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【本編完結】俺によく似た彼女の娘……え?  作者: 酔夫人(旧:綴)
【第4章】幸せの形 ※本編最終章
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4-6 アイシャ特製の箱入り|イヴァン

学校が休みの今日、タウンハウスにいても暇だからと北部にきてみればエレーナが出かけるところだった。最寄りの街に買い出しに行くらしい。


せっかく来たのだから温泉にでも入ってゆっくりしていてと言われたけれど、買い物についていくことにした。エレーナに会いにきたのだし。


エレーナやアイシャ様と過ごす時間は吃驚の連続でクセになっている。

父上には複雑そうな顔で「気を付けろよ」と言われたけれどもう遅い気がする。



砦から最寄りの街まで馬車で2時間ちょっと。ゲートで繋がっている王都でのほうが早く買い物がすむと思うけど、アイシャ様から食料品や日用品は北部で買うように言われているらしい。


「アイシャ様は北部の経済のことをお考えなのだな」

「王都の奴らの腹を膨れさせたくないからみたいよ」


……なるほど。


「政治や経済は領主様や王の小父様が考えることでしょ? それでお給料をもらってるのだし」


……そうだね。


「まだまだ母様の理解が足りないね」

「君の理解もね」


僕がそういうとエレーナは楽しそうに笑う。

初めて会ったときの嘘っぽい笑い方じゃない、自然な笑顔が見れて嬉しい。



「アイシャ様は?」

「魔石の取り引きについて話し合うためにフーロン商会にいってる」


魔石は死んだ魔物から採れる魔力の核。この国では魔石の所有権は魔物は討伐した者にあり、ほとんどの者が冒険者ギルドや商会に売って金にしている。


商会で魔石といえばガルーダ商会だけど、アイシャ様はフーロン商会を選んだ。



「流通量が少ないけれど品質のよい北部の魔石を扱うようになればフーロン商会も勢いづくね」

「母様、ガルーダを潰すって言っていたから」


……ガルーダを潰す。


輸送が難しい魔石の取り扱いはほぼガルーダが独占している。だからエレーナたちがあれほどのことをしても、創始者一族はさておきガルーダ商会そのものはまだ残っている。


魔石を扱う際、一番問題となるのは輸送の難しさ。これまでのノウハウがある分、魔石の扱いはガルーダ商会が2位を大きく引き離して頂点の座にいる。


それがアイシャ様には許せないのだろうが、流石にガルーダ商会を潰すのはアイシャ様でも……できそうがする、なぜか。あっさり「潰したわよ~」とか言ってきそうな気がする。



「とりあえず手付金代わりに魔石をいくつかフーロン商会にプレゼントするって言ってた」

「太っ腹だね」


さすが転移ゲートで天文学的な資産を築いただけある。


北部の魔物から採れる魔石は質がいい。小さい魔石1粒でもかなりの金額になるだろう。あれ、でも、あの古竜の影響で最近この辺りはあまり魔物がいないはず……以前狩った魔物の魔石が残っていたのかな?


「リンゴが入っていた木箱に詰めていったから30個しか入らなかったけどね」

「は?」

「両手で持てるサイズの木箱となるとそのくらいしかなくて」


失礼だったかな……って、エレーナ違う。気にするところが違う。30個? しかもそれを両腕で抱えられるサイズの木箱に詰め込んだ?

