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2-9 盛者必衰は理である|レオネル・エレーナ

「大量の魔石が城に届いたんだけど?」

「あの子のものだ、そのまま置いておいてくれ」


邪魔になるものではないだろうというと、そういう問題じゃないとヴィクトルが呆れた。



「エレーナ嬢は何をしたんだ?」

「カルゴに父親として養育費と慰謝料を要求した。その金額を算出するために過去の税務記録を確認すると言ったらこれを寄越したというわけだ」


「ふうん。でもこれは賄賂になるんじゃないの?」


国に雇われて働く者は賄賂を受け取ったら厳しく処罰される。将軍もそうだ。


「魔石はファンからアイシャへのプレゼントとしてありがたく受け取った。税務記録の件はそのまま続行、だって賄賂じゃないからな」


見ものだったとヒョードルが悪い顔で笑う。税務課を急がせるとヴィクトル。2人ともアイシャの性格はよく分かっている。敵に対しては慈悲も容赦もない女だ。



「養育費はさておき、慰謝料では大変なことになるだろうな」


カルゴはどうしたって慰謝料から逃れられない。


証言が事実と押し通せば母娘を放置した慰謝料を払う義務があるし、証言が嘘と覆せばアイシャの名誉を損ねた名誉棄損で慰謝料を払う義務が生じる。そしてどちらの慰謝料も請求するのは「スフィンランの将軍」として国民に絶大な人気があるアイシャ。どちらに転んでも相当な額の慰謝料となるだろう。


「ガルーダ商会の評判はさらに加速して下落するね」

「逃げ場なしの完全なる包囲網、さすがアイシャの娘」


ヒョードルの説明をマックスが簡単にまとめた。



 ◇ エレーナ ◇



「愚かなことを」


新聞を読み終えたお爺様の感想は簡潔なものだった。


新聞に載っているのはカルーダ商会の元会長ガルゴの表明。あの裁判で証言した自分とホテルで会っていたのは母様ではなく「北方将軍アイシャを名乗る偽者」だったのだというのだ。


つまり自分も騙された。

被害者だと主張しているのだ。


「どのくらいの人が信じていると思う?」

「万に1人以下だろうな」


「慰謝料の撤回させようとしているんだよね」

「する必要はないがな。女に騙されたのはカルゴの問題であって、事実無根でアイシャの名誉が穢されたことは間違いはない」


……でも、これで……。


「トライアン伯爵夫人への批難は減るよね」

「……いいのか?」


お爺様は私と母様の味方だから私たちに害を与えた人には冷ため。嬉しいからそのままでいてほしい。



「いつだったか母様が言っていたの。夫人のこと、後悔していた。東の小父様とは友だちだったけれど夫人が不安になる距離に踏み込んでいたんだなって、自分も配慮が足りなかったかもしれないって反省してた」

「浮気の線引きは人それぞれだもんな。まあ、エレーナがいいなら俺は別に構わない」


「うん。カルゴのほうは絶対に許さないけれど」

「あいつはもう勝手に自滅していくだろう。こんなことして、税務記録に後ろ暗いことがあると叫んでいるようなものだ」


商売で最も大切なことは信用。私のことで元々不信気味だったところにこの騒ぎ。慰謝料のこともあるし破産待ったなしに違いない。



「例え商会が潰れても慰謝料はびた一文まけませんけれど」

「増額するつもりだろう?」

「もちろんですよ、孫の代まで恨まれればいい」

「信用できる新聞社に約束をつけてある。情に訴えるならおっさんの涙よりも乙女の涙のほうが効果的だ」


さすがお爺様。


「あとで王妃様のところにいって目力弱めのメイクしてもらわないと。可憐とか淑やかな感じにしたいのにちょっと吊り目だから」

「父親にそっくりじゃないか」


そういう問題じゃないよ。男の人なら吊り目も迫力マシマシでいいけれど、女の場合は生意気とかになっちゃうのよね。



「これからは愚者共が勝手に自滅していくのが続くだろうな」

「序幕はトカゲの尻尾切りですね」


母様の妊娠時期を偽ったウィンスロープ公爵家の主治医。母様が書いた手紙だと偽りカルゴの証言の裏打ちをした筆跡鑑定師。真っ先に切り落とされそうなこの2人は南の小父様がすでに捕えたみたい。どこかに囚われているのか既に死んでいるのか、お爺様にも分からないと言っていた。


誰かが悪あがきをすれば大量に嘘吐きが釣れる。

真実は一つ、嘘はバレる。


「レオネルに返してもらうか?」

「いいえ、あの二人は小父様にあげます」


あの2人はウィンスロープ公爵家に連ねる家の貴族らしい。同じ一門の貴族同士の場合は通常の裁判のほかに、筆頭家門の当主が一方的に判決できる『氏刑』というのがあるらしい。


「氏刑は楽だぞ、すぐ終わる」


首を切るジェスチャーをするお爺様は小父様の前の公爵家当主。発言の重みが違う。



「楽に終わらせるつもりはありませんよ。あの二人はじっくり、じわじわ、真綿で首を絞めて破滅させて差し上げないと」


人々の記憶に長くその愚かさが残りますように。大好きな権力を奪って、豪華な衣装も、美味しいお菓子も全部奪う。外に出れば人々の嘲笑を浴び、後ろ指wp指されて惨めに生きていけばいい。



「さくっとこの世とお別れしたほうが楽だったな」

「お爺様、私の考えていることが分かるの?」

「お前はアイシャの娘だからな」

「……本当に、母様は何をやったの?」



あのアイシャの娘。

王都に来てから何度聞いただろう……どうやらこの王都には母様の黒歴史が沢山あるみたい。

ここまで読んでいただきありがとうございます。ブクマや下の☆を押しての評価をいただけると嬉しいです。

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