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溺愛のススメ  作者: 桜 祈理
3年生

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38 先週です

 想定外のダイレクトすぎる質問に、私は気のせいじゃなくはっきりと立ちくらみがした。


「あ、あの、桐生先輩が前に乙葉先輩に告白してたって聞いて、それで……」


 言いながら、椎名さんはすでに泣きそうになっている。

 このままだと私が泣かせてるみたいだし、どう説明しようか、何と言って返そうかと焦って考えてるうちに、私はハタと気づいた。


 ちょっと待って。

 なんかこの状況、ものすごく既視感がありすぎるんだけど……!


 いろんなことを同時多発的に思い出してしまって動揺しまくる私の様子を見て、椎名さんはいよいよ涙ぐんで絞り出すように言った。


「やっぱり、せ、先輩たちって、つきあってるんですか……?」


 ……的外れな質問って、された方の意識を一気に鎮静化する効果があるんだなあなどとつい現実逃避ぎみに考えてしまうほど、その質問は見当違いも甚だしいものだった。


「ごめん、一応確認するけど、誰と誰がつきあってるって?」

「桐生先輩と乙葉先輩です」

「つきあってないよ。私、彼氏いるし」


 急に冷静になって答えた私に、椎名さんは訝しげな顔をした。



 私は私で、動揺と混乱が収束するにつれこのシチュエーションがおととしの私たちとまったく同じだということに内心驚いていた。


 つまり。


 おととし、私は伊織先輩を好きになってつきあうことになったけど、先輩は本当は瞳子さんが好きだと聞かされて(そういえばそれを教えてくれたのも桐生くんだった)、ショックを受けた。受けまくった。


 今年、椎名さんは桐生くんを好きになったんだろうけど、どこからか桐生くんが私のことを好きだと聞いたのだろう。


 あのときと全く同じ状況じゃない。

 立場は逆だけど。

 我ながら何というか、複雑な心境ではある。うん。


「つきあってないんですか?」

「うん。誰に聞いたの? その話」

「同じクラスの子です。お姉ちゃんが3年生にいるって言ってて」


 あー、なるほどね。


 私は完全に作業するのをやめて、部屋の隅に置いてあったパイプ椅子を2つ持ってきた。


「ちゃんと話したいからさ、とりあえず座らない?」


 椎名さんは張り詰めた表情のまま、黙って頷いた。




 それから私は、私たちに関するしっかりとした事実を椎名さんに説明した。


 桐生くんとは1年からずっと、実行委員で一緒だってこと。

 確かに、去年告白されたこと。

 でも私には1年のときからずっとつきあっている彼がいるからすぐに断ったこと。

 教室で告白されたからそのあと噂が広がってしまい、さらにその噂に尾ひれやら背びれやらがついてしまってあることないこと言われていたこと。

 桐生くんもそういったことは全部知っていて、今は普通に友だちとして接してくれていること。


「ただね、私はもう完全に友だちだと思ってるし桐生くんに対してそういう気持ちは一切ないんだけど、桐生くんが今どう思っているのか、ほんとのことはわからないの。だからそこは、私にいろいろ聞くより桐生くんに直接聞いた方が」

「私、実は桐生先輩に告白したんです」

「えっ? いつ?」

「先週です」


 はあ!?

 先週?

 桐生くん何にも言ってなかったじゃないの!

 さっきだって何事もないような顔して実行委員の仕事してたくせに!


 興奮のあまり思わず立ち上がり、俄かに鼻息の荒くなった私を見た椎名さんが怯えるような目をしたから、私は慌てて落ち着きを取り戻して一切動じていないフリをした。


「告白したの? それで?」

「つきあってくださいって言ったんですけど、今はそういう気持ちになれないって言われてしまって……それを友だちに話したら、お姉ちゃんから聞いたって言って桐生先輩が乙葉先輩に告白した話を教えてくれたんです。それで2人がつきあってるから断られたのかと思って、確認したくて……」

「さっきも言ったけど、私は桐生くんとはつきあってないよ。それに、もしもつきあってたとしたら、桐生くんは断るときにちゃんとそのことを言うと思うよ」


 「桐生くんってそういう人だよ」と付け加えると、椎名さんはひどく神妙な顔をした。


「桐生先輩は、まだ乙葉先輩のことが好きなんでしょうか?」

「それは私にもわかんないな。でも私としては、もう違うような気はしてるんだけど」



 あの去年のスマホ騒動のとき、先輩の浮気疑惑が杞憂だとわかった上に私と先輩の間には入り込む余地などないと思い知ってからも、実は桐生くんの目の奥にまだかすかな熱が残っていると私は気づいていた。


 そのことに、当然多少の居心地の悪さや気まずさを感じてはいたけれど、それを指摘することもできずにいた。

 悪意のある噂が広まっていたこともあって距離を置いた方がいいのかなと思ったけど、当の桐生くんが私や瑠々と普通に接してくれるから、結局何だかんだでその懐の深さに甘えて過ごしていたように思う。


 そうしているうちに、いつのまにかあの熱は消えていた。


 わざわざ聞く必要も感じなかったけど、聞く勇気ももちろんなかった。

 でも、ずっと友だちの距離感を保ってくれて、それどころか瑠々や数馬くんも含めて仲良くしてくれてると思っていたのに。


 それなのに、告白なんて大事なことを何も教えてくれないってどういうことなの?


 私は、このあとどうやって桐生くんをとっちめてやろうかとそればかりを考えていた。

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