表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/23

第6話 将軍ダイテツの初陣

 潮風が吹き通る中、魔王軍とボンガス軍はお互いを認知しながらも、睨み合いを続けた。

その状態で1か月が経過し、魔王軍兵士は作業の合間に私語を挟むほどには、緊張感を無くしていてた。

彼らの陣営は木造の簡易的な砦を越えると、白いテントのような拠点が碁盤の目のように並べられていた。

同サイズのそれが並ぶ中、いくつかの拠点は異なった形をしている。

軍事作戦本部は長方形に建てられ、中には卓上に地図と駒が置かれていた。

他にも、将軍用と魔王の拠点は階段が設けられている。

入口には左右に門番がおり、同じ魔王軍の兵士といえど、許可なく立ち入ることは許されていない。


 そんな魔王の拠点の階段前に、階級の高さを表す勲章を胸に付けた男たちが現れた。

彼らは門番に一礼し、入口の幕をくぐる。

最後尾の男は門番に挨拶はせず、素通りするように中へと入った。


「ダイテツ、参りました」


 一番に拠点内で王へ挨拶したのは、武骨な顔のダイテツと呼ばれるトカゲ族の将軍である。

彼は配置される席の中でも、入口に近い末端の網椅子に腰を下ろした。


「カリョウ、参りました」


 2番目に王から遠い席に座るのは、細目が特徴的なカリョウと呼ばれるエルフ族の将軍だ。

そして1番魔王に近い席には、先ほど門番を無視したヴァイロウというマンモス族の将軍である。

彼は魔王に対しては深く頭を下げ、ゆっくりと失礼のないように腰を下ろした。


「皆の者、そろそろどうだ」


 魔王は肘置きをカチカチと人差しの爪先で叩きながら、集まった将軍たちと軍議を始めた。

隣のライチョウは立ったまま、大きな団扇うちわで王へ風を送り続ける。

少しの沈黙を経て、ダイテツは腰を上げた。

しかしその直後、前にいたカリョウが彼の発言を塞ぐように喋りながら立ち上がる。


「はい魔王様、ここ1か月の偵察で奴らの補給頻度はおおよそ把握いたしました。季節も日差しの上に数秒いるだけで、汗が出る時期でございます。我々が押し寄せ、海岸で布陣せざるを得なくなった彼らはさぞ息苦しいでしょう」


「我のこの喉の渇きは、暑さからではない。軍事状況ではなく、勝算の話をせよ。

私にはもう、時間がないのだ!」


 魔王は肘置きを叩き割り、淡々とした口調で静かに怒った。

一瞬にして場の空気が張り詰め、緊張が帯び始める。

ダイテツは声には出してはいないが、冷徹で冷静な魔王の初めて見る怒りに驚きを隠せずにいた。


「あぁ、それは大変申し訳ございません。では、勝算については......」


 カリョウは重い口を開き、話を続けようとした最中、さらに前のヴァイロウが腰を上げた。


「魔王様、今こそ出陣の許可をください。たとえ、海からこようと、人ごときに我らが負けるはずがない」


 彼は魔王の身体を影で覆い尽くすほどの巨体で、そう言い放った。

象のような鼻を持ち上げ、自信に満ちた振る舞いを見せる。


「うむ、それならば三日以内に作戦を立て、進軍せよ」


 軍議を終え、垂れ幕をくぐる最後尾はダイテツに変わった。

先を行くカリョウとヴァイロウは、談笑を終えて振り返る。


「あぁ、ダイテツ殿先ほど何も発しませんでしたなぁ。何か、思うところはなかったのですか?」


 カリョウはほくそ笑むような顔とは反対に、丁寧にそう話しかけた。


「私は特に……いや、あえて申し上げ」


 ダイテツが話し始める途中、ヴァイロウは高笑いをし始める。


「ガハハ! よさぬかカリョウよ。ガイテツ将軍の子とはいえ、本日が初陣なのだ。簡単に言葉を挟めるわけなかろう」


「まぁ、それもそうですな。ではお二方、明日は作戦本部にてお会いしましょう」


 カリョウはそう言い残し、自分の拠点の方へ歩き始めた。

そして彼と同じように、ヴァイロウも手を振って別れを告げる。

残されたダイテツは、ため息を吐いた。


______私も父上のように、大軍勢を指揮してみたかった。しかし、あの御二方がご健在ならばそれも叶わないか。あぁ、生まれがもう少し早ければ。


 次の日、彼が作戦本部に向かう最中のこと。

背後から蹄の音と、ギコギコという馬車特有の車輪の音が響いた。

段々と迫るそれは、横を少し通り過ぎて止まった。

ダイテツが馬車の方を向くと、魔王と同様の屋根付きの車体が停車している。

そこから2人の男女が降り、彼は呆気に取られた。


______キンヨウ様に、妹君のギンチヨ様!?

一体何をしに来られたのだ。


 目を点にするダイテツの前へ、華奢な体格のギンチヨが迫る。

金髪の髪を靡かせ、上下共に短い紅色の貴妃服を羽織っていた。

彼女は呆然と立ち尽くすダイテツを面白がり、声をかける。


「お主、幼き頃見た覚えがある。名は?」


 我に帰った彼は、鼻先に迫る尖った耳の彼女から距離を取った。


「わ、私はガイテツの子……ダイテツでございます。姫様、何故こちらへ?」


 慌てて返した彼に対し、ギンチヨは「ふーん」と興味を無くした素振りを見せた。

踵を返し、背中越しに彼女は話を続ける。


「ほう、ガイテツの(せがれ)か。ならば、歳は23前後。私と近い歳で将軍とは、頑張ったねぇ」


「それで、何故こちらへ? 戦場は危ないので、離れた方が」


「だって私と兄様は多分、今後一度も生で戦いを見る機会なんてないからね。王家として、それじゃあ締まらないと思わない?」


 彼女は馬車の方へ足を進めつつ、話を続けた。


「まぁ、せいぜい頑張ってよダイテツの倅。とは言っても、カリョウとヴァイロウがいたらただのお飾りになっちゃうわね」


 ギンチヨは嫌味たらしくそう言い放ち、笑いを手で塞ぎ、遠くへ去っていった。

ダイテツはしばらく、その場に放心せざるを得なかった。


______ギンチヨ様、殿下とは似ても似つかない人だ。あの方は何を考えているのか、見当が付かない。

…… いや、しまった!

作戦本部へ向かわなくては!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