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4. 驚きの連続

「二人とも、もう遊びは終わったのか?」


 突然、廊下に現れたアルファルドに話しかけられ、まさかさっきミラの頭を熱心に撫でていたのを見られてはいないだろうかとハラハラしてしまう。


「はっ、はい! そろそろ夕食の準備でもしようかと思いまして……」

「そうか。私もちょうど今、君の部屋の準備を終えたところだ」

「そ、そうだったんですね! ありがとうございます!」


 どうやら、頭なでなでのシーンを見られてはいなかったらしい。

 エステルがほっと胸を撫で下ろす。


「ちょっとお部屋を拝見してもよろしいですか?」

「ああ、問題ないか見てくれ」


 三人でエステルの新しい部屋へと向かい、そのドアを開けると、エステルの若葉色の瞳が驚きで見開かれた。


「わあ……! ちゃんとしたお部屋になってます!」


 先ほどまで、がらんとした空き部屋だったはずなのに、今はベッドや机、クローゼットが揃った立派な部屋になっている。


 ミラと遊んでいる間、家具を運び入れるような音も聞こえなかったから、やはりこれはアルファルドが魔法で整えてくれたのだろう。


 エステルが呆気に取られていると、ミラがおずおずとアルファルドに声をかけた。


「あのね、アルファルド。エステルのお布団とかカーテンの色は、もっと明るいほうがいいと思うんだ」


 ミラが指差した布団とカーテンは、言われてみれば深い紺色でシックな印象だ。

 もしかすると、アルファルドの部屋と同じ色なのかもしれない。


「ミラ、ありがとう。でも、わたしはこのままでも大丈夫よ」


 突然居候させてもらうことになった身だ。

 物置きや屋根裏部屋をあてがわれてもおかしくはないのに、こんなにしっかりした部屋を用意してもらえただけでありがたい。


 コーディネートに注文をつけられるような立場ではないとエステルは遠慮したが、アルファルドは無言で部屋の中を一瞥すると、その場でパチンと指を鳴らした。


 その瞬間、部屋の印象ががらりと変わる。


「えっ!? お布団とカーテンが……! ええっ!?」


 なんと、掛け布団はレースの飾りがついたクリーム色、カーテンは明るく優しげな若草色のものへと変わっていた。


「か、可愛いです……魔法ってすごいんですね……!」


 一気に女性らしい雰囲気になった部屋に、エステルが感動の溜め息をもらす。

 するとなぜがミラがちょっと得意げな表情になった。


「ねえ、エステル。アルファルドすごい?」


 どうやらミラはアルファルドを褒めてもらいたがっているらしい。

 ミラの希望に応えてあげたいのと、アルファルドの魔法が本当に素晴らしかったので、エステルは素直に賞賛する。


「ええ、本当にすごいわ! 魔法って、こんなこともできるのね。お部屋が可愛くなって嬉しいわ」


 エステルの言葉に、ミラが嬉しそうな笑みを浮かべる。

 そういえば、アルファルドにまだ直接お礼を言っていなかったと、エステルはアルファルドの顔を見上げた。


「アルファルド様もありがとうございます。このお部屋、とても気に入りました」


 笑顔でそうお礼を伝えると、彼も嬉しそうな笑みを浮かべ……ることはなく、「そうか」と一言だけ返された。


(うーん……アルファルド様と親しくなるのはなかなか難しそうね)


 でも、仲良くはなれなくても、とりあえず嫌われたりしなければそれでいい。

 呪いの代金分を働いて返せるまで、ここに置いてやっていいと思ってもらえれば充分なのだ。


(よし、じゃあいろいろお礼も兼ねて、美味しい夕食を作ってあげましょうか)


 食料庫に何があるか、さっきはあまりよく確認していなかったが、たしか牛乳と卵はあったはず。あとは、普通にお肉とか野菜とかも揃っているだろう。


 エステルがアルファルドとミラに張り切って尋ねる。


「夕食で何か食べたいものはありますか?」


 ミラから「ハンバーグ!」とか「オムレツ!」などと元気な答えが返ってくると思っていたエステルだったが、予想に反してミラはきょとんとした顔で首を傾げ、「食べたいもの……?」と呟いたきり黙ってしまった。


「えっと、特別好きな料理とかはない? ハンバーグとかオムレツとか」

「うーん、なんだろう……。よく分からないかも……」


 ミラが困ったように眉を寄せる。

 急に聞いても思いつかないのかもしれないと思い、質問の仕方を変えてみる。


「それじゃあ、普段はどんなものを食べているか教えてもらってもいい?」

「うん、いいよ!」


 今度はミラも答えやすかったようで、にこにこしながら教えてくれた。


「えっとね、じゃがいもとチーズと牛乳だよ」

「うんうん、他には?」


 今日の朝食のメニューかしらと思い、ミラに続きを促す。

 しかしミラは、またきょとんとした顔で首を傾げた。


「他って?」

「それは今日の朝食でしょう?」

「うん」

「お昼は何を食べたの?」

「じゃがいもとチーズと牛乳だよ」

「……? じゃあ、昨日の夕食は?」

「じゃがいもとチーズと牛乳だよ」

「……???」


 ミラが言っている意味が分からない。

 いや、言っていることは分かるが、本当にそうなのだろうか?


(毎回、食事のメニューはじゃがいもとチーズと牛乳ってこと……?)


 アルファルドにも確認しようと思って、ちらりと視線を向けると、目が合ったアルファルドがおもむろに口を開いた。


「──たまに目玉焼きとベーコンも食べる」


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