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27. 町でのひと時

 外出用の装いで庭に出た三人だったが、エステルがはたと気づいて立ち止まる。


「そういえば、町まではどのくらい離れているんでしょうか? 森を出るまでは歩かないといけないですし、結構時間がかかりそうですよね」


 だが、アルファルドが買い物に出かけるときは、いつも帰ってくるのが早い気がする。

 途中で馬車に乗ったりしているのだろうか。


 どうやって行き来しているのだろうと首をひねっていると、アルファルドが事もなげに答えた。

 

「転移するから距離は関係ない」


 アルファルドがパチンと指を鳴らすと、エステルたち三人はもう町の入り口に立っていた。


「わあ、あっという間に着いちゃった!」

「魔法で移動するなんて初めてです! アルファルド様、凄すぎます……!」


 エステルが興奮して褒めちぎると、アルファルドがやや戸惑ったように返事する。


「これは、脱出に役立つと思って少し前に身につけたのだが……」

「あっ……」


 監禁生活を思い起こさせる重めの回答に、エステルはしまったと思ったが。


「──そんな風に喜ばれるとは思わなかった」

 

 アルファルドは傷ついたわけではないらしく、どこか照れたような微妙な表情で目を逸らしてしまった。


 どうしてそんな顔をするのかよく分からなかったが、アルファルドの珍しい表情にエステルも恥ずかしくなって目を逸らす。


「さ、さあミラ! 今日は日が暮れるまでミラのやりたいことだけしましょうね!」


 無理やり話を変えてミラに話しかけると、ミラは嬉しそうに笑った。


「うん。ありがとうね、エステル」



◇◇◇



「ねえ、これはどうかな?」

「さっきとの違いが分からない」

「さっきのはお花の形だったけど、これはお星様の形でしょ?」

「なるほど……」


 ミラとアルファルドが露店の前で横に並び、何かを吟味している。


 実は町中を歩いていたときにミラがエステルにプレゼントをしたいと言って、先ほどからアルファルドと一緒に選んでくれているのだ。


「どっちがエステルに似合うかなぁ?」


 ミラが首を傾げて尋ねると、アルファルドが「ふむ……」と考える素振りを見せ、おもむろに口を開いた。



「──やっぱり選べない」



 さっきの思わせぶりな間はなんだったのか。

 二人の後ろで苦笑いするエステルだったが、アルファルドの言葉には続きがあったらしく、またミラに話しかけた。


「どちらもエステルに似合うはずだ。だから、両方の飾りを付けてもらおう」

「うん、そうだね! そうしよう!」


 早速ミラとアルファルドが店主に購入の意思を伝えると、店主はその場で何やら加工し始め、出来上がった商品を綺麗な模様の袋に入れて渡してくれた。


 店主から袋を受け取ったミラが、勢いよくエステルのほうへと振り向く。

 プレゼントを渡せるのが嬉しいのか、半透明の頬がうっすらと紅潮していて可愛らしい。


「エステル! これ、僕とアルファルドからのプレゼントだよ。受け取ってくれる?」

「もちろんよ。すごく嬉しいわ。開けてみてもいい?」

「うん、早く見てみて!」


 わくわくした様子のミラに見守られながら、エステルが袋を開けて中のプレゼントを丁寧に取り出す。


「まあ……可愛いネックレス!」


 袋から出てきたのは、花の飾りと星の飾りがついたネックレスだった。

 花と星、どっちがエステルに似合うかとミラが一生懸命に選んでくれていたのだと思うと胸がいっぱいになる。一生の宝物にして、大事にしなくては。


「とっても素敵だわ。どうもありがとう」

「えへへ、エステルに喜んでもらえてよかった」

「早速つけてみてもいい?」

「もちろん!」


 元々つけていた魔石のペンダントをポケットにしまい、ミラからもらったネックレスをつけてみる。


「どう? 似合うかしら?」

「うん、すっごく似合ってるよ! ね、アルファルド」

「……そうだな」


 ネックレスをつけたエステルを見つめながら、アルファルドが満足そうに口もとを緩める。

 その顔を見た瞬間、エステルは先ほど聞こえたアルファルドの言葉を思い出して、急に恥ずかしくなってしまった。



 ──どちらもエステルに似合うはずだ。



 なんだか最近、アルファルドの言動一つひとつが気になって仕方ないし、「エステル」と名前を呼ばれるのも恥ずかしいような気がしてしまう。


(だ、ダメダメ! 今日はそういうことは考えないって決めたんだから……!)


