ツンデレな奏汰くんとドMな拓海くん
俺の名前は月夜 拓海 (つきよ たくみ)
22歳。
大学4年生だ。
突然だが俺には毎日している日課がある。そう、ナンパだ。
最初は友達である東雲 樹 (しののめ たつき)に誘われてノリでやっていたことだった。毎日渋谷でナンパして、断る女がほとんどだったが、たまにのっかる女もいた。そんな時は適当にお茶して別れた。
友達(東雲樹以外の友達)にはホテルに連れ込むやつもいたが俺は合意無しにそんな事はしない。
合意があれば誘ってたのかって?
する訳ないだろ。言葉の綾みたいなものだ。
でもなんでナンパが趣味になったのかと疑問に思う人もいるだろう。
それはある日、いつもどうり樹とナンパをしていた時だ。
「なあ、あそこの女の子ちょー可愛いくね?」
と樹が指をさした方に俺は目を向ける。
そこにはオーバーサイズのカットソーにワイドパンツを着こなした多分俺とあんま歳変わらないぐらいの確かに可愛い女の子がスマホ片手に壁に寄りかかっていた。
「.......あー、確かに。」
「だよなー!よし!俺今日はあの子に挑戦してみるわ。」
と樹は軽く腕まくりしてその彼女に近づいて言った。
俺はここで樹と別れて別の女の子を探すのも良かったが、何となく樹に着いていき成り行きを見守ろうと思った。
樹は彼女との距離がちょっと近くない?というぐらいのところで立ち止まり彼女に話しかけた。
「ねえそこの可愛い君。今暇?」
と樹はナンパの王道セリフを言った。もう少しマシなセリフは無いのかよ、と俺は心の中で溜息を着いた。
最初彼女はきょとんと上目遣いで首を傾げながら樹を見た。
話しかけるまでスマホを見ていたため、少し俯いていた顔だったが、樹を見上げることでしっかりと顔が見えるようになった。
そして俺と樹は彼女の顔を見て思わず顔を赤くしてしまった。
「.......可愛い....」
俺は無意識にそう呟いていた。だがそんな呟きは2人には聞こえていなかったらしく2人は見つめ合っていた。
数秒の沈黙が流れその沈黙を破ったのは彼女だった。
「なんですか?」
「あっ、えとっ、今...暇...かなぁ...って思って...。」
樹はタジタジになりながらも答えた。
「もしかしてナンパ...してます?」
「は、はい...。」
この顔じゃあそういう反応になるわなと思っていた。
そして、樹!頑張れ!とも思っていた。
「よ、良ければ!俺と一緒にお茶しませんか!?」
よく言った!
俺は樹に拍手した。
だがそんな勇気も届かず彼女は冷たく言い放った。
「...はぁ、きめぇなお前ら。」
「え?」「は?」
まさかこの顔からそんな言葉が出てくるとは思っていなかったため俺と樹は驚いた。
「ゴミ虫。高貴なる僕に話しかけんなよ愚物風情が。立場を弁えろ。そしてそこの愚民。」
彼女は俺を指さした。
「は?え?俺?」
いきなり指をさされタジタジになる。
「お前もこいつと同じナンパとかくだらねぇことしてんじゃないだろうな?死ねよ下界の民。下郎が。二度と話しかけんじゃねえぞ?それと.......俺は男だ。」
そう言い放つと彼女は颯爽と立ち去っていった。
「.......は?ガチなんなんだよっ!愚民とか下界の民とか意味わかんねぇ!もう俺帰るわ!拓海、また明日な」
「お、おう.......」
樹は苛立ちを抑えることなく大股で帰って行った。
残された俺は動くことが出来ずその場で固まってしまった。幸いなことにそこは広い歩道の端っこだったことで通行人には邪魔にならないところだった。
そんな俺は顔を赤くしたまま胸あたりのシャツを握りしめた。
(やべぇ.......好きかも。またあの人に罵られてぇ...。)
と新たな扉を開きそうになった。いや、開いた。
こんな感情は初めてだった。
多分あの人以外のやつに罵声を浴びせられてもこんな感情は抱くことなく樹と同じ態度をとっていたことだろうが。
あの人の、あの声で、あんな言葉は、俺の閉ざされた扉を見事に開いてみせた。そう.......ドMの扉を__。
(.......?ちょっと待てよ?あの人最後に俺は男だとか言ってなかったか?)
