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26. お出かけの朝

 翌朝、ミラは張り切っていた。

 エステルと一緒に朝ごはんを作るのだと早起きして、寝起きも大変良かった。


 エステルは昨晩、寝つくまでに時間がかかってしまったせいで若干眠気が残っていたが、ミラと料理をするのはこれが最後かもしれないと思うと手抜きなどできるはずもない。


 ミラに手伝いをしてもらいながら、頑張って豪勢な朝食を作り上げた。


 それからアルファルドも起きてきて、いつものように三人で朝食の席につく。


「今日の朝食はミラの好きなものばかりだな」

「うん、エステルがそうしてくれたの。僕もたくさんお手伝いしたんだよ」

「ミラのおかげで助かったわ」

 

 食事をとりながら和やかに会話をしていると、ミラがふと気になったように尋ねた。


「アルファルド、昨日は僕と一緒に寝られなくて寂しかった?」

「そうだな、部屋が広く感じた」

「そっかぁ……。一人にさせちゃってごめんね」


 ミラが申し訳なさそうに眉を下げる。

 けれど、何かいいことを思いついたのか、表情をぱっと明るくした。

 

「そうだ、アルファルド。僕がいなくなったら、エステルに一緒に寝てもらうといいよ。お花のいい匂いがするんだよ」


 屈託のない笑顔を浮かべながらのミラの発言に、エステルは口をつけていたスープを噴きそうになった。

 アルファルドも珍しく「ゴホッ」と咳き込んでいる。


「……気遣いをありがとう。だが、私は一人で大丈夫だ」

「そ、そうよ。アルファルド様は一人でも寝られるから心配いらないわ!」


 せっかくのミラからの提案だが、これは遠慮するしかない。

 ミラは少し残念そうにしたものの、「そっか、アルファルドは大人だものね」と納得してくれた。


(子供って、急にとんでもないことを言い出すから、びっくりしちゃうわね……)


 改めてスープを飲み直しながら、エステルはアルファルドの様子をちらりとうかがう。


(さっきはアルファルド様も咳き込んでたみたいだけど、普通に平常心みたいね)


 自分だけ動揺していたのだろうかと少しだけ悔しいような気がしたが、なんとなく違和感を覚えて、もう一度アルファルドをよく見る。


(あっ、アルファルド様、ナイフを逆さまに持ってる……!)


 一生懸命ナイフの背中でベーコンを切ろうとし、途中で気がついてさりげなく持ち直している。


(ふふっ、可愛い……)


 何事もなかったように振る舞う姿を微笑ましく思うエステルだったが、ふと、昨晩のミラの言葉が蘇ってきた。



 ──きっと、アルファルドはエステルに恋をしたんだと思う。



(やだ、なんでまた思い出しちゃうのよ……)


 アルファルドも、さっきのミラの言葉に照れたり動揺したりしていたのだろうか。

 そう思うと、嬉しいような気持ちになるのはどうしてだろうか。


 その理由になんとなく気づきそうになったが、それを考えるのは後回しにすることにした。


(なんだか恥ずかしいし、今日はミラのための日にするんだもの……!)


 エステルはジャムパンを手に取って、パクパクと頬張った。



◇◇◇

 


 朝食を済ませたら、いよいよ外出だ。

 エステルは、起きたときに着替えたままの格好で出かけようとしたが、ミラからの「エステルに可愛い格好をしてもらいたいな」という要望により、淡いグリーンの可愛らしいワンピースを着て出かけることになった。


 ちなみに、アルファルドが魔法で出してくれたものだ。

 とても綺麗な色で、歩くとスカートの部分がふわりと揺れるのも素敵だった。


「エステル、可愛い!」

「ふふ、ありがとう。ミラもお洒落していかない?」

「うーん、僕はローブを着ていくから、今のままでいいかな」

「そっか……」


 ミラは体が透けているので、目立たないようにローブを羽織って出かけることにしたのだった。


 エステルが残念そうにしていると、ミラが「そうだ」と、同じくローブを羽織っていたアルファルドを見上げた。

 

「せっかくだから、アルファルドも流行りの服を着てみたら?」


 ミラの提案をアルファルドは即答で却下する。


「私はこのままでいい」

「でも、せっかくのお出かけだし」

「どうせ似合わない」

「え〜……」


 人には好みもあるし、流行りの格好をしなくても構わないだろう。

 けれど、「どうせ似合わない」と言い切ってしまうアルファルドに、エステルは猛烈に異議を唱えたくなった。


「ちょっと待ってください!」

「エステル……?」


 実は、常々思っていたのだ。

 アルファルドは森暮らしということもあって、いつも地味な格好をしているが、本当はもっと華やかな装いも似合うはずだと。

 

「アルファルド様に流行りの服が似合わないなんてあり得ません。アルファルド様は背も高いですし、お顔立ちもいいからなんでも似合うはずです。黒もいいですがグレーの服もいけると思います。というかわたしが見たいです!」


 日頃の思いをつい捲し立ててしまったあとで、エステルがハッと口を押さえる。

 正論を言ったつもりだったが、よく考えると恥ずかしいことを言っているし、最後の一言は余計だった気がする。


「す、すみません……今のは忘れてください」


 うつむきながら、小さな声でそういうと、少し間を置いてからアルファルドの声が返ってきた。


「……たしかに、君の服装に合わせたほうがいいかもしれないな」

「アルファルド様……?」


 エステルが顔を上げると、いつのまにかアルファルドのローブが消えて、グレーを基調とした爽やかな装いになっていた。エステルの淡いグリーンのワンピースとも合っている。


「アルファルド、似合ってるよ!」


 変身したアルファルドに、ミラが喜んではしゃぐ。


 エステルも、アルファルドの見慣れない装いに少し戸惑いながらも、想像以上の麗しさにすっかり目を奪われてしまった。


「す、すす、素敵です……」


 さっきまでの饒舌さはどこへ行ってしまったのか、やっと一言だけ感想を伝えると、アルファルドも「そうか……」と一言だけ返事する。


 そうして、ミラがその様子を嬉しそうに眺めたあと、二人の手を取った。


「それじゃあ、そろそろ出かけようか!」


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