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溺愛のススメ  作者: 桜祈理
3年生

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50 昂ちゃんグッジョブ

 みんなの視線を集めたお母さんは、どこか悲壮感の漂う表情で先輩に向き直った。


「実は私、藤野くんのこと以前から知っていました」

「え?」

「名前とか、どこの誰なのかとか詳しいことは知らなかったけど、以前橘さんに聞いたことがあって……。乙葉に彼氏ができて、その人にとても大事にされていて、昂生くんが『あいつになら任せられる』って言ってたって」


 私と先輩は目を見開いたまま、お互いの顔を見合わせる。


 よくわからないけど、大声で「昂ちゃんグッジョブ」と叫びたくなった。


「恥ずかしいことだけど、乙葉に関しては私たちより橘家の方々の意見の方が正しいことも多くて……だから昂生くんがそう言うなら、という思いはもともとありました。今日初めて藤野くんにお会いしてみて昂生くんの言葉の意味が私にも少しわかった気がするし、私もあなたのことを信用してみたい。少なくとも、頭ごなしに否定する気にはなれないの。むしろこれから、あなたが私たちの信用を勝ち得ていくところを見てみたい」


 お父さんがあからさまに蒼ざめて、「信じられない」という顔をする。

 お母さんのまさかの裏切りに、驚きすぎて声も出ないらしい。


「藤野くんは、乙葉の小さい頃のこと知っているの?」

「だいたい聞いてます」

「そう」


 お母さんは不意に視線を逸らし、小さなため息をついたあと静かに話し出した。


「私たちはね、後悔してるんです。仕方なかったとはいえ、小さい頃この子に寂しい思いをさせ続けてしまって。だから常にどこか負い目を感じていて、ほしいと言ったものはほとんど買ってあげたし、やりたいと言ったことは何でもさせてきたつもりなんです。でも最初にこの子が東京に行きたいと言ったとき、私は正直、この子に捨てられるんだと思いました」


 その言葉の与える衝撃に、私は息を呑む。


 お母さんは必死に涙をこらえるように顔を歪ませながら、話を続けた。


「私たちは罪滅ぼしと思って何でも与えてきました。でもそんなのはただの独りよがりで、この子にとってははそれが親の愛情だなんて思えなかったんじゃないかと……だからそんな関係を断ち切って、遠くへ行ってしまいたいのかと思ったんです。そりゃそうですよね、私たちがこの子を東京にやりたくないのは、手元に置くことが『大事にする』ことだと、いちばんの罪滅ぼしだと思っているから。小さい頃一緒にいてあげられなかった分、今一緒にいることがいちばんの愛情だと……」


 「ごめんね」とお母さんがつぶやくから、私も涙が溢れてくる。


「でも本当にそれでいいのかと思うようになったんです。いくら負い目があるからといって、ずっとそばにいて、何でも与えようとしてきたことが正しかったのかと……それが『大事にする』ことだと思ってきたけど、ほんとにそうだったのかなって。藤野くんの言う通り、『大事にする』ということがどういうことなのか、私たちはこれからきちんと考えないといけないと思うの。そうしないと本当に、取り返しのつかないことになるんじゃないかしら」


 お母さんは立ち上がったままどうしていいかわからず戸惑う魔王を見上げ、それから私の方へとゆっくり視線をずらした。


「藤野くんの気持ちはわかったけど、乙葉はどうしたいの?」

「私? 私は東京に行きたい」


 即答した。

 迷うことなんかなかった。


「東京の大学に行って先輩のそばにいたい。先輩とずっと一緒にいたいし、いずれ結婚したい。でも」


 それは紛れもなく私の本心だけど、でもどうしても、この場で言わなきゃいけないことがある。


「東京に行きたいのは、お母さんたちを捨てたいわけじゃないよ。小さい頃の事情はわかってるつもりだし、そのことで責める気持ちもない。ただ、お母さんたちより、先輩と一緒にいたいだけなの」



 何となく、薄々気づいていた。


 両親が私に何でも与えようとしてくれることも、何を言っても反対されないことも、それが両親の心の奥に潜む罪悪感ゆえの行動だということも。

 どうしようもなかった時間を埋めるためには、それしか方法がなかったのだと思う。だから私は、それを責める気にはなれない。



 でも、私が本当にほしかったものを初めてくれたのは先輩だった。

 だからこれからもずっと先輩と一緒にいたいという気持ちは揺るぎようがない。



 先輩を見ると、満足そうに微笑んでくれていた。


「東京に行かせるのか?」


 魔王改めお父さんが、がっくりと意気消沈した様子で椅子に座り込む。


「目指すのはいいんじゃない?受かるかどうかは乙葉次第でしょ?点数足りないみたいだし」


 さっきまでのしんみりしたやり取りは何だったのかと思わせるほど、お母さんのだいぶシビアなツッコミが刺さる。


「神田女子大目指すんでしょ?」

「え、あ、まあ」

「神田女子大目指すの?」


 事情を余すことなく知っている先輩は、面白そうにちょっと意地の悪い笑顔を見せている。


 ええい。

 みんな、バカにして。


「神田女子、目指します!」


 ヤケになって宣言してしまって、あとで後悔するパターンだこれは……。

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