(マジかよ.......好き.......。)
(またあの人に罵られてぇなぁ。願わくば踏みつけられてぇ...。)
そこからだ。俺がナンパをする目的が変わったのは。
いや、ナンパじゃ無いな。聞き込みの方がしっくりくる。
聞き込みをしてあの人の情報を集める。
それが俺が聞き込みを日課にしている理由だ。
あの人を探し始めてから1ヶ月がたった頃、天は俺に味方した。
見つけた場所は俺が通っている大学だった。思い返してみればあの人、いや、あのお方と呼ぼう。
あのお方は結構な有名人だった。
あのお方の名前は朱雀 奏汰 (すざく かなた)
20歳
大学2年生
朱雀家の一人息子の御曹司で跡継ぎ。
顔を見た事がなかったからあのお方が朱雀奏汰だと知った時はほんとに驚いた。
朱雀様は良くも悪くも有名な奴で、頭が良く高校は都内トップの進学校卒業。だけど性格は捻じ曲がっていたため皆から嫌われていた。
まあ、あれを日常的にしてれば嫌われるだろうな。本当は俺も嫌うのが当たり前だろうが、変な扉を開いたため朱雀様のことは大好きだ。いや、愛してる。
そして、1ヶ月間探し続けていた人が見つかったらそりゃあ会いに行くよな。
その日の講義が終わり、朱雀様を待ち伏せした。
10分くらいして彼奴が出てきた。
「あの!朱雀奏汰さんですよね!」
「え?はい、そうですけど。」
一応初対面には敬語を使うらしい。
「お、俺のこと覚えていますか!?1ヶ月程前貴方をナンパしたものですっ!」
なんだこの自己紹介。変すぎる。普通ナンパした者とか言うか?
「あ''あ?お前か下郎。まだあんな下種みたいなことしてんのか?気高い僕の視界に入るな俗物ごときが。さっさと消えろ。」
俺だと気づいた瞬間に一気に態度変わるの最高すぎる。
「好きです!好きなんです!貴方の俺をゴミを見るようなその目!この世の罵詈雑言を固めたような言葉遣い!その全てが俺は好きなんです!俺と付き合ってください!」
「.......は?」
「好きという言葉では言い表せない程愛しているんです!貴方と出会ってから1ヶ月間、ずっと探し続けていました!また貴方に罵倒されたい!願わくばその綺麗な足で踏みつけて欲しいんです!それに公衆の面前で悪罵されたい!」
「ちょっ!ちょっと待て!!」
「はい!朱雀様!」
嗚呼、とうとう様を付けて言ってしまった。引かれたよな。でも好きなんだ。朱雀様.......。
「.......はぁ。場所変えるぞ。」
ということで近くのカフェに入った。モダンなオシャレなカフェで朱雀様はよく来るそう。
(朱雀様がよく来るカフェ.......好き.......。)
「.......それで?なんでお前は俺の事が好きなんだよ。普通こんな言動している人なんて嫌いだろ。現に俺は大半の人から嫌われているからな。」
「あ、嫌われている自覚はあるんですね!」
「っ!お前なぁ...!」
「でも、俺は朱雀様のことが好きです。愛してます。願わくば貴方様に縄できつく縛り付け「分かったから!」...はい!」
「はぁ、お前が俺の事をどう思っているかは分かった。でもお前とは付き合えない。」
「っ!何故ですか!?」
嫌だ!朱雀様と付き合えないなんて。朱雀様と一緒に過ごしたい。片時も離れたくない。
「第一俺はお前のことが好きじゃない。嫌いだ。ナンパなんてする奴はもっと嫌いだ。」
「俺がナンパをしていたのは友達の付き添いというか.......これは言い訳ですね。すみません。でも!朱雀様と出会ってから俺はあなたの事しか考えていませんし、ナンパもしていません!」
嘘は言っていない。朱雀様と出会ってから1ヶ月、俺は朱雀様のことしか考えることが出来なかった。
「でも、ナンパをしていた過去の事実は変わらない。」
「それは.......。」
「でも、お前が初めてだ。」
え?
「こんな俺を好きだと言ってくれたのは。愛していると言ってくれたのは。
.......ありがと...。」
待って唐突なデレはほんとに無理。好き...。
「でも殆ど初対面なお前とは付き合えない。」
やっぱりこんな俺は朱雀様には釣り合わないよな...。
「だから、先ずは友達としてよろしく.......。」
.......こんな嬉しいことが今までの人生であっただろうか。いや、無い。
「はい!!」
ここまで読んでくださりありがとうございました。
この話は云わばプロローグみたいなものです。好評につき続きを描きたいと思っています。
ドS、いや、ツンデレな奏汰くん。そして幸か不幸かドMの扉を開き目覚めてしまった拓海くん。2人はお友達という関係を持つことが出来ました。これからはどんな物語が待ってるのでしょうか。