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溺愛のススメ  作者: 桜 祈理
3年生

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46 お泊まり会

 家を出たところで行くあてもなかった私は、結局瑠々に電話していた。


 何も持たずに家から飛び出して来ちゃったけど、スマホだけは運よく制服のポケットに入っていたことに感謝しながら。


 さっきまで学校で一緒だった瑠々は軽い調子で電話に出て、私の話を聞くうちに「マジか」「え?」「大丈夫?」などと言いながら、事態は思った以上に深刻だと察したらしい。

 話し終えた私を気遣うように、あっけらかんと「じゃあみんなで数馬くん家に集合しよう」と言い出した。


「え、いいの? いきなり行って」

「桐生が今日寄るって言ってたから数馬くんはいるはずだし、いいんじゃね? こういうときはさ、みんなで考えた方が何とかなるもんだよ。私から連絡しておくから、乙葉はそのまま行きなよ」


 置かれた状況の重さを吹き飛ばすような迷いのない采配に感謝しつつ、私は数馬くんの家に向かった。


 数馬くんの家に着くと、すでに事情を聞いていたらしい2人が快く出迎えてくれた。

 少ししたら瑠々も来て、勝手な疎外感を抱いていたくせにいつものメンバーの顔を見るとやっぱりホッとしてしまう。


 私は、東京行きを反対されて両親としばらく冷戦状態にあったこと、さっき父親とケンカして頬をぶたれたこと、実は東京行きを巡って先輩ともケンカしていたことなんかをかいつまんで話した。


 そして、先輩とケンカしたことでこれ以上ないくらいに不貞腐れ、何もかもどうでもいいと投げやりになっていることも。


「親が何て言おうと東京に来いって言ってくれると思ったのに、まさか親がダメって言うなら東京に来るのは無理だろとか許してもらえないなら仕方ないなんて言うとは思わなかった。それに『責任取れない』って、何なの? 私はどんなことがあってもずっと先輩と一緒にいるつもりでいたのに、先輩はそこまでの気持ちじゃなかったってことでしょ」


 一気に話し続けたらどんどん泣けてきて、最後はしゃくりあげながら話して、瑠々に「よしよし」と頭を撫でられた。

 迷いなく箱ティッシュを渡してくれた桐生くんに、前にもこんなことあったな、なんて場違いに思い出す。


「うーん、兄貴もちゃんと、『そこまでの気持ち』でいるとは思うんだけどな」


 黙って話を聞いていた数馬くんが、どうにも腑に落ちないというような不服そうな顔をする。


「そんなわけないよ。だって『責任取れない』って言ってたよ」

「その辺のことは兄貴に聞かないとわかんないけどさ。でも乙葉との将来を考えてないわけないよ」

「そんなこと、今までだって何にも言われてないんだよ? どうせ最初から先輩はそういうつもりなんかなかったし、私が勝手に期待してただけなんだよ。おまけに親がダメって言ったらダメだなんて、何? その程度だってことでしょ。なんで親の許可がいるのよ。親なんて関係ないじゃん」


 言ってることが相当めちゃくちゃだとわかってはいても私はますます興奮して止められないし、みんなもどうにも手がつけられなくて途方に暮れつつあるときだった。



「あらあら、乙葉ちゃんどうしたの!?」


 仕事から帰ってきたらしい数馬くんのお母さんが、私の様子を目にするや否やリビングに駆け込んできた。


「ちょっと何、こんなに泣いてるじゃないの? 数馬が泣かせたの?」

「んなわけないだろ。どっちかっていうと、泣かせたのは兄貴っていうか」

「え? 伊織に何されたの、乙葉ちゃん」


 おばさんが箱ティッシュからティッシュペーパーを勢いよく何枚も取り出して私の涙を拭こうとしてくれるから、どうしてだか涙が溢れて止まらない。


 何も言えずにただただ泣き続ける私の代わりに、数馬くんたちがここまでの経緯を簡単に説明してくれた。

 おばさんは忙しく私の涙を拭きながら、「あらまあ」とか「そうなの?」とか「それは大変」とか上手に相槌を打ちつつみんなの話を聞き続けた。


 話がだいたい終わる頃には私の涙も少し落ち着いてきて、それを確認したおばさんはふんわりと安堵の表情を浮かべた。


「そうねえ。乙葉ちゃんの東京行きを許すのも許さないのもそちらのご両親だし、私には口出しできないけどね。うちは伊織を東京に行かせることにそれほど迷うことはなかったけど、男の子と女の子だとやっぱりまた違うでしょうしね」


 おばさんの穏やかな口調に、みんなが納得したように頷いている。


 でも私の頭の中は、理解できる部分と理解できないししたくない部分とがせめぎ合っていて、ちっとも働かない。


 頷くことも反論することもなく押し黙る私を見て、おばさんは私の顔を窺うように言った。


「とりあえず、今日はどうするの?」

「今日、ですか?」

「お父さんにぶたれて、そのまま家を出てきちゃったんでしょう? 帰りづらいんじゃない?」

「それはまあ。帰りたくは、ないです」


 「そうよねそうよね」とおばさんは何を企んでいるのか急に目をキラキラさせる。


「じゃあね、今日はもうこのまま泊まっていったらどう?」

「はい?」

「帰りたくないんでしょ? だったら今日は泊まっていきなさいな。あ、そうだ。いっそのこと、瑠々ちゃんも忍くんも一緒に泊まったらいいんじゃない? みんなでお泊まり会にしちゃったらいいのよ」

「「「「えーっ!?」」」」」

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