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第12話 チョウジャの計画

●旧国カビナブ(南の国)があった地方、鉄鉱山近辺の町


 重要な資源採掘場が近いこともあり、この町には商人が行きかっていた。

武器であるかどうかを厳重に検査をされた上で取引は成立するが、それでも彼らはここへ集まる。

資源はアコウ帝国の管理する場所以外では、仕入れることは禁じられているからだ。

同じ魔人であってもそれは例外ではない。

そんな町へ、5頭身サイズでありながら落ち着いた歩き方をする少女が訪れる。

外に刎ねたツインテールが特徴的な彼女は、賑わう大通りの人混みを華麗に避けていった。


______はぁ、ちっさいのは嫌なんだけど......こういう時は得だと思っちゃうのよね。


 そう彼女が自身の身長に嘆いていると、目の前から強い風が吹いた。

フードをとられると、童顔が露になる。

もう一度被り直そうとするが、若干蒸れた髪に気づくとそのままにした。

手で扇のように顔に風を送り、彼女は再び歩き出す。


「あ......あの」


 しかし、またしても少女は動きを止めた。

背後から声をかけられ、ゆっくりと身体を振り返らせる。

すると彼女の目の前には、同じぐらいの背丈の男の子がいた。


「何あんた? 私、用があるから忙しんだけど」


 冷たい口調でそう言い放つと、男の子は怯えた動きをする。


______人間の男の子......こんな魔人だらけの町で?

というか、話しかけておいてビビるとかなんなのかな。

私って、そんなに怖くないと思うんだけど。


 彼女は彼の挙動を観察し、あることに気づいた。

彼の背後にある樽の陰には、魔人の子どもが何人か潜んでいる。

その樽を彼は、怯えながらもチラチラと確認していたのだ。


「よかったらその......僕と、付き合ってくれませんか?」


 涙目になりながらそう話を続ける彼を見て、少女は照れることもなくため息を吐いた。


______はぁ、300歳のババアが10歳そこらのガキに告白されるとはねぇ。

まぁ、小人族だから傍から見たらこいつと変わらないけどさ。

仕方ない、一芝居打ってやるか。


 少女はニッコリと笑みを浮かべ、口を開く。


「いいわよ! 私はチョウジャ、丁度男を探していたのよねぇ」


 チョウジャと名乗る少女は、男の子の手を握って歩き出した。


「え......人間だよ僕......なんで」


 彼の話を聞き入れることなく、彼女は路地裏を探して当たりを見回した。


「あなた名前は?」


 細い道を見つけ、少女は少年に目を合わせた。


「僕は......バラン......」


 俯く彼を、力強く彼女は引っ張った。


「バラン......目を閉じなさい!」


 細道に入った瞬間、チョウジャは風を切るように駆け出す。

そしてもう片方の手に緑色の球を持ち、背後に投げ捨てた。

その瞬間、2人の後ろには緑色の煙幕が溢れる。

バランは驚きつつも、彼女の手を放さずに後を追った。

数分後、彼らは後ろにいた魔人の子たちを完全に振り切る。


「ふぅ、いい仕事した」


 チョウジャは額の小さな汗を拭きとり、肩で息をするバランに目をやる。


「あなた、体力ないわね。このぐらいでそうなる普通?」


「だ......だって僕、身体が弱いから」


「あぁ、なら悪かったわ。じゃ、最後にあんたにいい物あげる」


 少女はバランの手を掴み、そこに先ほどと同じ緑色の球を置いた。


「いい? これからもあの子らに酷いことされるだろうけど、その3つの煙球を持っておきなさい。本当に危ない時、それを使って逃げるのよ」


 彼女はそう言い残し、まだ息の荒い彼を置いて立ち去ろうと踵を返した。


______はぁ、何やってるんだか私。

あいつに似ているからって、いじめられてるガキ助けるために貴重な煙球渡すなんて。

でもまぁ......仕方ないか。


 チョウジャは星形の首飾りを取り出し、歩きながらそれを眺めた。

数秒ほどそれを見た後、鋭い目つきに切り替わる。


______あいつも、さっきの子も......全部カンヨウのせい。

私は何年かかろうと、この国が滅ぶまで戦い続ける。


 そう決心を新たにした彼女は、いきなり裾を掴まれる。

振り返ると、バランが煙球を握りしめて彼女を見つめていた。


「何よ、付き合うってのは嘘だからね? 他に欲しいものあっても、ほいほい渡せ......なんで泣いてるの!?」


 チョウジャは不機嫌な顔をコロっと変化させ、ぽかんと口を開ける。


