妃様、ありがとう。
「ここに子がいるのであまり騒がないでくださいね」
大きく膨れた腹を撫でて見せつければ、キーッとしか表現できない声でサンドラ夫人が叫ぶ。
「レーヴェ様! 貴方は私というものがありながら!!」
「何の問題が?」
しれっと答えるレーヴェ様。
「元王族の私よりもこの孤児のほうがよいと言うのですか」
「当たり前だろう?」
いいぞ、レーヴェ様! いけいけ、おせおせ!
「血しか自慢できない女の相手は虫唾が走る」
レーヴェ様の容赦ない言葉にサンドラ夫人は何も言えなくなる。いや、口をハクハクと動かしてはいるから何かは言いたいのかもしれない。
「そんな女……「嫉妬しているのか? アリーの美しさか、それとも若さか?」」
レーヴェ様がガンガン煽る。女性に年齢のことを言うなんて酷いかもしれないけれど、サンドラ夫人には一番効くのは確か。サンドラ夫人はレーヴェ様より7歳年上であることを気にしてた。二人の結婚式のときはレーヴェ様狙いの令嬢たちに「年増」と囁かれたことが原因らしい。若さに異常なほどに執着している。
「若さ?」
こちらを憎々し気に睨むサンドラ夫人に微笑み返す。もしかしたら今日の結婚式で私も「年増」と言われるかもしれないけれど、それは嫌だけど、あなたよりも若いのは確か。スフィンランの加護のおかげで老けにくいですしね。フウラを見て分かったんだけど、愛される伴侶は愛し子と同じくらいの老化速度になるみたい。アイグナルドに嫌われて年相応に拭けたあなたには私の若さが眩しいでしょう?
「あなたなんて誰も認めない!」
「国民には祝福されてますよ。離宮にいたせいで俗世を御存知ないのですね。私は国民にとても人気があるのです、あなたと逆で」
数で言えば貴族よりも平民のほうが多いの。それに人は自分に何かをしてくれる人のほうが覚えているし、好きなの。
「世の中を知るために今度一緒にお出かけしましょうか」
「それは無理だ、お前はスフィンランの将軍だと直ぐにバレて騒ぎになるぞ。こっちの元王女は誰にも邪魔されず買い物を楽しめるだろうがな」
アイシャは若い美人だからなおさらな、とレーヴェ様が続ける……言うなあ。
「平民なんて……」
「血税で生きていたくせに国民をないがしろにするその態度をいい加減に改めません? 王族ってそういう傲慢なところがありますよね、クーデターを起こされないように忠告しないと」
「私に説教するつもり?」
「聞く耳も理解する能力も持たない人にそんな話をするわけありません。私が説教するとしたら陛下ですね、|ここにいらっしゃいますし」
サンドラ夫人がふんっと鼻で笑った。
「陛下がこんな茶番を見に?」
「見る甲斐はあると思いますよ。王妃様と仲良く一緒にいらっしゃいます」
「ああ、あの野蛮な辺境から来た小娘ね」
「まあ、さすがここで育った方は言うことが違いますわあ」
あと1つ。
「さて、サンドラ・ウィンスロープ先代公爵夫人。ヴィクトル陛下と、レナ王妃が、サンドラ夫人が育ったここに、いらっしゃること、御理解いただけましたか?」
「そんなバカにするように言い方、本当に性悪ね」
「理解できる方にはこんな言い方しませんわ。ご理解いただけましたか?」
「はいはい、分かっているわよ」
よしっ。
「お話が通じるようになるなんて嬉しいですわ。昔はいろいろ困りましたもの」
「なんですって?」
「夫人って我侭なんですもの。私以外もそれはもうたくさんの方を振り回して。まあ、皆さん過ぎたことと思ってくださいますよ。先ほどのご夫人なんて『元王女の、先代公爵夫人の、ほら、色々迷惑なあの方』という風にサンドラ夫人のお名前すら忘れていらっしゃったわ」
「忘れたい気持ちがよく分かる」
レーヴェ様が力強く同意する。
「無礼な」
「無礼ですよねえ」
「誰です、その者は」
「無礼な方の名前など憶えているわけがないでしょう。あ、でも、夫人の取り巻きでみた方だったかも……駄目だわ、醜い嫉妬が浸み込んだ老婆は誰も彼も似ていらっしゃるから」
「ろ、老婆……孤児が生意気な」
「いまは貴族ですよ、貴女と同じき・ぞ・く。降嫁したら王族じゃなくなるのをご存知ないのですか? いいですねえ、血を繋ぐ役割しか求められない王族は馬鹿でも死なないから」
「馬鹿過ぎて政略にも使えない王女だがな。その不良債権が俺の妻となるとは」
レーヴェ様の嘆息にサンドラ夫人が光明を見い出したような顔をする。
「そうですわ! レーヴェ様は私の夫ですわ。他の女と結婚などできるわけないでしょう」
「結婚はできなくても永遠の愛を誓うことはできる」
わ~お。
「永遠の、愛……レーヴェ様の、あ、い」
夫人の目が虚ろになり、私を通して誰かを見ている目になる。その誰かを、さあ、思い出せ。レーヴェ様が持っていた銀色の箱を私に開けて中を見せてくれる。中にあるのは美しいティアラ。それを見たサンドラ夫人の目が吊り上がる。
そして口が大きく開いた。
「レーヴェ様から離れなさい、パルヴァ!!」
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