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13. 畑を作ろう

 ある日、ミラの昼寝中に読書をしていたエステルは静かに本を閉じると、おもむろに立ち上がった。


「よし、畑を作りましょう」


 思い立ったが吉日。早速アルファルドに掛け合う。


「アルファルド様、お庭に畑を作りたいのですが」

「畑? なぜ急に……」


 最近、少しずつ感情表現が豊かになってきた気がするアルファルドが困惑の表情を見せる。


「この本を読んで、家庭菜園ってそんなに難しくないんだなと思いまして」


 エステルが先ほど読んでいた本をアルファルドに見せる。


 表紙には『土との対話 〜今日から始める家庭菜園〜』と題字が記されていた。


「これは、前に土魔法の解説書と間違えて買った本……」


 アルファルドがぼそりと呟く。


 なぜアルファルドが家庭菜園の本なんて、と不思議に思っていたが、うっかり間違えて買った本だったらしい。

 おそらく、題名の『土との対話』の部分だけ見て、内容を確認していなかったのだろう。


(クールな人かと思いきや、たまにこういう抜けてるところがあるのが可愛いのよね……って、やだ、私また「可愛い」だなんて……!)


 この頃、だんだんとアルファルドを見る目が変わってしまっているのを自分でも感じる。

 なぜだか可愛さを感じて、愛でたいような気持ちになってしまうのだ。


 アルファルドはエステルの聖女の力を封じてくれたうえ、居候としてこの隠れ家に住まわせてくれている恩人だ。

 そんな彼に対して「可愛い」だなんて思うのは失礼極まりない。


 エステルは頭を振って雑念を払うと、気を取り直して家庭菜園のアピールを始めた。


「と、とにかくですね、家庭菜園は素晴らしいんです! 野菜が育つまで少し時間はかかりますけど、ちゃんと育てばアルファルド様が買い物に出かける頻度も減らせると思います。それに、ミラの成長のためにも採れたての新鮮な野菜を食べさせてあげたいと思いまして……!」


 家庭菜園の利点を挙げてみたが、アルファルドの表情は厳しい。

 これは押しが足りていないのかもしれない、とエステルはさらに熱弁する。


「ミニトマトとか(かぶ)とかほうれん草とか、初心者でも育てやすい野菜がいろいろあるんです。ほうれん草のグラタン、ミラもアルファルド様もお好きでしょう? 家で育てれば、たくさん食べられますよ!」


 そのほかにも家庭菜園のいいところを語り続けていると、アルファルドも納得してくれたのか、はたまた根負けしたのか、ようやく首を縦に振ってくれた。


「分かった。許可しよう」

「ありがとうございます、アルファルド様! ミラもきっと喜びます!」


 家庭菜園づくりを認めてもらえたことに喜んでいると、お昼寝から起きたミラが目をこすりながらやって来た。


「……エステル、なんだか楽しそうだけど、どうしたの?」

「ミラ。もしかして起こしちゃったかしら。騒いじゃってごめんなさい」

「ううん、大丈夫。それより、僕も喜ぶって何のこと?」


 きょとんと首を傾げるミラに、エステルがにっこりと笑いかける。


「実はね、お庭に畑を作ろうと思って」

「はたけ?」

「ええ、お庭でお野菜を育てるのよ」

「お野菜を? すごい! 楽しそう!」


 自分も手伝いたいとはしゃぐミラに、エステルの気も(はや)る。


「善は急げって言うし、さっそく始めちゃいましょうか。アルファルド様、(すき)とか(くわ)とかってあったりしませんか?」

「畑づくりなら魔法でできるが」

「うーん……たしかに魔法を使ったらすごく楽そうですけど、畑づくりは体を使って耕したほうがいいと思うんです。ミラの教育にもなりますし」

「教育……。畑づくりが?」


 アルファルドが訳が分からないと言いたげに眉を寄せる。


 たしかに、教育というと本を読んで勉強するイメージが強いからピンとこないのかもしれない。


「はい、土に触れて、その固さや柔らかさを感じたり、土を耕す苦労を知るのもいい刺激になると思います。自分で経験することは、何だって学びになりますから。あ、もちろん鍬を使ったりするのは危ないので私がやりますが……!」


 エステルが慌てて付け加えると、アルファルドは数秒何か考える素振りを見せたあと、エステルの目を見て返事した。


「私も手伝う」

「えっ!」


 予想外の申し出にエステルが驚く。

 もともとアルファルドには庭に畑を作る許可だけもらって、あとは自分で何とかしようと思っていたのだ。


「いえいえ、そんな、アルファルド様の手を煩わせるわけには……」

「構わない。君とミラだけでは心配だ。それに……私もやってみたい」

「!!」


 まさかアルファルド自身が畑づくりに興味を持ってくれるとは思わなかったので、またもや驚いてしまう。

 けれど、本人が「やってみたい」と言うなら遠慮する必要はないし、男手があれば助かるだろう。


(それに、三人で畑仕事をしたら楽しそうだわ……!)


 ミラも同じことを思っているらしく、嬉しそうに目をキラキラさせている。


「アルファルドも一緒にしよう! きっと楽しいよ!」

「よーし、じゃあ、三人で最高の畑を作りましょうね!」


 そうして、さっそく三人で庭へと向かったのだった。


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