「あ......ありがとうございますチョウジャさん。僕、魔人の方に優しくされるの初めてでつい......」


「はぁ、そういうことね。はいはい、お礼はいいからそれ無くさないようにね。......じゃ」


 彼女は少しめんどくなったのか、先ほどよりも速度を上げてその場から去ろうとした。

しかし、再びチョウジャの背中の裾は掴まれる。


「今度は何!」


 ついに沸点に達した彼女は、怒気を込めてそう声を張った。

威嚇するような顔をしたチョウジャに怯えながらも、バランは口を開く。


「あの......この煙球はどのような材料を使っているんでしょうか? それと、作り方もぜひ教えていただきたいのですが」


______はぁ、これだからガキは嫌だわ。

ちょっと優しくしただけですぐ懐くんだから。

もう忙しいって言ってるのがわからないのか。


 チョウジャは再び走り出し、身体の弱いバランを撒いた。

一息つき、彼女は再び路地裏を入る。

そして、薄暗い場所に着くとカチンカチンと鉄を叩く音が響いた。

その建物の目の前で、彼女は金銭を入れた小袋を取り出す。


______魔人たちから盗んだこの金......この鍛冶屋に頼むのは2回目だけど。

こんなことしても意味がないのはわかっている。

けど、他に今の私ができる手がない。


「おー、チョウジャさん。また剣を作ってほしいのかい?」


 彼女がその建物に入ると、白髪をはやした男がそう声をかける。

30代前半の顔と、白髪のギャップにチョウジャは慣れずに微笑した。


「いや、今回は槍を10本お願いしたいわ」


 そういうと、彼は「はいよ」と気持ちの良い返事を返す。

その後は再び鉄を窯の中に入れ、真剣な顔つきで作業に集中しだした。

チョウジャはというと、前回頼んだ剣10本の仕上がりを確認する。


______あの人に頼み込んで、ここに依頼した武器は置いてもらっている。

しかし、アコウ帝国の法では武器を作るのは禁止だ。

ここは客のことを詮索せず、金銭さえ渡せば武器を製造してくれる。

この店は多分、盗賊などが武器を仕入れるために使っているんだろう。

前来た時なんか、柄の悪いおっさんだからけだったし。

おっさんと言っても、私の方が何十歳も上なのだが。


 彼女は完成した剣を持とうとするが、持ち上げられないと悟り、すぐに元の位置に戻した。


______いつか反乱が起きたとき、この武器をそいつらに渡す。そう思っていたけど、私の非力な腕じゃ何日かかるか。あぁ、出来ることならば直接この手でカンヨウを殺したい。

神よ、私に天命を授けていただけないだろうか。


 チョウジャはため息を吐き、鍛冶屋の入り口まで帰っていった。

扉に手をかけ、立ち去ろうとしたその時。

奥の部屋から爆発音が響き、突風が彼女の肌に波のように伝わる。

咄嗟に伏せたチョウジャは、ゆっくりと後ろを見た。

すると彼女の瞳には緑色の煙が映る。

見覚えのあったチョウジャは、煙の湧き出る部屋へ向かった。


「バ......バラン!? あなた何でここに......というか、私があげた煙球!」


 彼女は段差を上り、部屋の中に入る。

そして、全身に緑の粉を纏ったバランの胸倉を掴んだ。


「あなた、それ手に入れるの大変なのよ? なのに、何してんのよ!」


 怒鳴りつけると、彼は咳き込みながら首を横に振った。


「チョ......チョウジャ? これは違うよ、自分で作ったんだ。まだ、試作品だけど」


「はぁ!? あなたが......嘘でしょ?」


 困惑する彼女であったが、バランの手は切り傷がいくつもあった。


______さっきのこいつの手には、こんなに傷はなかった。

もしかして、本当にこれを見様見真似だけで?


「こらバラン、爆発する系は外でやれと」


 白髪の男は叱りながらも、遠くでカチカチと製造の作業を続ける。


「はーい! すいません父さん」


 チョウジャは未だに思考がまとまらずにいるも、鍛冶屋の息子という情報を知って先ほどよりも彼の言葉に真実味を感じた。


「ねぇバラン......あなた、私を飛行させることって出来るかしら」


 彼女は胸倉から手を放し、煙の中そう喋りかける。

段々と視界が明るくなり、お互いの目がはっきり合わさった。

バランは見つめる彼女に少し照れながら、小さく口を開く。


「わからないけど......作りたいかも」


 彼のその言葉を聞き、チョウジャは顔を背ける。


______ようやく......ハルトの仇を討てる。

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