2-5 男たちの話し合い|レオネル
「アイシャが王都に来られない? それって病気とか怪我とか、もしかして死……「マックス」……悪い」
政務室にマックスとヒョードルも呼び、俺の推測を話した。最悪のケース、マックスが言い掛けたことについては考えないことにする。
「あのアイシャだぞ?」
「でもアイシャがエレーナ嬢自身に父親捜しをさせているのは変であることに変わりない。私生児が顔も知らない父親を訪ねていって『お前など俺の子ではない』と邪険にされるのが定番だろ?」
「レオならそんなことしないって信じていた……とか?」
「永遠の愛だと誓ったくせに、別れた途端さっさと別の女と再婚した男だぞ? 俺が女なら信じない」
だよなあと、三者三様の納得が俺の心に突き刺さる。
「慰謝料なら2人で来て、2人分ぶんどっていくよな」
「アイシャならそうするね。見た目は花の蜜でも吸って生きていそうな妖精だけど、実体は常に腹をすかせた猛獣だから」
「あの3人のうち誰かをマジでエレーナ嬢の父親にしようと思っている、とか?」
「社会的にも資産的にも問題のない俺よりあいつらのほうがマシってことか?」
「自分で言う、それ?」
「自分に自信があるのはいいことだ」
呆れたヒョードルが「あ」と声を上げる。
「いやがらせ、とか?」
そんなわけ……いや……タイミングを合わせたように俺たち4人の視線がカチッと合い、タイミングを合わせたようにすいっと逸れた。
「……アイシャの場合、それもあり得るんだよな」
「ふとした瞬間に『そうだ、復讐しよう』と思いいたって実行するタイプだから」
そうなんだよなあ。
3ヵ月ぶりに会って、抱き合ってしっぽりとピロートークを楽しみ、『さあ、眠ろう』というときになって以前俺が勝手にアイシャが楽しみにしていたカツサンドを食ったことを思い出してそのまま一晩中怒り続けていたことがある。
他にもある。
魔物討伐で共闘しているときに後ろから槍で突き刺そうとしてきて、その理由を聞けば数日前に先にスペシャルランチを俺が食ったから彼女は売り切れで食べられなかった、その復讐だと平然と言う女だ。
怒ったときに復讐しろよと文句を言えば、冷や汗ひとつ掻かせない復讐など復讐ではないらしい。だから『どんとこい』と構えているときは怒れない。そして油断して怒られる。
「しかし時間がたち過ぎていないか? 15年だぞ?」
「それはアイシャが決める問題だろう」
俺の言葉にヒョードルが冷たく反論する。
「別れてすぐ再婚したレオにとっては今さらなのかもしれないけれど……ああ、そうか」
「……ああ、なるほど」
「なるほど、それだね」
俺だけ「え?」と言っている間に、3人は納得したように頷き合っている。
「再婚したい相手ができたから過去を清算しようとしているんじゃないか?」
「エレーナ嬢に実際の父親を見せて、新しいパパのほうがいいでしょってことか」
「は? 再婚?」
理解しがたい思いに駆られて発言すれば、3人の呆れた顔が返ってくる。
「レオ、現実をみろよ」
「アイシャは『未練ってなに、美味しいの?』っていうようなサッパリした女だぞ? 復讐なんてそもそも未練あるって言っているようなものだろ」
「そうだよ、北部かどっかでいい人を見つけたんだよ」
はあああ!?
「強いから家の1つや2つ余裕で守るだろうし」
「家計が苦しくなっても魔物狩って魔石で荒稼ぎしそうだし」
なっ…………ああ、そういうことか。
みんな、否定したいんだ。アイシャがここにいないであの子が一人で来た理由として最も可能性が高いのは、アイシャが死んでいるということだから。
「アイシャ、美人だし」
「細いのに出るとこ出ているから抱き心地よさそうだし」
…………おい。
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