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14. 意外な一面

「わあ! アルファルドすごい〜!」

「アルファルド様、意外と体力があるんですね」


 庭の土を耕すアルファルドを見守りながら、ミラとエステルが感嘆の声をあげる。


 最初こそ張り切って畑づくりに精を出していたエステルだったが、土を耕す前の雑草取りやら小石拾いやらですっかりバテてしまい、一番の大仕事はアルファルドにやってもらうことになってしまったのだった。


「わたしったら、こんなに体力がなかったのね……」


 でも、庭の土が案外固く、雑草取りも思っていた以上に大変だったのだ。


 とはいえ、ほんの少し前に「畑づくりは体を使って耕したほうがいいと思うんです!」などと威勢のいいことを言ったばかりでこの有様は恥ずかしい。


 しょんぼりとうなだれるエステルをミラが慰める。


「エステルは女の子だもの。力仕事はアルファルドにやってもらったらいいよ」

「でも、アルファルド様だって普段農具なんて使わないでしょうし、無理したらよくないわ」


 現に、あの(くわ)だって、この家にはなかったから魔法で作ってもらった新品だ。


「……でも、どうしてか様になってるのよね」


 闇魔法使いだから力仕事はそんなに得意ではないんじゃないかと思っていたのに、案外体幹がしっかりしているというか、腰も据わっていて危なげなく見ていられる。


 どんどん土を耕していくアルファルドを目を丸くして見つめるエステルに、ミラがどこか得意げに説明してくれる。


「アルファルドは昔、剣の練習もしてたから、くわを使うのも上手なんだよ、きっと」

「剣術もできるの? 意外だわ」


 魔法使いが振り回すのは杖くらいで、剣なんて縁がないものだと思っていた。


「本当は剣術が好きだったんだよ」

「そうだったのね。どうして騎士じゃなくて魔法使いになったのかしら?」


 自然と頭に浮かんだ疑問を口にしたが、ミラもそこまでは分からないのか曖昧に笑うだけだった。


「……まあ、でも、自分の意思ではどうにもならないことだってあるものだしね」


 エステルだってそうだった。

 別に、聖女になろうとしてなったわけではない。


 アルファルドが騎士ではなく魔法使いになったのも、何か仕方のない理由があったのかもしれない。


 そう結論づけて納得していると、アルファルドが鍬を下ろすのが見えた。

 ずっと休まず耕していたからか、額に汗をかいている。


 アルファルドは片手で汗を拭うと、暑かったのか両袖をまくり上げた。

 いつも袖の長い服を着ていたので分からなかったが、(あら)わになった腕にはほどよく筋肉がついていて、意外な男らしさにどきっとしてしまう。


(アルファルド様、着やせするタイプなのね……──って、わたしったらまた変なことを考えて……!)


「エステル、顔が赤いけど大丈夫?」

「えっ!? だ、大丈夫よ! 体を動かしたら暑くなっちゃったみたいね……!」


 しばらく前からずっと木陰で休んでいたのに苦しい言い訳だが、優しいミラは「そっか。頑張って草むしりしたもんね!」と理解を示してくれた。

 なんていい子なのだろうか。


 それから、沸いた頭が早く冷えるよう、ひたすら土を凝視していると、アルファルドの声が聞こえてきてエステルは我に返った。


「……(うね)が出来た」

「本当だ! アルファルド、すごーい!」

「わ、わあ……! 素晴らしいです!」


 ミラに続いて、ややぎこちない歓声をあげたあと、エステルがタオルを持ってアルファルドに駆け寄る。


 力仕事を全部アルファルドに任せてしまった分、後方支援的なことででも役立たなければ申し訳ない。


 綺麗なタオルを手渡すと、アルファルドは礼を言って受け取り、首にかいた汗を拭った。


「お疲れでしょう? 少し休まれますか?」

「いや、大丈夫だ。君の言ったとおり、魔法を使うより体を動かしたほうが気持ちがいいな」

「そ、そうですか……?」


 ひと仕事終えた達成感からか、いつもより爽やかさの増したアルファルドの表情に妙にどぎまぎしてしまう。


「で、では、畝も出来たことですし、苗を植えましょうか!」


 実は先ほどエステルとミラで雑草を抜いている間、アルファルドに種や苗を買ってきてもらったのだった。


「ミラ、これがミニトマトの苗ですって。植えてみる?」

「うん、やってみる!」


 ミラがやる気に満ちた表情で畝の前にしゃがみ込む。

 そうして、小さな手で一生懸命に土を掘り、苗を植える姿のなんと愛おしいことだろうか。

 植えられた苗もきっとミラを喜ばせるために、すくすくと成長してくれることだろう。


 エステルが一人しみじみと感じ入っていると、アルファルドもミラをじっと見つめていることに気がついた。


「アルファルド様も植えてみますか?」

「ああ、やってみる」


 アルファルドも苗を手に取り、畝の前にしゃがみ込む。

 やや不慣れな手つきで苗を植える姿に、エステルはミラのときとはまた違った胸のときめきを覚えた。


(なんなのかしら、この気持ちは……)


 可愛い子供を愛でるのと、似ているようで、少し違う。

 何が違うのかよく分からないけれど、目が離せなくて、ずっと眺めていたい。


(アルファルド様、睫毛が長くて綺麗だわ……)


「ねえ、エステル、次は(かぶ)の種をまこう!」


 いつのまにかアルファルドの横顔に見惚れていたエステルが、ミラの声に肩を跳ねさせた。


「あっ、そ、そうね! どんどん植えないと日が暮れちゃうわね……!」


(いけない、いけない。ぼうっとしちゃったわ)


 エステルがぱちんと軽く頬を叩いて、蕪の種を取りに行く。


「はい、ミラ。蕪の種よ。一緒にまきましょう」

「うん! エステル、畑づくりってすごく楽しいね」

「ええ、そうね」


 ミラの弾けるような笑顔を見下ろしながら、エステルは畑づくりを思いついた自分を心の中で褒めたのだった。



◇◇◇



「ふわぁ……。えっ、やだ、少し休むだけのつもりだったのに……!」


 ソファで目を覚ましたエステルが、時計を見て焦った声を出す。


 畑を作って苗や種を植えたあと、夕食作りまでまだ時間があったので少しだけソファに座って休憩していたのだが、ほんのちょっとだけと思って目を瞑っていたら、いつのまにか結構な時間眠ってしまっていたようだった。


(今から作り始めれば、まだ大丈夫ね……!)


 急いで台所へ行こうとしたエステルだったが、ふと膝に毛布が掛けられていたことに気づいた。


 一瞬、ミラが掛けてくれたのかと思ったが、ミラもソファの隣で眠っていて、同じく毛布が掛けられている。


(じゃあ、アルファルド様が掛けてくださったのね……)


 膝だけではなく、胸の中までじんわりとした温かさが広がっていく気がする。


(今日はたくさん頑張ってくださったし、きっとお腹も空いてるはずよね。美味しいごはんをたくさん作ってあげなくちゃ)


 エステルは毛布を丁寧にたたむと、張り切って台所へと向かったのだった。


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