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第9話 魔人を凌ぐ男

●ランバイの先にある海岸付近、アコウ帝国とボンガス軍の開戦当日


 ダイテツの軍営と城砦、どちらも俯瞰して見える丘には、2人の男がいた。

彼らは目を凝らし、薄暗い森に潜む無数のアコウ帝国の軍を眺めている。

そして、しばらく観察した後は敵対する城砦側へ目線を移した。


「父上、あの軍は一体」


 イルバーンは呟くように、そう喋りかけた。

アルバンは首を横に振り、わからないことを示す。

しかし、数秒ほどした後に口を開いた。


「これは推測だが……海の先から……」


 彼がそう答えようとした瞬間、激しい攻防を繰り広げる城門前でけたたましい音が鳴り響いた。

黒い煙を上げる爆音の正体に、2人は瞳孔を開ききる。


「あのような兵器……初めて見ました」


 だらんとした素振りの多いイルバーンであっても、一瞬にして蹴散らされる兵士の姿は印象的に残った。

そして彼よりも驚愕を隠しきれなかったのは、言うまでもなくアルバンである。

彼は口を半開きにし、心の中に僅かであるが勝機を考えてしまう。


______あの兵器は凄まじい。

あれを量産できれば、アコウ帝国に対抗できるやも知れない。

いや、それは流石に夢見な話か。

だがあのような高度な兵器を有する軍が未だ存在するなら、この地は再び動乱に戻るやも。


「父上……ここまで来たのに、もう去るのですか?」


 イルバーンの隣にいたアルバンは、そう声をかけられた時には茂みの中に足を入れていた。

彼の背を追い、イルバーンは小走りをする。


「イルよ、各地の豪族を集めるぞ」


「えぇ!? そんな面倒臭いこと、本気でやるのですか」


 アルバンは彼の反応を意に返さず、無言で移動を続けた。

その様を見たイルバーンは、空を仰いでため息を吐く。


「……上に誰かいます!」


 ぼーっとした目を瞬時に切り替え、イルバーンは咄嗟にアルバンの方へ勢いよく駆け込んだ。

彼の言葉を聞き察したのか、アルバンは横の急斜面に身体を素早く側転させる。

アルバンのいた場所の上空には、トカゲ族の兵士が3人いた。

彼らの1人は剣を両手で握りしめ、重力を力に乗せるようにアルバンを脳天から突き刺そうとしていたのだ。

その攻撃は間一髪で外れ、枝を真っ二つにした後、土に刃を深く刺した。

剣を地面に突き刺したトカゲ族の男は、着地するや即座に曲げた膝を伸ばす。

同時に抜いた剣を肩に乗せ、背後の仲間1人を斜面の方へ向かうよう顎で合図を出した。


「お前ら、運が悪かったな。この戦いを見た者は、誰だろうと生かして帰らせる訳には行かないんだ。だから……!?」


 突進してくるアルバンに、隊長らしき剣を持った男は余裕綽々とそう語り出す。

しかし笑みを浮かべて迫る彼の姿により、段々と険しい顔を浮かべた。

それに対比し、イルバーンはさらに口角を上げて素手で殴りかかる。

死闘を繰り広げるとは思えない彼の表情は、剣を振り下ろす男に僅かな隙を生んだ。

鼻先を突かれた彼は、10歩ほど後ろにいた槍を持つ仲間に倒れぬよう支えられた。


「馬鹿な……この俺が、人間ごときに吹き飛ばされるなんて」


 鼻血を垂らす彼は、未だに起きたことを信じられずにいた。

拳に血を纏わしたイルバーンは、その場で深く頷いた。


「父上! このトカゲ野郎……めっちゃ硬い!」


 イルバーンは大声でそう叫び、斜面の下にいるであろうアルバンに話しかける。


「父上……死んでいるのですか!」


 彼はもう一度、アルバンに呼びかけた。


「馬鹿者! 早く助けに来い!」


 斜面の下では、アルバンが敵の攻撃を必死に剣で凌いでいた。


______やはりトカゲ族の皮膚は鉄のようだ。私の腕では歯が立たない。


 彼は巧みな剣さばきで攻撃を凌ぎ続け、イルバーンの応援を待った。


______父上、心得あるとか言っていませんでしたかね?

はぁ、せっかく面白くなってきたのに時間がかけられないとは。


 イルバーンは近くにある太い枝を木から折り、先を鋭利に尖らせた。

その様子を見ていた2人のトカゲ族は、口を開く。


「お前まさか、その棒切れごときで」


「......あぁ文字通り、腕試しだ。お前らのその鎧のような皮膚に、俺の力が勝るかのな」


 彼のその言葉に、1人の兵士は槍を握り直した。

剣を構える隊長も、睨みを効かせて立ち尽くす。


「どっちか報告しに行った方がいいんじゃないの?」


 更に煽るイルバーンの言葉で、2人は一斉に突撃を始めた。

彼は後ろに少し引きつつ、槍の距離を測られないように相手から点に見えるよう持ち直す。


「さっきまでの威勢はどうした!」


 イルバーンは眼前に迫る剣を、身のこなし1つで横に避けた。

しかしその直後、剣を振り下ろした敵の背後から槍を持った男が現れる。

男は避ける彼の瞬間を狙い、首元を狙う鋭い突きを撃ち込んだ。

槍使いは肉を絶ち切る感触を知る前に、ニヤりと勝利を確信した。

だが彼の顔色は目の前のイルバーンによって、刹那で変化させる。

意表を突かれたという表情1つ見せず、撃ち込まれた槍を脇の間に挟みこんだ。

柄を掴んだイルバーンは、もう片方の手に握る鋭利にさせた木の武器を呆気なく捨てる。

綱引きのような力比べもなく、一瞬にして槍を奪取した彼は逆にほくそ笑んで見せた。


「ふざけんじゃ......ねぇ!」


 左斜めの位置で空を切らされた男は、こめかみに筋を立てる。

今度は真横に刃を構え、イルバーンの胴に狙いを定めた。

その瞬間、イルバーンは避けながらその男の眼前に再び移動する。

間を作ることなく攻撃態勢に移った彼は、地面を蹴り上げた反発力を腕の先まで連動させ、渾身の一撃を放った。

彼の腕には肉を断ち、背骨を砕き、再び肉を断つ感触が2回伝わる。


「......手応えあり。手合わせ、感謝致す」


 イルバーンは頭を軽く下げた後、ゆっくりと槍を地面に置く。

彼が去ったその場には、棒にくし刺しにされた2人の死体が横たわっていた。

数分後、イルバーンとアルバンは3人の死体を草の下に隠した。


「ハハハっ! 父上、泥だらけではないですか!」


 隠している最中、彼はアルバンの戦闘後の姿を見て笑いを止められずにいた。

いつもは注意するはずのアルバンだが、不覚な行動をとった自分を戒める。


______この失態、二度と起きぬよう耐えるのだ。もう二度と、このような恥は晒さぬように。


 そう心で耐え抜こうとした彼であったが、死体を隠し終えると関を崩したように声を荒げた。


「イル......貴様には王家の者としての態度を、一から学び直させねばならぬようだな」


「え......もしかして、また昔話をする気ですか父上! ......勘弁してくだされ!」

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