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可愛い、社交辞令ではなく本気で(レオネル)

 一刻ほどアイシャを探し、俺は学院の訓練場にいるアイシャを見つけた。


 人のいない演習場でアイシャは笑い声をあげていた。

 その周りを白い光がいくつも舞っている。


 探し回っていたためまだ煌びやかな衣装を着たままの俺と違って、アイシャは飾り気のないシンプルな生成りのワンピースに着替えていた。


 宝石一つ身につけていないのに、俺の目にはアイシャがキラキラして見えた。


 彼女が笑顔だったのもある。


 アイシャは楽しそうにスフィンランたちと戯れていて、その姿は軽やかで舞いを踊っているようだった。



「冷たっ!」


 頬に冷たいものが突然当たって思わず声を上げる。

 そちらを見れば数匹のスフィンランが怒った顔をしていて―――。


「ウィンスロープ公子?」


 アイシャの声にそちらを見れば、先ほどまで柔らかく笑っていたのが嘘のようにアイシャの顔には表情がなかった。


「何の御用ですか?」


 軽やかだった笑い声も硬質なものに変わっている。


「愛想がないな」

「公子様も人のこと言えませんわ」


 顎を上げてツンッとするアイシャは今までのアイシャと別人だった。

 いや、これが素のアイシャなのだろうか。


「性格、変わり過ぎじゃないか?」

「馬鹿の振りと愛想笑いには疲れました」


 何か文句があるのかと問うアイシャの態度は毛を逆立てた猫のよう。

 思わず笑いそうになったが、探した理由を思い出して頭を下げた。


「すまなかった」

「公子様……って、謝ることができる人だったんですね」


「お前、俺を何だと思っているんだ?」

「謝ったことが一度もない高慢ちきなお坊ちゃま」


 遠慮のない言葉に何も言えないでいるとアイシャが声をあげて笑う。


「ぶっちゃけたことを言っていいですか?」

「陛下に対してああだったんだ、俺に対して畏まる必要はないだろう」


 「確かに」とアイシャがまた笑う。



「謝罪は受け入れます」

「ありがとう」


「でも今後の交流は最低限にしましょう」

「は?」


「ほら、公子様は私のことが嫌いじゃないですか」

「いや、そんなことは……」


「気にしないでください、私も公子様のことは嫌いなのでお互い様です」


 面と向かって嫌いと言われたことは初めてだった。

 アイシャな言葉は俺の虚を衝き、新鮮な感動を味わう。


「何を笑っているのです?」

「いや、可笑しくて……嫌いと言われることが今までなかったから」


「幸せな人生ですね」

「幸せ、かな。いつも俺の周りの人間はニコニコ笑っている。何を言っても、何をしても、いつもニコニコ。結構気持ち悪いぞ」


「ちょっと気の毒」

「だからなのか、いま楽しい」


「変わっていますね」

「そうかもな。ついでだから訂正しておくが、俺は君のことが嫌いではない」


 アイシャが驚いた顔をする。


「そうなんですか?」

「可愛い顔に似合わず努力家だし、喧嘩っ早いところも意外性があって可愛いと思う」


 アイシャの顔が理解できないというようにキョトンとしたものになって、次に真っ赤になる。


 それには俺のほうが驚いた。


「どうした?」

「か、可愛いって……」


 何か問題が?


 「可愛い」という言葉は昔から社交で慣用句のように使っていた。

 大して気にせず使っていたし、可愛いと言われるほうも『当然』という風に受け止めていた。


「そんなこと初めて言われたから。普通に……その、恥ずかしいから……やめて」


 そっぽ向くのは照れ隠し?

 いや、可愛過ぎだろう。


 ん?

 俺は、いま何を……。



「ひああああああっ!!」

「え?」


 アイシャに悲鳴に慌てて我に返れば、アイグナルドたちがアイシャに飛び掛かっていた。


「な、何を!」


 慌ててアイグナルドを数匹掴み、やめろと言ってもアイグナルドたちは言うことをきかない。

 それどころかどんどんアイシャに群がって、それにスフィンランたちが怒り始める。


 精霊大戦争?


 いや、怒っているのはスフィンランだけでアイグナルドたちは一切気にした素振りはない。


 ただ楽しそうにアイシャにひっつこうとしている。


「公子様!」

「ぶっ」


 アイグナルドが俺の顔に投げつけられる。


 え?

 精霊を投げた?


「ボーッとしていないでこの子たちをどうにか……って、きゃああああっ!! どこを触ってんの!?」


 どこと言われて反射的にそこを見た俺は悪くない。


 視線の先には柔らかそうな乳白色の谷間。

 そこにむにゅんと埋まったアイグナルドの姿に……。


「意外と、ある?」

「意外は余計です!」


 俺としては男だから仕方ないと言いたい。

 しかしアイシャからすれば仕方ないですませられなかったのだろう。


「このっ、スケベ公子!!」

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