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【本編完結】俺によく似た彼女の娘……え?  作者: 酔夫人(旧:綴)
【第3章】彼女を探して

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3-7 とりあえずは待機|レオネル

アイシャは凍った池の中にいた。銀色の長い髪が拡げて眠るアイシャは眠り姫の挿絵になりそうなほど綺麗だった。


「おやまあ、アイシャ様がこんなところに」


見つけたときは幻想的な雰囲気だったが今ではすっかり観光地化している。行き交う騎士たちの向こうにはこの周辺の村から集まった住民の山。


「いやあ、この近くまでキノコ狩りに来たが気づかなかった」

「推しの温泉がこの先で毎日のようにここを通ったが気づかなかったなあ」


ここから10分ほど東に歩けば、この周辺の者たちが使う道に出るらしい。キノコ狩りに温泉巡り、それなりに歩く人もいたらしい。



「こんなに将軍がいるなんて……せっかくだからサインを、うちの店の家宝にしたい」


そんなことを言い出した男を隣にいた男がどつく。


「馬鹿野郎、騎士の遠征隊だぞ」

「そうだ、炊き出しの準備を。かかあたちを呼んで、手の空いている者は焚き木を集めろ」


理解のある住民もいたのか、助かるな。


「サインはあとだ」

「そうだな」


 ……サインはするのか。まあ、野次馬の会話に気が抜けそうになるが、すすり泣く声が響く悲壮な現場の何百倍もいいか。



南の騎士の待機所に行くとルネが走ってきた。


「学者たちは明日中に到着する予定だと連絡がきました」

「ずいぶん時間がかかったな」


時間がかかった理由が実にくだらない。池ならば池の専門家を送るが湖ならば湖の専門家を送らなければいけないと言われ、ここが池か湖かの判断に時間がかかったのだ。専門性を保つために必要だとしても、役人は細かくて面倒くせえと思った。


「池でも湖でも構わない……と言ったらまた同じやり取りを繰り返すんだよな」

「はい、文句は我慢してください」


とりあえずマックスとアイシャを見習って今後の報告書はやる気のない字で書くことにしよう。真面目にやるのが馬鹿馬鹿しくなった。


「討伐対象が竜というのは変わらないというのに」


アイシャを発見した夜、俺は急いで砦に戻った。因みにあの夜は崖から落ちたわけだが、アイグナルドが周囲を照らしてくれると坂道があり駆け上がると意外と早く砦に着いた。



―― 思ったより早くアイシャは竜を撃ち落としたんだな。


目と鼻の先にある崖の下にいると聞いた父上の第一声がこれだった。アイグナルドの淡い光では気づかなかったが、氷の中、アイシャの下には巨大な竜がいたのだ。


「ルネは竜を見たのは初めてか?」

「一般人が見るものじゃないでしょう。目撃情報があったらできるだけ遠くに逃げる、北部の常識ですよ」


ルネの言葉に頷いたあと、サイスが首を傾げる。


「閣下は竜の討伐経験がありましたよね」

「ほんの数回だがな」


それでもこんな大きな竜を一度しか見たことはない。嫌な予感がする、そして嫌な予感ほど当たるというのが俺の持論だ。


―― レオって全体的に恵まれているけど運がとことん悪いわよね。


いわゆる不幸体質だと笑っていたアイシャを思い出していると「小父様」とアイシャに似ている幼い声が聞こえた。


「エレーナ」

「お昼ご飯です」

「ありがとう……大丈夫か?」

「とりあえずでも生きていることは分かったので」


一時期に比べれば表情が落ち着いてはいる。でもその顔色はまだ悪い。


氷を溶かせない状態でどうやってアイシャの生死を確認するか。フウラ夫人が死んでいれば魔力がゼロのはずと魔力測定を提案し、イチかバチかで氷の上から測定したら魔力の確認ができた。


喜んだのもつかの間、測定器の針が降り切れて壊れた。人間には不可能な魔力の内包量。アイシャの下にいる竜も生きていることが分かった。



「明日専門家が到着する予定だ。彼らが来ればアイシャを氷から出す方法が決まるだろう」

「はい。小父様もご飯をちゃんと食べてくださいね。お腹がすいて良いことはないですよ」

「それ、アイシャがよく言っていたな」

「母様の受け売りですから。あ、イヴァン!」


こっちと言ってアイシャが手招くのはヒョードルの長男のイヴァン。イヴァン……なんで名前を呼んでいる?


「エレーナ、君の分」

「ありがとう」


……エレーナ。仲が悪いより良いほうがいいし、彼がいることでエレーナの気が晴れるなら尚よい。でもなんか複雑だ。


「プリン? お爺様が今日のおやつはチョコレートケーキだって」

「レーヴェ様に作り方を教わって僕が作った」

「イヴァンが?」

「作るの面白かった。閣下もよろしければどうぞ」

「あ、ありがとう」


名前呼びとか、親し気な雰囲気とか。何かモヤッとしたが、プリンを差し出すイヴァンのはにかむ笑顔にこの子はいい子だと思った。モヤモヤは消えないが。



「ん?」


エレーナの向こうで父上が補給部隊の天幕に入り、鍋の蓋を開けているのが見えた。何をやっているんだ? 幼さの残る顔立ちの若い騎士たちが父上に駆け寄る。食事作りは見習い騎士や新人騎士たちの仕事。


「レーヴェ様、料理は私たちがやりますっ」

「気にするな。何かやっていたほうが気が紛れるからな」


父上は慣れた手つきで鍋のスープの味を見て、木箱から色々取り出す。

 

「スープは塩多め、隠し味にバターとこのハーブ。もう少し野菜を煮込んでもいいかもな。ほら、味見してみろ」


味見をした騎士が泣き崩れる。どうやら先ほど先輩騎士に味付けを批難されたらしい。


「辛かったな」

「お前たちは庶民だから味は分からないと嘲笑われ……うううっ」

「ろくなものを食ったことがないからバカ舌だと……ううっ」


騎士には貴族だけでなく平民もいる。規則では平等と言ってはいるが身分制度がある以上は平等などではなく、食事作りのような雑用をする騎士は平民ばかりだ。


「そんな愚か者がいるのか。よし、鍋をもう一つ出せ」

「は、はい」


鍋を隣に置いた父上はスープの中からある程度をその鍋に移す。何をするのだろうかとみていると、父上は肉の脂身を大量に投入、次いで全く隠れない量のバターを投入する。胸やけしつつ遠征費の高騰を心配したが、北部は酪農が盛んだと思い出した。


「たっぷりの脂をコクがあると満足する貴族は多いから脂をたっぷり入れて煮込め。バターは北部の特産品だから、あの辺りの村人に声をかけて安く仕入れてふんだんに入れてやれ」


料理教室を開いて信者を増やし、北部のバターも宣伝している。


「太れ、豚野郎」

「お前が非常食になりやがれ」


部下には優しくすることを心に誓った。

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