表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/83

2-4 王たる者の責任|ヴィクトル

「王妃が落ちたぞ」


政務室に入ってきたレオネルの第一声に思わず項垂れる。王として見せていい姿ではないけれどレオネルは優しいから許してくれるだろう。そして俺はこれからそのレオネルの優しさに甘えることになる。



「その様子では知っていたな」

「レアがエレーナ嬢をやけに気にしていたからね、嫌な予感がしていたんだ」


ほぼ勘と言える小さな違和感。エレーナ嬢のことを軽く報告したときのレアの顔に「ん?」と思った程度。彼女も子の親だからエレーナ嬢に思うことがあったのだろう。あのときはそれで片付けた。


「お茶に招いたのは拙かったね、調べてくれと言っているようなものさ」

 

好奇心ならよかったのに、と心底思う。でもレオたちの前で命ずるような真似までしてエレーナ嬢に会おうとしたんだ、好奇心とは到底思えない。


だから15年前のことを調べた。


レオとアイシャ、二人の友として始まりから終わりまで立ち会ったからレアが証人ではないことは分かっている。そもそも当時レアは王都にいなかった。当時レアがいたのは南部辺境伯の領地で、そこで何かがあったとしか思えなかった。


南部のことに注意して裁判記録を読み直して、南部の小さな異変に気付いた。


レオネルは砂漠の蛮族の討伐に当初1カ月と予想していたのに対し、実際は3倍の3ヵ月かかっていた。戦が予想通りいかないことはよくある。普通なら気に留めない。でも当時の騎士たちの報告書を読んで、エレーナ嬢に対するレアの反応に『もしかして』が生まれた。


しかし、逆を言えばそこまでやっても『もしかして』以上のことは見つからなかった。食料の送り先と量が相手に知られてそこにいる兵士の数が蛮族側にばれていたとか、そんな証拠は一切なく推測でしかない。つまり黙っていれば分からなかった。



「レオネル、君はどうしたい?」


レアの犯した罪の深さを決められるのは貶められたアイシャだけ。でもアイシャはいないという言い訳に縋って、代わりにレオに尋ねた。


「ヴィクトル、分かっていて聞くな」

「優しいなあ、レオは」


レオの優しさを当てにしていたくせに、我ながらよく言う。


僕は沈黙を選ぶ。騒いだところで僕の中の何かはスッキリするかもしれないけれど国としては損しかない。レアのやったことで少なからず国民が死んでいる。戦が長引くというのはそう言うことだ。


それは国母である王妃がやって許されることではない。


さらに拙いことにレアが王妃に選ばれた最も大きな理由が軍部との繋がり。王家が信頼し、筆頭公爵家が頼りにし、多くの騎士たちが忠義の者と敬意を表する南部辺境伯の娘だから選ばれた。その彼女が軍を裏切っていたなど絶対に知られるわけにいかない。

 


レオもそれを分かっているから沈黙を選ぶ。


そしてこれもエレーナ嬢の筋書き通り。彼女は誰もが沈黙を選ぶと分かっていた。だから王妃自身を罪悪感で落とした、この国の王妃をあの子が計画している何かの協力者にした。


「デビュタントもまだの子どもができる『沈黙』を王妃である者ができないのは困るなあ」

「そこは夫婦だろう、お前が支えてやれ」

「……分かった」


支えられなかったという後悔に苛まれているレオだからこそ、その言葉が重く響く。


ごめんね、レオ。


僕は君に謝ることはできないんだ。謝るということは罪を認めるということだから。なかったことにするから謝れないんだ。


僕は聖人君子じゃない。

王として人を殺す選択をしている。


国は広く、人口も多い。あちこちで様々な思惑が交錯している以上、誰も死なない平和な国なんてありえない。全て有限の中での優先順位、政治判断は国の利として考える。


1人を助けて100人死ぬか。

1人を見捨てて100人を助けるか。


どちらが国の利になるかを、僕は金も人の命も天秤に乗せて考える。そして軽いほうを捨てる。捨てた人に恨まれようが死んでも僕は謝らない。


謝っても所詮は自己満足。死ぬ人は救えないし、救わない。僕は全て「必要だから」で片づける。死にゆく者の僕を恨む声も聞こえない振りをして次に進む。


レアもそうあるべきだったんだ。


罪悪感、好奇心、悪事が僕にバレる恐怖心。今さら何で動いちゃったかなんて理由を知っても仕方がないけれど。そう全て『今さら』。レアもそれ割り切るべきだったんだよ。



「うん、そうしろ。冷たくして離縁されたら嫌だろう?」


話は終わりだという様にレオが茶化す。でもその赤い目は不安に揺れている。きっと僕の目も同じだ。エレーナ嬢を見た瞬間から『もしかして』をマックスとヒョードルも感じている。彼らの身近に裁判に関わっている人がいるから。



「当時の罪を浮き彫りにして不和を生むのがエレーナ嬢の目的なのか?」


父親捜しなんて端から信じてはいない。でも目的が分からない。自分で言ってなんだけど、不和を生むならエレーナ嬢はレアの件で沈黙は選ばないはずなのだ。


「いや、アイシャはターゲットに絞って復讐するタイプだ。こんな大規模テロみたいな復讐の仕方はしない」

「その理解はどうかと思うよ、レオ」

「そもそもアイシャではなくあの子が王都に来ていることからおかしいんだ」


それって……。



「アイシャは来ないじゃなくて、来られないなのか?」

ここまで読んでいただきありがとうございます。ブクマや下の☆を押しての評価をいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