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【本編完結】俺によく似た彼女の娘……え?  作者: 酔夫人(旧:綴)
【第4章】幸せの形 ※本編最終章
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4-9 父上の唯一で最愛|レオンハルト

この女性が話によく出てくる父上の『元嫁さん』で、南の砦の古参の騎士たちが父上の唯一で最愛。


父上の話す『元嫁さん』は、親愛はあっても他の将軍閣下たちに向けるものとあまり変わらないようなもの。同僚とか古い友人とかそんな感じで気さくに『元嫁さん』と呼ぶ。


父上が『元嫁さん』を『アイシャ』と名前で呼ぶときだけ、『元嫁さん』は父上の唯一で最愛になる。



父上が『アイシャ』と呼ぶとき、父上は決まって酷く酔っ払っている。


父上は酒に強く普段は決して酔うことはないが、年に1回だけ、まるで逃げるようにその日は部屋に1日中閉じこもり酷く酔っ払う。そのときは誰もルネも父上の部屋に近づかない。



父上は昔から俺の髪を撫でるのが好きだ。褒めるときも謝るときも、必ず父上は髪を撫でる。宝物のように俺の髪に触れる。


どうして父上があんなに愛おし気に俺の髪に触れたのか、俺が「邪魔だから髪を切る」と言ったときに絶望をしたような顔をしたのか、父上の『元嫁さん』を知ってすぐに分かった。


 ◇


「ハルトのことなんだからハルトになんて愛称がいいか決めてもらおうよ」


エレーナ様の言葉にハッと我に返る。まだ愛称の話が続いていたのかと思う反面、すでに『ハルト』で内定している気もする。


「ハルトと呼んでください」

「そう呼ばせてもらうわ、ハルト」


これで解決と嬉しそうな表情をする。黙っていれば妖精のようなイノセントな雰囲気なのに、笑うと一気に雰囲気が変わる。表情もころころ変わって、相手は大人の女性だけど可愛らしい人だと思う。



「私はアイシャよ。『アイシャ小母さん』と気軽に呼んでもらいたいけど、そこの頭の固いやや反抗期気味のイヴァンみたいに『アイシャ様』でもまあ我慢はするわ」


……イヴァン殿への当たりが強過ぎる。


「あの、僕も『アイシャ様』と呼びたいです。こんな若くて美しい女性を小母さんなんて呼んだら周りに驚かれてしまいますから」

「いい子。あの無神経、いい子を育てたわ。ヒョードルに似てかたっ苦しい返事しかできないイヴァンとは大違いだわ。フウラに似ればと思うけど、フウラは昔からヒョードルが一番だからなあ。いやいや、子育てなら私も負けていないから」


アイシャ様は胸を張るが……何を張り合っていらっしゃるのだろうか。父上から話で聞いた『元嫁さん』、想像以上に面白い人だ。



「ハルトはどうやってここまできたの? まだホリデーじゃないわよね。保護者に知られずあのセアラヴィータ学院をどうやって抜け出したの?」

「母様、セアラヴィータ学院を知っているの?」


いや、その前に俺もエレーナ様たちもアイシャ様に学院名を言っていない。どうやら随分前から知られていたみたいだ……当然か。



「マックスの三股がバレたときにすごい修羅場になったの。保護者として御父上の先代伯爵様が学院に呼ばれてね。それで先代伯爵は『今度同じ騒ぎを起こしたらセアラヴィータに転院させる』と言って、マックスは『絶対にヤダ』って抗議して、驚くことにマックスの浮気の虫が全滅したの。どうしてそこまでセアラヴィータを嫌がるのか気になるじゃない」


浮気の虫が全滅……そんなに嫌だったのか。他の学校の生徒から見ると俺らって修行僧のように思われているんだな。不順異性交遊ができないだけで、婚約者がいる奴とか普通にいるんだけど。



「嘘の申請で長期休暇をとりました」


学院が部外者を厳しく禁じているイメージが先行しているから誤解されがちだが、生徒自らが学校から出ることは難しくない。自校の生徒の品性に自信をもっている分、他の学校に比べて学校側からの縛りは緩いという意見もある。


そんな学校なので、その辺りを上手に利用する者もいる。そういう僕も今回はその辺りを上手に利用させてもらった。貴族の多い学校だから家のことで呼び出されて長期休む者も多いから申請内容に不審はない。俺自身も何度か家族のことで休みをとっているから全く疑われなかった。