 エステルはぶんぶんと頭を振って、浮かれた考えを追い払った。


「そ、そうだ! あっちに公園があるみたいなんです。みんなで行ってみませんか?」



◇◇◇



 公園はミラも行ってみたかったようで、到着するなり辺りを駆け回りはじめた。

 ローブのフードが脱げないか心配したが、アルファルドの魔法で上手いこと脱げないようになっているらしい。なんて便利な魔法だろうか。


 ミラは元気いっぱいに飛び跳ね、エステルはその後ろをのんびりと歩いて追いかける。


「見て、ブランコがあるよ! 乗ってみてもいい?」

「ええ、いいわよ。後ろから押してあげる」


 ミラは絵本でブランコを知って、ずっと乗りたかったらしい。


「エステル! 風が気持ちいいよ!」

「そうね、危ないからちゃんとロープを握っててね」

「うん! わあ、高い!」


 ブランコをめいっぱい楽しんだあとは、追いかけっこをしたり、池の上を泳ぐ鴨を眺めたり。途中、お腹が空くと屋台で簡単な食べ物を買い、ベンチに座って食べたりもした。


 ミラは食欲もなく口にはしなかったが、串焼きなどの匂いを嗅いでは「美味しそうなにおい〜」と楽しそうにしていた。




「あっ、エステル、あれって猫だよね?」


 ミラがすぐ近くを指差してエステルに尋ねる。

 日当たりのいい草の上に、ふわふわした毛並みの白猫がじっと座っている。

 日向ぼっこでもしているのだろうか、気持ちよさそうに目を瞑っている。


「まあ、綺麗な白猫ちゃんね。誰かの飼い猫かしら」

「真っ白で可愛いね。なでてもいいかなぁ?」

「そうねぇ、猫ちゃんをビックリさせないように、そっと近づいてみましょうか」

「うん!」


 エステルとミラがゆっくりと静かに近づく。

 白猫は気配に気づいたのか、片目を開けてエステルたちを見たが、特に逃げる様子もなくじっとしている。


「猫さん、なでてもいいですか?」


 ミラが小声で尋ねると、白猫はやはり逃げることなく「にゃあ」と鳴いた。


「これって、なでてもいいってこと?」

「きっとそうよ。少しなでさせてもらいましょ」


 猫の鳴き声を「いいよ」の返事と受け取って、真っ白な毛にそっと手を伸ばす。

 ふわふわの毛はとても柔らかく、猫の体はぬくぬくと温かくて、撫でるだけで幸せな気持ちになってくる。


 白猫もゴロゴロと喉を鳴らしたり、パタパタと尻尾を振ったりしていて、ご機嫌の様子だ。


「猫さん、可愛いねえ。お名前はあるのかな?」

「白猫だからシロとか?」


 エステルが安直すぎる名前を出すと、今まで気持ちよさそうにしていた白猫が急にパチリと目を開けて立ち上がり、どこかへ走っていってしまった。


(やだ、まさかわたしが言った名前が適当すぎて怒っちゃったとか……?)


 せっかくミラが喜んでいたのに自分のせいで……と反省していると、ポツリと頬に水滴が当たるのを感じた。


「あ、雨が降ってきた!」


 ミラが気がつくのと同時に、ザァザァと土砂降りになってくる。


(さっきまでいいお天気だったのに……)


 きっとさっきの猫も雨に気づいて逃げていったのだろう。

 自分たちもどこかで雨宿りしなければと、ミラの手を引き、小走りでアルファルドのもとへと向かう。


「すぐそこに宿屋があった。とりあえず、そこに入ろう」

「それがよさそうですね」


 ミラと手を繋いだまま、走ってアルファルドの後をついていく。

 他の人たちも、みな突然の雨で慌てているらしく、何人かとぶつかったりしながら、ようやく宿屋へと辿り着いた。


 アルファルドが部屋を借りてくれ、三人でずぶ濡れのまま部屋に向かう。


「だいぶ濡れちゃったわね。ミラ、寒くない?」


 宿屋が貸してくれたタオルで体を拭きながらエステルが尋ねる。


「う、うん、大丈夫……」


 ミラがタオルで顔を拭きながら返事するが、どことなく元気がない。

 せっかくの外出だったのに雨になってしまって、落ち込んでいるのかもしれない。


「ミラ、きっとすぐに止むわよ。それまでここで遊んで待ちましょう。ほら、ローブも脱いで大丈夫だから、こっちにいらっしゃい」

「う、うん……」


 しかし、いつもならすぐにエステルのところへ来てくれるミラが、なかなか来てくれない。

 それに、いつまで経ってもローブを脱ごうとしてくれない。

 エステルは嫌な予感がした。


「──ねえ、ミラ。ローブを脱いで」

「……」

「ミラ、お願いだから」


 エステルがほとんど泣きそうになりながらお願いすると、ミラはローブを脱いでくれた。


「ああ、ミラ……!」


 ミラの体は、今にも消えてしまいそうなほど透けていた。


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