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1-2 男たちの涙の反省会|レオネル

「ちょい、ちょい、ちょい、ちょい! ちょい待て!」

「……“ちょい”が多すぎ」


マックスに突っ込むヒョードルの声にも元気がない。



あの子はすでに部屋から出ていっている。


「小父様たちの再会を邪魔したくないので」って、器用に布を巻いて髪と顔を隠して颯爽と出ていったあの子の姿を俺は呆然と見送ることしかできなかった。



「だって!」

「言いたいことは分かる」


「そうだろ? 父親を探しにきたって、あの黒髪、あの赤い目、どう見てもあの子の父様ってレオじゃん」

「……そうだな」


ヒョードルの目が机の上に突っ伏して泣いている火の精霊たちに向かう。彼らは俺を加護する精霊、火の最高位の精霊であるアイグナルドたちだ。



「アイグナルドたち……スフィンランたちに思いきり突き飛ばされていたからなあ」

「容赦がなかった……流石あのアイシャを加護する精霊」



スフィンランは氷の最高位の精霊で、彼らはアイシャを加護している。


精霊の加護を受ける者はこの世界で『愛し子』と呼ばれ、精霊たちは愛し子本人以外にも彼らの子や孫の傍をふよふよと飛んでいる。気難しいスフィンランがあの少女を守るようにくっついていた。それだけでもあの子がアイシャの子だと分かる。


そしてアイグナルドもあの子に好意を示したから……やはり、あの子は俺の子の可能性がとても高い……というか、そうとしか考えられない。


「全体的にはアイシャだが、色と目元はレオだな」

「15歳ということは、あのときアイシャの腹にいた子ってことだよね」

「……生きていたのか」


ヒョードルの言葉にヴィクトルが大きく溜め息をついて顔を覆う。


「疑問は沢山あるけれど、とにかく目先の問題は父親だよ! 父親、黙っていないで何か言えよ!」

「……何も言えるわけないだろう」


いや、言いたいことは沢山ある。

でもそのどれも言える資格が俺にはない。



「そうだよな……アイシャに腹の子を自分の子だと言うなら名誉棄損で訴えると言ったし」

「本当に訴えて、賠償請求までしたんだもんな」


友人たちの指摘がグサグサ刺さる。


「レオの娘であることは裁判で証明されたって、エレーナ嬢本人が否定していたもんな」

「今度はこっちが名誉棄損で訴えますよ、って……笑っていたけれど目はマジだった」

「それならあの子のいう『父様』ってアイシャの不倫相手だと名乗り出たあの3人か?」

「そうだろうな」


「どうして……」


思わず出た声に3人の会話がピタリと止まる。


「どうしてって……」

「仕方がないよ、裁判を起こしてまで子どもの父親であることを否定したのはレオ自身だ」

「分かってる……分かっているけど、でも……」


父親でないと否定したあの子の気持ちは分かる。

でも、どうしても『でも』と思ってしまう。



「どうして……」


アイシャを愛していた……いや、いまでも愛している。愛し子の義務で互いに忙しくて触れ合える時間は少なかったけれど、だからこそとても貴重で、とても大切で、唯一の――。



「あのさ、とにかくあの子が生きていたことを喜ぼうよ」



マックスの言葉に心臓を突かれた思いがする。


「近いうちに王都は騒ぎになると分かるのに……やばい、泣きそう」

「どうして15年も気づいてやれなかったんだろう」


ヴィクトルの言葉に頷いたヒョードルが項垂れる。



「俺、レオには悪いけれどあの子の『父親捜し』に協力する」

「……マックス?」


「あの子がここにいるってことは、アイシャが寄越したってことだろう? だから協力する。レオ、反対しても無駄だからな」

「……分かってる。分かってるさ、俺だって協力するさ」



あの子の存在はアイシャの証言以外は全て嘘であることを証明している。


誰も疑わないほど完璧に作られた嘘。それができたのは、この国の社交界の女王で俺の母親だというサンドラ。そして恐らく、俺の2番目の妻だったカレンデュラも関わっているはずだ。


―― 私のことを誰よりも信頼すると言ったのに!


……嘘つきと責めるアイシャの声が蘇る。


アイシャの言う通りだ。

俺はあのときアイシャの言葉を信じず、サンドラとカレンデュラの作った嘘を信じた。


―― あなたは嘘つきね。


蔑みのこもった、期待が失せた冷たいアイシャの声。


サンドラの言葉を信じたわけじゃない。

でも君の言葉が嘘だという証拠しか出てこなかったんだ。


カレンデュラに対して何か特別な思いがあったわけじゃない。

どうしても君を忘れたかった、俺を裏切った君に未練などないと見せつけたかった。



「俺は証言者たちを捕まえる」



―― アイシャ様は妊娠3ヶ月。この半年間ずっと南部の砦から離れられなかった公子様の子ではあり得ません。


幼い頃から世話になってきて信頼していた公爵家の主治医。



―― 奥様は若旦那様がご不在で寂しいと……男性と会うのを黙っていて欲しいと脅されて。


乳母の娘で、乳兄妹だから信頼してアイシャにつけていた侍女。



「先代公爵夫人も元公爵夫人も自分たちがレオに信頼されていないことは分かっていたんだな。だからレオが信頼している他人を使った」

「他人といってもどちらもうちの傍系出身、半分身内だ。だからこそ信頼していたんだがな」


この2人以外にもアイシャが不倫していたことを証言する者、自分がアイシャの不倫相手だと名乗り出る者があとを絶たなかった。俺とアイシャの離縁と、腹の子の認知を巡る裁判は泥沼化した。



―― 誰が何を言おうと、お腹の子の夫であるウィンスロープ公子との子どもです。


証言を否定する凛としたアイシャの声はいまも忘れてはいない……忘れられなかった……アイシャ、ごめんな。本当にごめん。



「アイシャの賠償金の支払いってどうなったんだ?」


最終的にアイシャの言葉が証拠がないため嘘だと判断されて裁判は俺の完全勝利で終わった。


「裁判後しばらくは分割で支払われていたが、カレンデュラとの結婚式の前日に残りが一括で支払われた。【お幸せに】というメッセージ付きでな」


初めて言った話に3人の顔が引きつった。



「それならエレーナ嬢の父親捜しは復讐か?」

「いや、アイシャは復讐に自分の子どもを使うような女じゃない」


たとえ俺を殺したいほど憎んでいても、アイシャは子どもを道具のように使わない。

アイシャに関しては色々間違いを犯してきたが、これだけは確かだと確信できる。



「アイシャは可愛くて優しそうな顔をしているがキレると怖い……復讐するなら徹底的に、己の手で完膚なきまでにねちっこく叩き続けるタイプだ」

ここまで読んでいただきありがとうございます。ブクマや下の☆を押しての評価をいただけると嬉しいです。

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