「それじゃあ、公爵家も知らないの?」

「はい。僕はここまで乗合馬車でここまで来ました」


アイシャ様とエレーナ様が驚く。


「やるわね」

「すごいね」


「違う! 確かにすごいけど、いまはそこじゃない……です!」


……イヴァン殿は苦労性だということが分かった。



「可愛い子には旅をさせろというでしょう?」

「そうよ、こんなに可愛いのだから隣国まで行ってもいいくらいよ」

「そういう問題ですか?」


アイシャ様たちの理論は変わっているけれど、なんか妙な説得力がある気がする。なんか、おかしいや。



「イヴァン、ハルトは馬鹿じゃないわ。自分の身を守るくらいの実力はある……感じがするわ」

「アバウトですね」


ややあやふやな推理をドヤッとして見せるアイシャ様。「ね?」と聞かれて苦笑しかできない。


「多少なら心得があります。幼い頃からそれなりに身の危険はあったので」

「そうでしょう、そうでしょう」


子どもが幼い頃から命を狙われていたと言えば同情されるのが普通だが、アイシャ様たちの反応は変わっている。なんでを特に気にしていない。興味がないのか、知ったところで意味がないのか。それとも、誰の仕業か知っているのか。



「レオなり代理の人が迎えにくるにしても、せっかく北部まで遊びにきた子を手ぶらで帰すのは気が利かないわね。あ、魔石を持っていく?」

「え? 魔石?」

「あ、リンゴのほうがいいかしら。育ち盛りだし」


どうして魔石とリンゴを同列で語るんだろう?


そもそも魔石なんて飴みたいにお土産で気安く渡すものじゃないはずだ。……はずだよな?


「どっちもあげればいいじゃない。母様、ケチケチしちゃだめだよ」


ケチケチ?


「それもそうね。エレーナ、丁度いい魔石を準備してきて。プレゼントに丁度いい紙袋がキッチンに何枚かあるから」


……魔石の扱いが軽くないか。あれ、この二人の会話を聞いていると僕の常識がおかしい気がする。


「安心してください、変なのはあっちです」

「よかった!」


イヴァン殿がいてくれて本当に良かった。でも、できればここからはアイシャ様と二人で話をしたい。


「イヴァン、あなたもエレーナと一緒に行って好きな魔石を選んでいらっしゃい。お家の人の分もね」

「そんな飴みたいにほいほいと」

「子どもは素直が一番よ?」

「……ありがとうございます」


 無敵のアイシャ様が二人を見送り、僕に戻した目はとても真剣だった。



「さて、これで二人きりよ」

「アイシャ様にお聞きしたいことがあります」

「どうぞ、何かしら?」

「アイシャ様が父上の求婚を断ったのは、その理由は私なのでしょうか」

「いいえ、彼が嫌いなの」

「はえ?」


予想外の返事が来た!


……え、この先どうしよう。



「馬鹿ねえ、そんなこと心配してここまできたの?」


アイシャ様が笑う。え、さっきのは冗談?


「ハルトが原因じゃないわ。そもそもアイツ、ハルトのこと私に言っていないし」

「ええ?」

「どう思う?」

「あ、あり得ないかと」


何やってんだよ、父上!


「そうでしょ? ハルトは私たちの間に何があったか知っているの?」

「きっと、それなりには」


父上はその話をしてくれない。だから自分で調べた。そして父上のこれまでで、『なんとなく』だけどそれなりに分かっていると思っている。



「レオには一生反省させるつもりなの」

「あの……慈愛の心みたいなのは?」

「あまりないわ」


そうか……あまりないのか。慈悲の塊みたいな見た目なのに、将軍という立場だから多少はそう言うのを求められていそうなのに……いやいや、見た目で決めつけてはいけない。この人は俺と同じ見た目詐欺。


「私ね、アイツが15年前のことを悔やんでいる姿を見てスッキリしているの」

「は、はあ」

「しょげているレオを見るとすこぶる気分がよくなるわ」

「それは、お役に立てて良かったです?」


俺の言葉にアイシャ様は少し驚かれて嬉しそうに笑う。



「あなた、ずっとレオの傍にいたのよね」

「はい」

「見た目詐欺、って言われない?」

「よく言われます」

「私もなの」


アイシャ様は楽しそうに、喜びを隠せないように笑う……どうしてそんなに自分が喜んでいるのか、そもそもどんな顔して笑っているのか、アイシャ様は分かっていらっしゃるのだろうか。



「残念な大人たちでごめんね」

「いいえ」

「そう?」

「だって俺に優しいから。アイシャ様にとって俺は…………あいひゃしゃま?」


アイシャ様の手が伸びてきたと思ったら、両方の頬を両手でぐいっと押された。唇がぐにゅっと押し出される感触がして、きっといますごく変な顔をしている。


「勘違いしないで、あなたは悪くない」

「……」

「私、八つ当たりはしない主義なの」

「ふぁい」

「私はやった奴にやりかえす。あのとき影も形もない子どもに当たるほど落ちぶれていないわ。わかった?」


言い聞かせるように鼻を突かれた……擽ったい。


「はい」

「いい子ね。本当に、レオはいい子を育てたわね」

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