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2-8 嘘から出た真実|レオネル

「嘘から出た真実」とは、ある危険や難しい状況から抜け出そうとした結果、より深刻な状況に陥ることを指すものです。言い換えると、一つの問題から逃れるために行った行動が、より深刻な問題を引き起こす結果になることを表現する言葉です。

父上からの茶の誘いがきてあの子に会えるかと思っていそいそと来てみれば、そこにいたのは優雅に茶を飲む父上だけだった。いい年して父上と差しで茶を飲むことには抵抗があるものの、聞きたいことがあったので丁度いい。



「あの子はなぜあの2人を放置しているのです? そもそもあの子はいまどこに?」

「エレーナは王妃陛下にお願いをしにいっている」

「早速ですか」

「使えるものは何でも使う、アイシャの教えだ」


父上は楽しそうに笑う。父上は滅多に笑う人ではなかったから、こうも頻繁に笑顔を見せられると戸惑う。



「護衛はいいのですか?」

「ヒョードル殿に頼んだ。それで、2人とはあの女たちのことか?」


 頷くとじろっと睨まれたので、『約束通り俺はなにもしていません』と両手を上げて見せる。



「俺にも思うところはありますが、これはあの子が始めた喧嘩ですから。邪魔されると俺がひっぱたかれそうです」

「経験から学んだことか?」

「よかれと思ってアイシャを庇えば、ほっとけと怒られました」


なるほどと笑ったあと、父上の笑顔が黒いものになる。



「あの手のタイプに一番利くのが放置されることさ。何されるか怖くてビクビクしているくせに、忘れられるのは許せなくってカリカリもしている」

「現にビクビクもカリカリもしていますよ」


父上の眉が軽く上がる。


「何があった?」

「毎日俺のところに手紙がきます。これまでも無視していましたが、これからも徹底的に無視しようと思います」


それでいいと父上は満足そうに笑う。


「それはそうとあっちは大丈夫か?」

「ええ、あっちは……」


パタパタと軽やかに駆けてくる足音がして、父上と顔を見合わせて苦笑する。


「お爺様!」

「エリー、ここは砦ではないのだからお淑やかに」

「はーい。小父様、ごきげんよう」


淑女のご挨拶でしょ、と満足げに笑う。


「やあ。そんなに急いでどうしたんだ?」

「これからお爺様と西の小父様と一緒にお買い物に行くの。南の小父様も一緒に行ってくださらない?」

「別に構わないが、何を買うんだい?」

「内緒~」


そう言って彼女は人差し指を唇の前で立てる。可愛い子がやると可憐でしかない。



「レオネル、部屋に戻って剣と財布を取ってこい」

「お爺様?」


少女の小さな頭を父上が愛おし気に撫でる。


「淑女の買い物は財布が多ければ多いほどいいんだ。この爺さんの財布よりも小父様は立派な財布をお持ちだ」





「……本当にここで買い物をするのかい?」

「はい」


戸惑いを隠さないヒョードルの問いにとびっきり可愛い笑顔で楽しそうに答える。ヒョードルの顔に『アイシャに似ているなあ』という文字が浮かんでいるように見えて、きっと俺にも描かれているんだろうなと思う。


「行きましょう、お爺様」

「おいおい、慌てなくても大丈夫さ」


父上たちは楽しそうに笑っているが、俺は苦笑いしかでてこない。


「何を買う気だろうね、あのお姫様は」

「とてつもない物を激安価格で買い叩くことだけは確かだな」



建物の中では多くの人が働いていて騒めいていたが、俺たちが中に入ると水を打ったように静まり返った。将軍が新旧合わせて3人登場。俺と父上は王都に滅多にこないレアキャラ。


「こんにちは、会長さんとお約束しているエレーナと申します」

「エ、エレーナ様ですね。あの……」


受付嬢の困った目が後ろにいる俺たち3人の間をうろうろする。


「護衛その1だ」

「それじゃあ僕は護衛その2で」

「……護衛その3」


「しょ、少々お待ちください。あ、いや、そこではなくこちらでお待ちを」


大勢がいる待合スペースで待とうとする俺たちを受付嬢は引き留め、別室に案内する。マニュアルにない事例だろうに、頑張ってくれてありがとう。



「急いで外に出ていった人が何人かいましたがスパイでしょうか」

「最近になって突然代替わりしたからね、色々気になるんじゃないかな」


代替わりは父上たちの仕業か……父上たちは2人だけでも世間の噂話を十分煽れるのに、わざわざ俺たちも連れてきた。さて、その理由は?




