表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/23

第19話 ダンバとジャンヌの出会い

●ダンバたちのいる山


土を埋め尽くす落ち葉が当たり一面に広がる斜面を、数人の男が登っていた。

彼らは毛皮の布を纏い、手に木の棒を握っている。

棒の先端には石を尖らせたものをくくり付け、簡易的な武器に仕上がっていた。

そして彼らの視線の先にある、斜面を越えた場所。

そこからカンカンカンと金属を叩く音がした。


「合図だ.....来るぞ」


 男たちはそれを耳にした直後、木の陰に間隔を広げて身を潜めた。

視線と手で簡単なやりとりを行っていると、獣の咆哮が響く。

誰かは顔の半分を、慎重に木の陰から出した。

すると、猛スピードで斜面を下っている猪の姿がある。

猪の少し後ろには、木の陰に隠れる男たちと同じような身なりの者たちがいた。

彼らの1人は片手に持つ金属の物体を、剣の鞘で何度も叩き続けている。

そして、誰かの木の陰の横を猪が通り過ぎようとしたその瞬間。

獣の横腹に木の棒が突き刺さった。

猪は片脚をくじき、木に顔を衝突させる。

数秒ほどジタバタと身体を動かしていたが、徐々にそれは弱弱しくなっていった。


「頭、やりましたぜ」


 男は棒を引き抜き、斜面を下るダンバにそう声をかける。

ダンバはもみあげから顎まで、もっさりとはやした髭を触りながら頷いた。

彼が猪を解体しようとしたその時、仲間の一人が焦った様子でダンバに駆け寄る。


「町のはずれで盗み聞きしたんですが、都令が討伐軍を呼びました! どうしますか」


 彼の言葉に、一同はドっと騒ぎ出した。


「まじかよ、やっぱり都令を殺したのはまずかったんですよ。早くここから離れましょう」


______あぁ、俺の命も後少しか。

しかし、姐さんへの恩はこれでようやく返せる。

生まれた時から忌み嫌われる俺たちを、姐さんだけは普通に接してくれた。


 ダンバは目を瞑り、ジャンヌとの出会いを頭の中で遡る。

彼女との出会いは、彼がまだ髭の濃くない時のことだった。

彼らは猪を狩った場所と同じ斜面で、先ほどと同様木の陰に身を潜めていた。

斜面の下の山道には、木の桶で水を運ぶジャンヌの姿があった。

彼女は肩に太い棒を載せ、それに桶をぶら下げていた。

歩く度に背中側と前側でぶら下げている桶が微妙に触れ、彼女は水をこぼしそうになっている。

しかしそれを更に進む一歩で何とか修正し、桶から水をこぼさないように慎重に動いていた。


「頭、あれは高く売れますよ。ただの村娘ですが、あの銀髪と人形のような容姿はまさに......磨けば宝石ってもんだ」


 ダンバは仲間の誰かの口ぶりを、うーんと唸りながら聞いた。


「まだ人さらいを渋っているんですか? もう散々、追い剥ぎをしてきたんですよ。どっちみち捕まれが首が飛ぶんです。なら、大金手に入れて少しでも楽しい山賊生活送りましょうや」


 調子の良い彼の言葉に、他の仲間も同意の声を上げる。


______俺らも人数が増え、山道を通る商人たちを襲う頻度が増えた。

そのせいで最近は奴らに護衛がいたり、襲いづらい道を通られてる。

だからこれからは人さらいが一番だ。

上玉を見つければ、数週間は襲わなくていい。


「仕方ねぇ、これも生きていくためだ。者ども、あの女を捕らえるぞ!」


 彼の号令の声が響いた数秒後、一斉に彼らは斜面を駆けた。

そして彼らの数人は斜面の途中で蹴り上げ、飛びかかって彼女に襲いかかる。

それに気づいたジャンヌは、足を滑らせて桶の水を被った。

空になった桶を頭に被せた状態で、彼女は立ち上がる。

ヒヒヒと不気味な笑い声が、四方八方から彼女の耳に入った。

しかし臆する動きもなく、ジャンヌはゆっくりと桶を持ち上げる。


「へへへ、大人しくしていれば手荒にはしない。さぁ、腕を後ろに回しな」


 彼女の目の前に立つ男は、こん棒を手のひらで叩きながらそう口にした。

ジャンヌはゆっくりと彼に向かって歩き、桶をぶらぶらと持ち続ける。

その姿に、男は従うのかと考えてこん棒を腰まで下げた。

しかしその瞬間、ジャンヌは彼に飛びかかって桶を額に当てる。


「この野郎......1時間かけて運んでた水だぞ!」


 もう一撃、彼女は直撃させようと腕を振り上げた。

だが彼の隣にいた男が、彼女を殴り飛ばす。

飛びかかられた彼は、額を抑えながらジャンヌを睨みつける。


「このアマ、ただじゃおかねえ!」


 彼女に近づこうとする彼だったが、目の前にダンバが立ちふさがった。


「落ち着け、もう女は捕まえた」


 ダンバの大柄の体格を前に、彼は舌打ちをする。


「すいません頭、すぐに売れなくなっちまいました」


 女を殴った仲間の一人は、ペコペコと謝る。

ダンバは振り返り、気絶したジャンヌを眺めた。

彼女の殴られた左目付近には、青い痣が出来ている。

それを見てため息をついたダンバは、口を開く。


「お前ら、洞窟に戻るぞ。この女は数日間、俺らで捕らえておく。痣が癒えたら売り飛ばす、それでいいな」


 彼の言葉に「あぁい」とぽつぽつと返事が発せられた。

そして殴った男は、ジャンヌを持ち上げながらボソっと喋りかける。


「それにしても頭、この女面白いっすよね。男に囲まれてビビらないどころか、殴りかかるなんて」


「......あぁ」


 こうしてダンバとジャンヌの、奇妙な出会いが始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