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溺愛のススメ  作者: 桜 祈理
卒業後

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53 紹介しろよ

 私の東京での生活は、先輩の手厚いサポートのおかげで思った以上に順調に始まった。


 最初こそ、2年間も遠距離恋愛をしていたせいでどのくらいの距離感で過ごせばいいのか戸惑ってしまったけど、何せ2年ぶりである。


 ついいちゃいちゃしてしまうのは、仕方なくない?


 もちろんそれぞれ大学の講義があるし、お互いに「学生の本分はしっかり勤めましょう」と決めて、サボらずに通っている。


 先輩は3年生になって、配属される研究室ゼミが決まったことで少し忙しくなったようだけど、バイトをちょっとだけセーブして私と過ごす時間を増やしてくれている。


 その上、先輩の甘やかしはさらにグレードアップする一方なのです。


 高1の頃の甘やかしも十分すごかったけど、はっきり言って今は私たちの関係そのものがだいぶレベルアップしているわけなので。


 もう桁外れに甘い。激甘である。


 甘やかされすぎて、私ってばそのうち溶けるんじゃないかな。

 人としての形をもはや保てなくなりそうで怖い。笑。






 ゴールデンウイークが目前に迫ったある日、私の午後の講義が2つとも休校になった。


 珍しいこともあるもんだと先輩にLINEすると、すぐ電話がかかってくる。


「どうすんだ?このあと」

「このままスーパーに寄ってから帰ろうかなって。今日はどっちにする?」


 「どっちにする?」とは、「どっちの部屋で過ごすか?」という意味である。


 なんたってお向かいさん同士なので、だいたいいつもどちらかの部屋で一緒に過ごすようになってしまった。

 これ、私が部屋を借りる意味あった? とか一瞬思ったりもしたけど、しょーがないよねー2年も我慢したんだもん、と自分の中で勝手に言い訳している。


 でもちゃんと、それなりに節度は保っているつもりです、お父さんお母さん。




「時間あるならさ、こっち来ないか?」

「こっちって?」

「うちの大学。このあとすぐ講義あるんだけど、それが終わったらあと何もないから」



 ほう。

 先輩の大学ですか。

 もちろん興味がないわけじゃない。むしろめっちゃある。



 先輩の誘いに飛びついた私は、自分の大学から先輩の大学までの行き方を事細かに聞きながらメモした。


 いまだに鉄道路線に関してはちんぷんかんぷんなところがあるから、1人でそこまで行ってみるのはちょっとした冒険である。

 いくつか乗り換えがあるから、メモを片手にちょっと迷いながら先輩の大学を目指す。


 東京に住んでる人は、あの路線図がすんなり頭の中に入ってるんだから、ほんとにすごい。


 2つ目の駅の中で乗り換え口がわからず右往左往したのもあって、先輩の大学の最寄駅についたのは講義が終わる20分前だった。


 意外に時間がかかってしまった。


 賑やかな街並みの中をあちこち眺めながらウキウキした気分で歩いて行くと、ちょうどいい時間に待ち合わせ場所の正門前に着いた。



 しばらく待っていると「乙葉!」という声が聞こえて、振り返ると先輩がにこやかに走ってくる。


 朝、大学に行くまで一緒にいたのに、またすぐ会えるなんて。


 うれしい。

 東京、最高。


 走って来た先輩は、すぐに私をその腕の中にふわっと閉じ込めた。


「大丈夫だったか? 迷わなかった?」

「ちょっと迷っちゃった。わかんなくなって駅員さんに聞いた」

「そっか、偉い偉い。お前が無事に辿り着けるか心配で、講義の内容が頭に入ってこなかったよ」


 先輩は苦笑しながらもうれしさを隠しきれないといった様子で、私のこめかみにキスをしようとする。


 くすぐったさに身悶えしていると、先輩の後ろから冷やかすような声が聞こえた。


「人前であんまいちゃいちゃすんなー」


 声のした方に顔を向けると、にんまりと楽しげな笑顔を見せる男の人が2人立っている。


「うるさいな、いいだろ可愛いんだから」


 そう言って、先輩は私の頭の上に自分の顔を乗せたかと思うと軽くキスをして、それから躊躇なく抱きしめる腕の力を強めた。


 う、うれしいけど、人の目があるときはさすがに私も恥ずかしい。


 東京に来てから、今まで以上に過剰で際どい先輩のスキンシップにだいぶ慣れたとはいえ、知り合いの前でこれはちょっと……と思っていたら。


「いい加減、紹介しろよ」


 背の高い方の男の人の冷静な声に突っ込まれる。


「あー、はいはい。俺の彼女の乙葉。乙葉、こいつら友だちの夏目と大我だ」


 ちょっと緩んだ先輩の腕の中から2人の男の人を確認する。


「はじめまして。いつも伊織先輩がお世話になってます。望月乙葉です」


 私は先輩の腕から離れて、きちんとおじぎをしながら挨拶した。

 先輩の友だち2人は慌てて姿勢を正して、意外にも丁寧に挨拶を返してくれた。


「はじめまして。俺は夏目爽太郎です」

「俺、氏家大我。乙葉ちゃん、よろしくね」



 この2人、あのスマホ騒動のときの2人である。


 なんだかんだでこの2人とは同じゼミになったと先輩から聞いていたし、「今度会わせる」と言ってたからそれもあって今日呼ばれたんだなと納得した。




  学食に移動して、先輩の友だち2人を改めて観察してみる。


  夏目さんは先輩より背が高くて、優しげな目が印象的な「いい人キャラ」だし、大我さんは見た目はもちろん話し方とか服のセンスとか全体的にちょっとチャラい。髪の色も金髪に近くて、さらにところどころちょっと赤いのが入っている。


 2人から、先輩がどれだけ私のことを待ち焦がれていたか、離れていてもどれだけ愛されていたかということを事細かに聞かされ、恥ずかしくて先輩の顔をまともに見られない。


 ムズムズと身の置き場のなさを感じて、ちょっと現実逃避しかけたときだった。


「あら、みんな何してるの?」


 煌びやかではあるけど、どうしたって派手という印象の否めない女子大生が近づいてきた。

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