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第8話 魔王の激怒

 早朝、ダイテツ軍が城砦へ五千の兵を突撃させた。

彼の軍は彼と同じトカゲ族が中心である。


「城砦と言っても所詮ただの木だ! 門は破城槌(はじょうつい)がなくとも、叩き続ければ壊せる!」


 広範囲に広がる兵士たちの背後を、馬で駆けながらダイテツはそう叫んだ。

彼の言葉に呼応するように、兵は雄叫びを上げる。

そしてついに1つの門は、弓の雨を掻い潜った者たちによってこじ開けられようとしていた。

門前では何度も、一斉に組まれた木へ槍や斧を叩きつける。

ダイテツは副将の伝達を聞き、その門の破壊を遠くから眺めた。


______ただの陽動ではあったが、これは幸運。意外にも敵の戦力が少なかったか?


 ダイテツは僅かに安堵の気持ちを抱いた。

しかしその瞬間、門の奥から轟音が響く。

顔を上げたダイテツは、すぐさまその音の正体を確かめた。


「ダイテツ様、あれは一体」


 副将の戸惑いの声と共に、彼の目に飛び込んだのは、人並みにある長さの鉄の大筒であった。

黒い煙を上げるそれは、前線の兵士を立ち留まらせる。


「わからぬ、あれが何をしたのか」


 ダイテツがそう副将に返すと同時、門の中で入れ替わるように再び大筒が構えられた。

今度は確かに、音の正体を捉える。

轟音と共に筒から巨大な弾が飛び出し、門前に立ち止まる彼らの足元にそれは衝突した。

瞬く間に土が抉れかえり、周囲にいた彼らは衝撃に巻き込まれて吹き飛ばされる。

未知の兵器を前に、ダイテツと副将は混乱する兵士たちへ指示を出せずにいた。

そして今度は、別の門から筒の音が鳴る。


「ダイテツ様、兵の士気が乱れております! 早急にご指示を!」


 彼より先に、副将は我を取り戻した。

前線で筒に怯える彼らは、ダイテツの命令を受けることなく門前から少し遠ざかる。

しかしそれを狙っていたとばかりに、砦の上の弓兵は元の数の5倍は増加した。

そこかしこにいた彼の兵は、身体を蜂の巣のようにさせられる。


「撤退! 弓兵と投石部隊は、前線の兵を援護せよ!」


 ダイテツは予定より早く、正午には軍を一旦後退させた。

森の中に逃げ込み、野営する彼の軍は筒の噂で持ちきりになる。

ダイテツもそれは同じで、副将と共にすぐに作戦会議を開いた。


「ダイテツ様、あの筒があっては迂闊に攻め入られません」


 焦りを見せる副将へ、彼は落ち着けというように腕を差し出した。


______投石機と似た機能があるが、弾を直線で飛ばしており威力が桁違いだ。しかし弾の装填に時間がかかるのか、筒を入れ替えていた。これはつまり、物量を増やせば対処は可能ということ。


「ダイテツ様?」


 彼が目を閉じて考えをまとめていると、心配そうに副将が声をかける。


「大丈夫だ、問題ない。それより、カリョウ様とヴァイロウ様にも大筒について伝達するんだ」


「はっ!」


______作戦通り、翌日になればこちらも一万の兵に増加する。物量で攻めることはできるが、それは相手も同じ。この戦いは恐らく、兵士の死体が山になるのは避けられない。


 ダイテツは軍法でどれほど裁かれるか、開戦当初から不安を募らせた。

それから1週間後、不眠不休で活動した彼はふとした瞬間に馬上から身体を落ち掛ける。


「おおっと、ダイテツ殿!」


 しかし突如、彼の背を槍の柄が支える。

それに持ち上げられる最中、ダイテツは意識を取り戻した。

振り返った彼は、背後のカリョウに頭を下げる。


「カリョウ殿、戦闘中にこれは面目無い」


 ダイテツがそう慌てると、彼は小さく笑った。


「ダイテツ殿、目の下のクマが酷いですぞ。少し休まれよ、後は私がそなたの軍も指揮する」


「しかし、あの大筒に震える彼らを鼓舞するのは、慣れた私でなくては」


