第21話 打ち明ける真実
ダンバは猪を解体後、仲間に合図をして洞窟に戻ろうとした。
「待ってくれ!」
彼らが背を向け、登り始めた直後。
背後からそう大声が鳴り響いた。
______まさか、もう討伐軍が......。
ダンバは冷やりと汗を垂らし、振り返った。
彼は声の主の存在を認識した瞬間、思わず声が漏れる。
「町令......それに姐さんまで!? ......どうしてここに」
彼と仲間は、驚いてその場に立ち尽くす。
......数分後、彼らは見晴らしのいい丘に着いた。
丘の上はレイン全体を眺望でき、ジャンヌたち2人とダンバはそこで話を付ける。
ジャンが一通り説明を終えると、ダンバは「なるほど」と頷いた。
彼の陰で無言のまま、レインを眺めるジャンヌにダンバは意識を度々とられる。
「姐さん、そういう訳なら仕方ありません。さぁ、一緒に逃げましょう」
ダンバがそう声をかけるも、ジャンヌは一点に目を囚われる。
ジャンは彼女の肩を揺すり、話しかけた。
「おいジャンヌ......決めたからここまで来たんだろ? 今更戻るのか?」
彼の言葉に首を振ったジャンヌは、県令の邸宅があった場所を指した。
「......違うけど、あれを見て。あそこは葬儀場はなかったのに」
「あぁ、あいつらが邸宅を襲撃しに行っているんだろう。.,....だけど、俺らにはもうどうすることもできない。勝ったところで、討伐軍が来たら終わりだからな」
ジャンはそう言い放ち、ジャンヌの腕を掴んだ。
連れて行こうとする彼に、足取りは重いがゆっくりと彼女の身体は動いていった。
だがそれでもなお、彼女の視線はレインにあった。
その様子を見ていたダンバは、ジャンの行く手を塞いだ。
「ど、どういうつもりだ」
彼に対し、冷静な口調でダンバは喋る。
「町令、落ち着いてくれ。俺はもう一度、姐さんに決断してほしいんだ。このまま逃げても、後悔するんじゃないか?」
ダンバの言葉を聞き、ジャンはもう一度彼女の顔を見た。
瞳から雫を落とす彼女を知り、ジャンは腕を離す。
ため息を吐きながらも、ジャンヌが言葉を出すまで暫く待った。
「ごめん皆......私の優柔不断に付き合わせて。お願いだ、私の意見は聞き入れないでくれ。このまま強引にでも、遠くに......」
絞り出した彼女の言葉を聞き、ダンバは口を開いた。
「本音で言ってください。俺は、嘘を付かれるのが大嫌いなんですよ」
彼に念を押され、彼女は顔を反らして答えた。
「あぁ、わかった。正直なところ、戻りたいよあそこに。迷惑をかけていようが、なかろうが......ここの皆を失いたくない。でも、私の勝手な行動は失敗ばかりだ。また何かするのが......怖いんだ」
震えた声でそう、彼女は本音を語った。
ジャンヌの話を聞いたジャンは、ダンバと目配せをする。
「......ジャンヌ! 俺もお前に隠していた真実を言おう」
ジャンは頭を下げ、声を張った。
「実は俺が......俺が殺したんだ! ......すまん!」
彼の話に、ジャンヌは「そうか」と小さく呟いた。
ただならぬ空気を察してか、ダンバは彼のフォローに回る。
「姐さん、町令も訳があってしたことだから......その」
「わかっているよ......何も怒ってない。ただ、どうしてそれを今教えてくれたのか......知りたかっただけだ」
「それは......ジャンヌの決断に後出しをするような真似をしたくなかったからだ」
「そう......だよね。でも、私は......これ以上巻き込むようなことしたくない」
ダンバと山賊の仲間たちは、その場に座り込んで頭を下げる。
「姐さん、俺らは命など惜しくありません! もともと、山賊から足を洗って二度目の人生みたいなもの。姐さんに恩返しをしたくても叶わなかった。だから、俺らはどのような未来になろうとお供致します!」
彼らの固い信念を聞き、ジャンヌは目を閉じた。
「ジャンヌ......俺はやはり反対だ。この町にいたら、またお前は前世と同じように......」
「......ジャン、私は」
ジャンヌが何かを言おうとしたその瞬間、隣の山から地響きが響く。
「頭、あれはもしかすると」
地響きの方角に目を凝らすと、そこには人ならざる兵士が隊列を組んで下山をしていた。
彼らの規律のとれた動きは、都令の従える兵士よりも数段体格が優れている。
ジャンヌたちはそれを見て、すぐにどこの軍か察しを付けた。
「あれは討伐軍......予定より2週間早い。どうしますか姐さん、このままだと町に奴らが」
ジャンとダンバは、彼女に決断を迫った。
彼らに視線を向けられたジャンヌは、様々な思いを胸に浮かべる。
______自分の意志と皆の命を天秤にかけるなんて......。
でも決断しないと、もう時間がない。
私は......私はもう、後悔するような生き方なんて.....うんざりだ!