「お、お嬢様」


騒ぎを聞きつけたのだろう、仕立てのいいスーツを着た男が転がり込んでくる。記憶の中のガルーダ商会長に似ているから跡を継いだ息子か?


「お待たせして大変申しわけありません、どうぞこちらに……あの」

「気にしないでください、この3人は私の護衛です」


気にするなとは無茶振りをする。


「何か不都合でも?」

「護衛だからイスもお茶も要らないぞ?」


父上が首を傾げるが、新商会長の男は『そういう問題ではない』と言いたそうな顔をしている。分かる、そうだよな。


「ほら、さっさと案内してくれ」


……父上って結構マイペースだよな。



新商会長に案内されて部屋に入ると、中にはガルーダ商会長のカルゴがいた。俺と目が合ったカルゴが固まる。


「夫と間男の再会だからね」

「緊張するのも仕方がないか」


コソコソと話をする俺たちを放って、少女は堂々と用意されていたイスに座る。そして――。


「初めまして、お父様。私にも財産をください!」


父上以外の全員のド肝を抜いておきながら少女は可愛らしく首を傾げた。



「ざ、財産?」

「だって私はお父様の娘なのでしょう? お異母兄様が商会をいただいたように、私にも何か財産をください」


「娘って、だって君は」

「お忘れですか? お父様が自ら母様のお腹の中の父親だと名乗り出て、私がお父様の娘だという証拠もゴロゴロ出てきたではありませんか」


カルゴの目が少女と俺の間を行ったり来たりする。


「ちょっと待ってくれ! 君の父親はウィン……」

「まあ、その先を続けてはだめですわ! 確かに母様は南の小父様の元妻ですが、裁判で私は小父様の娘ではないとなったではありませんか。その先を続けては名誉棄損で多額の賠償金を請求されてしまいますわ」 


「でも君は私の娘ではないだろう?」

「なぜです? カルゴ様の子が宿ったという母様が書いたという手紙、熱烈な愛の言葉と赤裸々な愛の営みの仔細が追加で綴られた手紙が証拠としてあるではありませんか。筆跡鑑定書も付いていましたわ」


こてりと少女は首を傾げるあざとい姿はアイシャそのもの。


「ち、父親と言うなら他にも2人……」

「他はどちらも金髪、先祖を辿って絵姿を確認しましたが黒髪はいませんでしたの」


カルゴとその息子は黒い髪。



「エリー、15年分の養育費も請求するのだろう?」

「いけない、うっかりしていましたわ。そうでしたわ、養育費。東の小父様、養育費ってどうやって算出すればいいのでしょう」


そのためのヒョードルか。


ヒョードルは資格取得マニア。弁護士と会計士の資格も持っている。



「養育費は一般的に所得から計算されるね。国王に頼んで税務に詳しい文官を派遣してもらい税務記録の確認をしよう」

「ぜ、税務記録!?」


ノリノリだな、ヒョードル。

税務調査が入ると聞いて喜ぶ者はまずいない、後ろ暗いことがあればなおさらだ。



「あとカルゴ殿は養育費を出さず養育にノータッチでしたので、養育費に合わせて慰謝料も請求できる」

「お父様、お母様に私の養育を完全任せきりでしたよね。最低……と罵りたいところですが、それよりもっと大切なことが。お父様がやったことは国の防衛を危うくさせることです。北部を単身で守る母様にワンオペ育児させたのですから。それって国家転覆罪っていうんですよね」


「わ、私は……」

「知らなかったはダメですわ、お父様。確かにお父様の子どもだ、認知しろって騒ぎが頻繁にあるようですが、私にそれは効きませんわ。だって、あれだけ自分の子だと公式な裁判の場で叫んだのですもの」


「い、いや、その時期は商会が忙しくて……」

「東の小父様」


「商会のほうも調査もしてもらい、その『忙しい』の証拠を出して慰謝料を算出しよう」

誤字報告ありがとうございました。

ここまで読んでいただきありがとうございます。ブクマや下の☆を押しての評価をいただけると嬉しいです。

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