 彼がそう言うも、カリョウは笑みを浮かべる。


「案ずるな、ヴァイロウ殿が同じものを手にした」


「同じもの……では拠点を破壊したのですか!?」


「うむ、後はお主の作戦通り奴らの選択を待つのみだ……てっ、おい!」


 カリョウによって知らされた勝利により、今度こそダイテツの身体は馬上から崩れ落ちた。


 それから3日後、ボンガス軍は退路を失い止むを得ず、白旗を掲げる。

降伏の情報がカンヨウの耳に入ると、すぐさま捕縛の指示が出された。

こうして、ボンガス軍5000人は捕虜としてアコウ帝国拠点内で処罰を待たされる。

ジメジメとした空気と、激しい雨は薄着で拘束される彼らに苦悶の声を発させた。

そんな彼らの前方にある豪華絢爛な建物から、藁傘を持ってライチョウが現れた。

彼は門兵に指示を出し、ボンガス軍の指揮官1名と副将3名を建物内に連行させる。


「来たか......まぁ座れ」


 カンヨウは入口で立ち止まる4名に対し、目線を一時も離さずそう命令を発した。

彼の言葉をわからなぬとも、4名は指のジェスチャーで意味を汲み取った。

指揮官が最前に正座し、後ろに3名の副将が腰を下ろす。

一息分の間を置き、カンヨウは口を開いた。


「お前らは自ら来たのか、はたまた誰かにこの大陸のことを知らされたのか」


 そう問いかけると、4名は身振り手振りで何かを伝えようとした。

しかし、カンヨウは頭を悩ませる。


「殿下、意図を読み取るのは時間がかかります。しかし、よい案がございます」


 ライチョウは小声で彼へ話かけた。

すると、ニヤリと笑みを浮かべたカンヨウは即刻絵の心得がある兵に筆を持たせる。


「これで、よろしいでしょうか?」


 その兵士が筆を机に置き、2人に伺いを立てた。


「よい出来じゃ、下がれ」


 ライチョウはカンヨウに指示されるまでもなく、布を広げた。

それには4つの国名が書かれており、いずれもアコウ帝国以前に存在したものである。

カンヨウは左上から1つずつ、指を指していった。

全ての字を一周すると、彼は絶句してその場に立ち尽くす。

全ての国名に、心当たりがあるという反応を彼らがしたからだ。

それはつまり、亡命した誰かがアコウ帝国に牙を向けた証である。


「殿下......気を確かに!」


 ライチョウは動揺した彼を、ゆっくりと席に座らせた。

しかし依然として目線の定まらないカンヨウに対し、ライチョウは団扇を仰いだ。

3回ほど風を送った後、彼は深呼吸をして目を開く。

4名の身体をじっくりと観察し、再び命を下した。


「ライチョウ、外の奴らの首を撥ねよ。それと、指に輪っかを付けていないここの2名もだ」


「はっ、しかし虐殺が知れれば民が恐れます......よろしいのですか? それに、指の輪っかとは」


「わからぬか......1つは糧秣が足りなくなる。もう1つは指に輪っかを付ける風習は、滅亡させたホウジョウ国のもの。妻子がいる者は、そう簡単に自害はせん。じっくりと事情を聞きだせるという訳だ」


「あぁ......流石殿下でございます!」


「御託は良い、早く動け! それと、将を呼べ! 論功行賞を早急に済ませねばならぬ」


 こうしてアコウ帝国の軍は、3万を残して首都バグダッドへ戻った。

帰路の最中、カンヨウは馬車の外で不穏な音がするとすぐさまライチョウに原因を調べさせた。

日を追うごとにその頻度は増え、ついには彼自ら馬車の外を頻繁に眺めるようになる。


「ライチョウ、厳罰化と全土の不穏な動きを全て知らせるよう計れ!」


 カンヨウはこの時、毎晩4か国との戦いの日々を思い返していた


______亡霊どもが......許さぬぞ!  我のこの命が尽きるまでに、必ず貴様らを根絶やしにしてやる。

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