 

「エレーナ、魔石って1粒を綿をたっぷり詰めた最高品質の絹のクッションで包んで頑丈な箱に入れて持ち運びするくらい大切なものだよ?」

「大袈裟だよ。魔石に魔石をぶつけても傷ひとつつかないわ」


エレーナが投げる仕草をする。あ、これ、明らかにやったな……北部の名産の林檎だと思って開けたら大量の魔石。フーロン会長が腰を抜かさなければいいけれど、まだお若いから心臓は大丈夫のはず。



「エレーナ、一般常識として教えておくけれど魔石は超がつくほどの貴重品だからね」


俺の言葉にエレーナは首を傾げる。


「それなら後でいくつか持っていきなよ。ヒョードル小父様、家族で使っている馬車をグレードアップしたいって言っていたわ」


魔石一粒で最新型の高級馬車を新車で買える、父上の言っていたカスタム代なんて目じゃない。



「そもそも、なんで30個も魔石があったの? いや、あとで持っていけってまだあるの? どうして? エレーナがガルーダからぶんどった寄付の魔石?」

「あんな魔石は王の小父様にあげちゃった。悪銭身に付かずって言うじゃない。今回フーロンに持っていったのもそうだけど、母様がコツコツ溜めた魔石がたくさんあるから」


アイシャ様のコツコツ……めちゃくちゃ気になる。



砦の地下にはアイシャ様がこの15年の間に討伐した魔物から採った大量の魔石があるらしい。魔物の海嘯と言われるこの北部で15年間……どれだけあるんだろう。しかもそれを慰謝料地獄であっても一切売らなかったというからアイシャ様の根性がすごい。


「母様、ガルーダの手垢など付けたくないって魔石をため続けていたの。とりあえず、いまある分は邪魔だから早く片づけたくってね。私や母様が王都にいくときについでに持っていくってことになったの」


世慣れしているかと思えば、エレーナは変なところが超箱入りだ。いや、アイシャ様製の箱が世間の非常識なだけであってエレーナは悪くない。


魔石が大掃除で出るガラクタ扱いのところは気になるけど、一番気になることを聞く。


「どうしてフーロン商会なの?」

「フーロン商会の商会長があのカルゴの最初の奥さんだから。カルゴが浮気して、愛人に子どもができたから出ていけってほぼ無一文で追い出されたんだって。ちなみにその愛人の子どもがカルゴの長子、現ガルーダ商会の商会長」


……別れた妻の逆襲。



「大丈夫。地下室の片づけだから私たちがやっているだけで、これから狩った魔物の素材や魔石は全部チェッコリ商会が野菜と一緒に売ることになるから」


……なるほど。


「最近うちの新聞に北部への温泉旅行の広告が多いなと思っていたんだ」

「この前来てくださった方々が気に入って、今度は家族や恋人ときたいと言っていたことを母様が領主様に報告したの」


一年の半分を地面が氷におおわれる北部は農産物の収穫量が少なく、それゆえに北部の領主は代々資金不足に悩まされている。


それを観光業で解決しないかとアイシャ様に提案されれば前向きになるに違いない。アイシャ様が作った温泉がたくさんあるし、アイシャ様ご自身に絶大な人気がある。彼女だけでも客寄せパンダとして十分だが、使える者は何でも使う主義のアイシャ様ならレオネル様やレーヴェ様も客寄せパンダに使うだろう。



「領主様たち、急ピッチで街道整備を始めたわ」

「治安と魔物対策は?」


腕に覚えのある騎士や冒険者の旅行者が増えても、治安工場はどこまでできるか。


「北部は魔物が他に比べてかなり多いから、国中の騎士団や学院の騎士科の定期訓練や合宿の場所として母様が北部を推薦したの。母様もそのために昔馴染みにご挨拶に行っているし、学院のほうはマックス小父様がご実家と話し合ってくれるそうよ」


討伐者が増えればエリア内の魔物の数は減る。しかも北部と王都の道を騎士や貴族の護衛が行き来していれば犯罪率も大きく下がる。


国としても悪い話ではない。騎士団や騎士科の生徒たちが効率よく魔物討伐の訓練できれば国として大きな利益になる。つまりこれは北部の利益だけを考えたものではない。



北部と王都を繋ぐ道が広がり、警備が増えて治安が向上した頃には恐らく地下室の魔石が片付いていて、チェッコリ商会はフーロン商会以外との付き合いが始まる。競争が起きれば取引価格が上がる。



「流石、アイシャ様だね」

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