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2. 可愛い天使

「ねえ、可哀想だよ。助けてあげようよ」


 突然聞こえてきた子供の声に、エステルが驚いて振り返ると、そこには6歳くらいの可愛らしい男の子の姿があった。


 黒髪と紫色の瞳が闇魔法使いにそっくりで、もしかすると彼の弟か親戚の子なのかもしれない。


「……ミラ、部屋で待っていろと言ったのに」

「だってアルファルドがどうするのか気になって……」


 どうやら男の子はミラ、闇魔法使いはアルファルドという名前らしい。


 ミラが上目遣いでアルファルドを見上げてお願いする。


「この人、すごく困ってるみたいだよ。何とかしてあげようよ」


 なんて優しくていい子なのだろう。

 思わぬ助っ人の登場に、エステルの気持ちも奮い立つ。


「アルファルド様、わたし、何でもします! お金が足りない分、一生懸命タダ働きしますので、どうかわたしを呪ってください……!」


 必死で頭を下げてお願いするエステルの前で、アルファルドがミラに尋ねる。


「お前は彼女を助けたいのか?」

「うん。この人、きっといい人だよ。こんなに頼んでるんだから、助けてあげようよ」

「面倒ごとには巻き込まれたくないんだが……お前がそうしたいなら仕方ない」


 アルファルドがひとつ息を吐いて、エステルに向き直った。


「君の依頼を受ける」

「ほ、本当ですか! ありがとうございます、アルファルド様! それからミラ様もありがとうございます!」


 心からの感謝を込めて御礼を伝えると、ミラははにかんだように可愛らしく微笑んでくれたが、アルファルドは無表情のまま目も合わせてくれなかった。


「早く終わらせたい。もう術をかけていいか?」

「あ、はい! わたしもそのほうが助かります」

「では、顔を上げたまま目を(つむ)ってくれ」


 アルファルドに言われるまま、顔を正面に向けて目を瞑る。

 すると、恐らくアルファルドの手が顔の前に近づくような気配を感じ、それから何かが身体にまとわりつくような感覚を覚えた。


「……完了した」

「もう終わったんですね」


 正直、闇魔法という語感から、怪しげな部屋に描かれた怪しげな魔法陣の上に立たされ、難しい呪文を唱えられたりするのではないかと考えていたが、実際の術はあっさりとしたものだった。


「これでもう聖女の力が湧き出ることはないでしょうか?」

「ああ、完全に抑えるようにしてある。闇魔法で抑えるまでもない微々たる量だったが」

「……」


 この闇魔法使いは、いちいち言い方が刺々しい。


 そんなに簡単に完了できたなら、代金も少しはまけてもらえないだろうかと思ったが、下手なことを言って機嫌を損ね、代金を値上げされては大変だ。逆らわずに大人しくしているほうが得策だろう。


「魔法をかけてくださってありがとうございます。大変助かりました!」

「とりあえず、手持ちの金を払ってくれ」

「あ、はい。ではこちらを……」


 エステルが頑張って貯めた100万リルをアルファルドに差し出す。


「……それで、タダ働きの件ですが、わたしは何をお手伝いしましょう? 闇魔法の助手とか──?」

「無理だ」

「そうですよね」


 即答で拒否されて困っていると、大人しくエステルたちのやり取りを見守っていたミラが、アルファルドの服の袖をちょんと引っ張った。そうして彼に耳打ちする。


「……本当にそうしたいのか?」

「うん。お願い、アルファルド」


 キラキラとした眼差しを向けられ、アルファルドが小さく溜め息をつく。

 それから面倒くさそうにエステルを横目で見た。


「エステル、と言ったな」

「はい!」

「家事と子守りはできるか」

「はい! 家事は一通りできますし、聖女のお勤めで孤児院の訪問などもしていましたので子守りもできます!」


 前のめりでアピールすると、アルファルドが「そうか」と答え、エステルに向き直った。


「では、この家の家事とミラの世話を頼む」

「かしこまりました! ありがとうございます!」

「手を抜いたり、ミラに何かあればすぐに追い出すから、そのつもりでいろ」

「はい、肝に銘じます……!」


 無事に呪いをかけてもらい、当面の職場も決まって安堵していると、ミラが近づいてきてにっこりと微笑んだ。


「これからよろしくね、エステル」

「こちらこそよろしくお願いします、ミラ様」

「ねえ、僕は子供だし、敬語なんて使わないで大丈夫だよ。名前も、様付けじゃなくて『ミラ』って呼んでほしいな」

「そ、そうですか? では……よろしくね、ミラ」

「うん!」


 ミラが嬉しそうに頬を染め、太陽のような笑顔を浮かべる。


(か、可愛い……!)


 思えば、呪いをかけてもらえたのも、足りない代金をタダ働きで相殺させてもらえたのも、ぜんぶミラのおかげだ。


 ミラが取りなして、アルファルドにお願いしてくれなかったら、今頃エステルは追い返され、森の中で途方に暮れていたかもしれない。


 ミラには感謝してもしきれない。


「じゃあ、僕が家の中を案内してあげるね」

「ええ。ありがとう、ミラ」


(ミラへの恩返しのためにも、全力でお世話を頑張らなくちゃ!)


 愛らしいミラの姿についつい頬を緩ませながら、エステルは心の中でやる気をみなぎらせるのだった。


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