第13話 親子喧嘩
●パンドゲア大陸西南、レイン地方にある町ポワラ
ダンバたちが山に登り、数日が経った。
ジャンヌは店と家を行き来しつつも、抜け殻のように覇気のない接客を続けていた。
そしてある日、家へ帰宅した彼女に父親が怒号をかます。
「ジャンヌ、お前によく絡んでいた奴らが都令のご子息を殺し、山賊になったらしいな。噂を聞いたが......本当か?」
父親はそう言いながら、布団から起き上がる。
彼の病気を気遣い、母親は倒れないように身体を支えた。
「いつの話しているんだよ。その件はとっくに片はついてる」
ジャンヌは上の空になりながらも、そう説明をした。
______あいつらが本当にそんなことしたとは......思えない。
県令に話は聞いたけど、ジャンは何故か私との接触を拒絶するし。
絶対に何か、裏があるはずだ。
でも、私は何もできない。
元はと言えば、私が原因だからだ。
これ以上、自分勝手に動いて皆に迷惑はかけれない。
事の詳細が明らかになるまでは、しばらく静観するしか。
「おい、ジャンヌ!」
彼女の態度が気に食わなかったのか、父はさらに声を荒げる。
「なんでお前はそういつも、親に歯向かうようなことをするんだ! まったく、昔は大人しかったというのに」
______歯向かっている訳ではない。
しかし、この世界に召喚された私はこの2人の家族だった。
神が都合よく、17歳までこの家族の一員として生きていたという記憶を埋め込んだ。
つまり、私のこの2人にはこの世界での血縁関係はないし、あったとしても他人である。
ここまで育ててくれたことは感謝しているが、事あるごとに召喚以前の性格との違いに不満を言われた。
「あぁそうかよ。じゃあ追い出すのか?」
彼女は目線を合わさず、そう軽い口調で返した。
そして、父の言葉を待たずにその場を去ろうとする。
「そうは言ってないだろ! おい待て、話はまだ......」
彼は再び声を荒げようとするも、咳き込み始めた。
ジャンヌはそれをも無視し、自室の扉に手をかける。
しかし母親の心配する声が気になり、横目で父の様子を伺った。
すると、彼は口を覆った手のすき間から血を垂らしている。
「......ジャンヌちゃん!」
母親はこれ以上父を刺激しないようにと、手でジャンヌに自室に行くよう促した。
「......クソ」
ジャンヌは舌打ちをし、自室の扉を閉める。
そして、畳まずに放置していた布団の上にダイブした。
顔を枕に埋めて叫び声を打ち消すも、ドタバタと手足を動かす。
しばらくすると布団に身を隠し、縮こまった。
_____私はただ、自由に生きたいだけなのに......なんで求めるほど苦しくなるんだ!
ダンバも親父も、私のせいで......。
彼女が泣き出しそうになる瞬間、布団越しに手がそっと添えられる。
それに気づいたジャンヌは、恥ずかしい姿を見られまいと顔を両腕の中に埋めた。
「さっきは悪かった。俺もジャンヌが心配でついな」
手の主は、父親だった。
彼は母親に付き添われながらも、落ち着いたトーンでそう話を始める。
「どっちにしろ、親父は前の私の方がいいんだろ?」
ジャンヌは吐き捨てるように、彼の話を遮る。
それに対し、父だけではなく母も同時に応えた。
「「それは違う!」」
2人は顔を合わせ、どちらが続きをいうかと目で相談し合った。
「いいかジャンヌ、確かにお前はある日を境に見違えるようにはっちゃけた性格に変わった。最初は私たちも、対応に悩んで変なことを言ったかもしれない。
しかしな......」
「そうよジャンヌちゃん、私たちはあなたが寝た後はいっつもその話をしていたの。問題行動は増えたかもしれないけど、以前よりも元気になってくれて嬉しかった。
その事を毎晩、2人で話し合っていたのよ」
話が終わると、ジャンヌは頭だけを布団の外へ飛び出させた。
そして二人と見つめ合い、しばらく沈黙する。
彼女が何か言い出そうとしたその瞬間、父親は口を開く。
「だけどな......あの悪党どもと絡むのはどうしても、親の気持ちとしては我慢ならない。都令の子でなかろうと、人殺しは超えていい線を抜けている。そんな奴と、お前はまだ付き合いたいのか?」
______あぁ.....こう言われると設定のせいだとしても、心の底まで嫌いになれなくなる。
父と母の根本にあるのは、私を心配してるから。
それでも......私はまだあいつらと直接話すまでは納得できない。
彼女は立ち上がり、扉の前に向かった。
「おい、どこへ」
ジャンヌはそう言われると立ち止まり、背中越しに喋る。
「二人の気持ちはわかった。けど......私にも譲れないものがあるんだ。あいつらが本当に殺したのか......確かめたい。それまでこの家には戻らない。もしあいつらが犯人じゃなかったら、この家に帰るよ」
「待て! 犯人だったらどうするつもりだ!」
「そしたら......”けじめ”をつけるよ。多分私は、また同じことしちゃうからね」
そう言い残し、ジャンヌは自室の扉を閉めた。




