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溺愛のススメ  作者: 桜 祈理
3年生

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37 ちょっといいですか

 そうこうしているうちに文化祭実行委員が決まり、準備作業が始まった。


 私はこれまでの流れ通り、やっぱりというか無事にというか実行委員になったし、桐生くんは今年も立候補したらしい。


 しかも桐生くんは、とうとう文化祭実行委員長にまでのし上がった。

 「委員長」といえば、委員の代表である。生徒会との連携はもちろん他学年の委員との意思疎通やその取りまとめなど全体を俯瞰して動く必要のある最重要ポストで、仕事は多岐にわたるわけだが。




 そんな中で、ちょっと面白いことが起きている。


「1年生が? 桐生に?」

「うん、多分。なんか、怪しい。可愛らしいというか」


 1年生の女子の中で、桐生くんに強烈な憧れにも似た感情を抱いているらしい子がいるのだ。


 何かというと委員長である桐生くんにわざわざ話を聞きに来るし、思いがけず桐生くんと直接話せると見るからに挙動不審になりながらもうれしさを隠せない、といった表情をする。


 要するに、バレバレなんである。


「桐生自身は気づいてる感じなの?」

「どうなんだろう? でもまあ、もしかしたら気づいてるのかも」


 桐生くんはともかく、ほかの実行委員でも気づいてる人は気づいてると思う。というか、多分ほとんどの人が勘づいている。


 特に3年生の中には、「ね、あの子さ」と直接私に言ってくる人もいる。

 その人は、去年の私と桐生くんとのことを知っているからわざわざそんなことを言うんだろうな、と思ったりはしてるけど。


 こうなったら直接桐生くんに聞いてみようかとも思ったけど、委員長は思った以上に忙しくてなかなか捕まらないというのも事実なわけで。

 しかも今年はクラスも違うから、気軽に話せる機会も以前に比べると少なくなってしまったし。


「桐生くん自身はともかく、去年のこともあるからまわりはみんな生温かい目で見守ってるって感じだわね」

「あー、去年のね」



 あれからもう、1年近くが過ぎている。

 突然の浮気疑惑と桐生くんの告白、数馬くんとの出会い、あの怒涛の1週間。


「早いもんだね。うちらにしてみれば桐生の告白よりも先輩の浮気疑惑の方が大問題だったからちょっと記憶も薄れてるけど、あの直後は結構噂になってたもんね」



 あのとき、桐生くんの突然の告白は朝の教室で、まだ登校していない人も多かったとはいえやっぱり思った以上に噂は広まってしまった。

 私がすぐ断ったにもかかわらず、そこが全く注目されなかったのは桐生くんの告白そのもののインパクトが大きすぎたからだ。

 さらにそれまでの桐生くんの絶え間ない猛アピールや好意を隠さない態度も相まって、一時は私と桐生くんがつきあっていると勘違いされたりもした。


 でも、あの週の金曜日、急に思い立って帰ってきてくれた先輩と私が正門の前で抱き合ってるのをいろんな人に目撃されてしまい(いろいろあった直後だったからとは言え今思い出しても恥ずかしい)、結局「つきあってる説」はあっさり霧散した。


 まあ、私が二股をかけてたとか、桐生くんの好意を弄んで手玉に取ってるとか、そういう悪意を感じる噂もありましたけどね。


 そういえばその話を先輩にしたら、「お前もすっかり悪女だな」とか「俺も手玉に取られたい」とか訳わかんないことを言われ、挙句の果てには「お前が悪女でもそうでなくても、俺はすっかり虜だけどな」とか言いながら艶を含んだ声で笑っていた。


 私の方が、虜なんだけど。



「桐生ってさ、今は乙葉のことどう思ってんのかな」


 独り言のようにも聞こえる心許ない声で、瑠々がつぶやく。


「どう思う?」

「うーん、今はもう違うような気がするけど。だって、先輩と乙葉の仲の良さを間近で見続けるのしんどくない?」

「そうだよね。私ももう、そういうふうには見られてないような気はしてるんだけど。でも確認するのもちょっと」

「そりゃそうだ」


 瑠々は屈託ない笑顔を見せて、それから何かを企むようにニヤリとした。


「まあ、その1年生の話、何か進展あったらまた教えてよ」


 これで面白いことになったら、これまで劣勢が続いていた桐生くんとの関係性が覆せるとでも思っているんだろう。

 含み笑いを堪えきれない瑠々だったけど、事態はそう面白い方向にばかりは転がらないわけで。





 その後、何回目かの実行委員の集まりのあと残って軽く作業をしていた私は、消え入るような震える声に呼び止められた。


「乙葉先輩。ちょっといいですか?」


 振り返ると、まだ帰っていなかったのか実行委員の1年生女子が、心細そうに緊張した様子で立っている。


 あ、この子は。


 1年B組の実行委員、椎名あかりさんだった。

 そう、この子が桐生くんに熱を上げている(と思われる)子である。


「あれ? 椎名さんどうかした?」


 声をかけられた理由が思い当たらず手を止めて返事をすると、椎名さんは自分で呼んだわりには私の反応にギョッとして言い淀んだ。


「あ、あの……先輩にちょっと聞きたいことが……」

「うん? 準備でわかんないこととかあった?」


 私は3年生でもあるし、しかも実行委員3回目とあってベテラン中のベテランと認識されてしまっている。


 何度も言うようだけれど、この仕事を3回もやる人なんていないのである。

 1回やれば、次は頼まれても断っていいとほとんどの人が思っているし、実際みんなそうしている。1年生でやって、2年生でもやったら3年生で断るのは至難の業だし、そうなると3年でもやることがほぼ確定してしまうから。


 だから2年生のときに「去年やった人がいいと思いまーす」などと名指しされ、断らなかった私の方が珍しいわけで。

 いや、立候補する桐生くんの方が珍しいんだけど。


 まあそんなわけで、作業中にいろんな人からあれこれ聞かれるのは日常茶飯事になっていた。


 椎名さんは一瞬俯いて、何か言おうとして顔を上げ、逡巡してまた俯いて、という謎の行動を何度か繰り返した。


 そして、とうとう意を決したように顔を上げ、見たこともないような強い眼差しで私を見返す。


「桐生先輩が、乙葉先輩を好きだって、ほんとですか?」

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