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3-13 クソ野郎はどちら?|マクシミリアン

「マックス!」

「大丈夫!」


結界の割れ目から入ってきた氷の塊をヒョードルが風で押し返す。


「そろそろ限界な感じだけど、池のほうは変化あるか?」

「そんなの見る余裕はない! しかし拙いね、レーヴェ様のほうもそろそろ限界だ」


レーヴェ様は年の功で『氷アイシャ』を挑発し、大規模な氷魔法で威力を分散して必要なところだけ迎撃している。しかし将軍位をレオに渡して引退したレーヴェ様と現役のアイシャでは魔力量の差が大きい。徐々に迎撃して発生する水蒸気爆発がレーヴェ様に近づきつつある。



「あ……」


それは突然だった。何の予告なく『氷アイシャ』が氷解して消え、次の瞬間その場にアイシャが現れる。多分。上から下までぐっしょり濡れているし。いま湖から出てきました、って感じ。



「アレは本物だよな?」

「すさまじい殺気だから……多分」

「何で怒っているんだ?」

「そりゃあレオが原因だろう」


ヒョードルとのコソコソ話を風がアイシャに届けたらしい。銀色の長い髪が風になびいて見えたアイシャの顔。般若の顔で俺たちを睨んでいた。年齢を重ねて美人度が増したからか、その迫力に腰が引ける。


「お久しぶり、二人とも」

「や、やあ……久しぶりだね」

「よお……うん、元気そうで何よりだ」


「元気よ、ありがとう。早速なのだけれどクソ野郎はどこ?」


クソ野郎ってレオのこと?

一体レオは夢の中で何をやってアイシャをここまで怒らせたんだよ!


アイシャから吹き出る魔力にスフィンランたちが喜んで周りを飛ぶ。おかげで風が起きて氷の粒やら雪やらが顔に当たって痛い。



「あら、ここにいるじゃない」


アイシャが語尾にハートマークがつきそうな楽しそうな声を出す。そして手を上にあげると成人男性の太腿くらいの氷の槍を大量に作り出す。あれを湖の中にいるレオに打ち込むつもりか? レオが死ぬ!


「アイシャ、待って!」

「早まるな、話せばわかる!」


「話し合いの段階はとうに過ぎたわ」


そうだよね。莫大な慰謝料を払わされたんだもんね、その気持ちは尊重する。でも、待って!



「か、母様! ちょっと待って!」


呆気にとられてイヴァンの後ろで呆然としていたエレーナ嬢がハッとして前に躍り出てアイシャをとめる。これが最後の手段だ。きかなければレオに明日はない。元でもこいつらの夫婦喧嘩は激しいな。


「エレーナ」


やっぱりエレーナ嬢の声は効果があるのか、アイシャが笑顔をエレーナ嬢に向ける。手も槍もそのままで顔だけだが。


「エレーナ、無事だったのね!」

「うん? えっと……それは私がいう台詞じゃないかな?」

「そう?」


「そうだよ! お前が心配で俺たちここまでやっていたんだよ!」

「マックス?」

「周りを見ろよ、東西と南の超精鋭による連合軍だぞ……って、お前のせいで他の騎士たちは全員退避中だけど!」


あっちを見ろというふうに俺が指差せば、レオが出てきた。あちこちから血を出していて、太腿には痛々しい傷がある。


「……なんでそっちから?」

「あっちにいるんじゃないの?」


俺と同じ気持ちだったのか、ヒョードルが湖のほうを指さす。いままさにアイシャが攻撃しようとしていたところだ。



「湖から吹っ飛ばされて飛んでいったぞ。無事でなにより」


レーヴェ様がレオに近づき笑ったけど、レーヴェ様の『無事』の基準って何なの?



「あれ、それじゃあアイシャの言うクソ野郎って誰のこと? レオじゃないの?」

「古竜に決まっているじゃない」


いや、決まっていないから。レーヴェ様以外全員、エレーナ嬢ですら『クソ野郎』はレオだと思っていたから焦って止めていたんだぞ?



「なにやら誤解があるようだけど、エレーナ、今度は止めないで頂戴ね」


そう言って微笑むアイシャの圧に押されたエレーナ嬢は首を何度も縦に振る。それを見たアイシャは満足気に笑い、氷の槍を池の中に打ち込んだが直ぐに池の表面で大きな音を立てて割れ始めた。


チッとアイシャが舌を打つ。



「氷竜相手では決定打に欠けるわね。ウィンスロープ公爵閣下、謝礼はするので手を貸してくださる?」

「……ああ」


前に出ようとするレオをとめて治癒魔法を施す。血をとめようと傷口を焼いたらしく、時間がかかるといったら「あとでいい」と言われた。意地っ張りめ。



「タダより高いものはないので謝礼は受け取ってください」


借りは作りたくないと言外にいうアイシャにレオは顔を歪めた。


「微力ながら僕たちも手を貸すよ」

「お、俺も」


「ありがとう、二人とも」


……レオ以外には素直なんだよなあ。こっちも意地っ張りだ。

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